〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「……ここだな」

「うん」

「なんかヤだねー気味悪いね〜」

 上から順に、オレ、ヤズー、クラウドだ。

 時刻は午後七時前。

 ヘルスキッチンから通りを隔てた、向こう側では、ごく普通に人々の行き交う時刻だ。

 もっとも田舎町らしく、ふつうの店はすでに店じまいをしており、気軽に飲めるバーや、飲食店がにぎやかなネオンを灯し始める時刻…… 

「ふぅん、見事なまでに無人状態だねェ〜」

 ヘルズキッチンならば、与太者や浮浪者たちが、そこらでたむろしているはずなのに、まるで、廃駅その周辺だけ殺虫剤を散布したように、ひとひとり、虫一匹さえもいない様子なのだ。

「連中が除去作業でもしてくれたんだろ。邪魔は入らんほうがいい。……いくぞ、おまえら」

「オッケー。あー、何か小腹が空いてきた。早く片づけて帰ろ」

「内、埃っぽいよね〜。髪アップにしようかなァ」

 ……緊張感のないことこの上ないが、それくらい余裕をかましているほうがいいだろう。

 ひょうひょうとしたヤズーはともかく、クラウドのほうは、きちんとヴィンセントにカダージュが付いているということで安心している部分があるようだ。

 出掛けに、ヤツの部屋に立ち寄ったときのことを思い出す。

 おずおずと小箱を差し出した。中身はエンシェントマテリアだ。片手の掌で転がせるようなごく小さなものであった。

『……セフィロス…… どうか……気を付けて。彼を救い出してくれ』

 蚊の鳴くような声でそうつぶやいた。

 オレはそいつを預かり、必ず助け出す、と約束した。

 それに頷き返し……それでもまだ不安げに、青ざめた口唇を細い指で押さえていた。逡巡するように、瞳が揺れ……もう一度、部屋を出ようとするオレの名を呼んだ。

 だが、他にかける言葉が見つからなかったのだろう。ヴィンセントはそのまま後の言葉を飲み込み、「すまない……」と謝罪した。

 吸い込まれそうな紅の瞳で……まるで記憶に焼き付けるように、オレの顔をじっと見つめた。そう、今生の別れのような眼差しで……

 いや、考えすぎだろう。ヴィンセントには何の情報も知らせていない。カダージュもつけている。単独で行動することは不可能なはずだ。

 重苦しい不安をうち消すように、ことさら気楽な口調で、

『何を見てやがる?』

 と、からかうように言ってやったが、慌てて頭を振り朱色に染まった頬を隠した。

 ……なんということもない、いつもと同じ仕草だ。それなのに、こんな時に思い出すとは、いささかオレも気が急いているのかもしれない。

  
 
 


 
 
 

 

 汚らしい落書きだらけの、駅入り口を抜ける。

 作りかけのまま投げ出された乗務員室は、ペンキが剥げ、浮浪者どもが寝泊まりしていたと見受けられる痕跡が至る所に見られた。

 そのときであった。

『ようこそ、保護者殿……、そして、ああ……あとお二方居られるようですね』

 突如、頭の上から構内放送が流れた。

 そして、ピュルンという電子音に伴い、レーザー光線がオレたち三人を、一瞬照らした。

「薄気味悪いヤツ……」

 クラウドがヤツの舐めるような猫なで声をそんな風に評した。

「ネロって言ったよねェ。間違いなくマテリアはセフィロスが預かっているよ。これからすぐに行くからさァ、ヴィンセントには指一本触れないで頂戴ね!」

 ヤズーの声は、ぽっかりと穴を開けた地下道に飲み込まれた。

『フフフフ、それでは皆さんが無事到着されるのをお待ちしておりますよ。ああ、ご安心ください。時間切れはありませんから…… どうぞ、ごゆっくり』

「ふざけんなッ! テメーの希望通りエンシェントなんとかは、セフィが預かって来てるんだぞッ さっさと人質のところに案内しろ!」

『これは金髪の少年。ごきげんよう。久方ぶりに貴方がたにお会いできたわけですからね。この前のお礼くらいはさせていただかなくては』

「はぁッ!? んだと、コノヤロー! オメガの事件のときのコト、根に持ってんのかよ、ボケがぁ! ありゃー、自業自得だろうがッ!」

 クラウドがいきり立ち怒鳴りつけた。

『クックックッ…… 相変わらず元気のよいことですね、少年。ああ、ご安心下さい。『内で』持ち主が死ぬようなことがあっても、ちゃんとマテリアは回収できますからね。そうしたらヴィンセントはおうちに帰らせて差し上げますよ』

 茶化すようにそういうとブッと音声が途切れた。

「なに、あれっ! マジでムカツクッ!」

「まーまー、兄さん。あんなヤツ相手に怒っても、よけいにお腹が空くだけだよ」

「スニッ○ーズ食べよ! ヤズーもいる?」

「あ、ちょっ……やめてやめて! 俺、ダイエット中だってば。甘いもの控えてんだから、視界に入れないで」

「ったくアホか、貴様ら。遠足じゃねーんだぞ。とりあえず腹ごしらえは長期戦に備えて突入後にしておけ」

「はいはい」

「俺的には場をなごませようとしてるワケ」

「童貞の初夜じゃあるまいし、この程度のシチュエーションで緊張するような輩が居るか。……よし、行くぞ!」

 ポッカリと口を開けた地下道……そう、まるで化け物の口腔のようなその空間。

 オレたち三人は、何の迷いもなく、その穴に身を投じた。