〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 セフィロス
 

 

 



  

 そろそろ晩飯も終いという頃合いだし、話題にしてもかまわないと考えたんだろう。

「ねぇ、ヴィンセント。でもどうしてあなたみたいな人があんなところに迷い込んだの? 買い物なら表通りだし、行くような用事ないでしょ?」

「あ、あの……そ、それは……」

「もしかして誰かに声掛けられたとか!? そんでついて行っちゃったとか!?」

「兄さんは黙ってて」

「そ、それは……あの……」

 ひどく困惑した口調で言い淀むと、ヤツはちらりとオレに目線を寄越した。なんだっつーんだ。オレは何もしていないぞ。

「あの……その……か、買い物をしているとき……」

 観念したのか、ボソボソと低い声で話し始めた。あまりにも声が小さいのでひどく聞き取りにくい。

「買い物をしているとき……長い……銀の髪をしている人を見かけたんだ……」

「それで?」

 と先を促すヤズー。

「そ、それで……あの……あ、そうだ! そのとき、ちょうど香辛料の店で、前々から欲しかったハーブが手に入って……し、しかも、店員の女性がおまけしてくれて……今日のチキンの香草焼きに使ったものなのだが……」

「う、うん、とっても美味しかったよ。あの……それで……?」

 我慢強く先を促すイロケムシ。感心なことにチビガキどもも、この退屈な話にきちんと耳を傾けているのだ。 

 しかし、いったいどう話が繋がるのだろうか。

「そ、それで……たぶん、少しばかり気持ちが大きくなっていたのだと思う。その……銀髪の人はセフィロスに見えたんだ。背がすごく高くて後ろ姿をほんの少し垣間見ただけだったんだが、間違いなく彼だと思いこんでしまって……銀色の髪は……この辺ではめずらしいし」

 ヤズーがオレのほうを見るので、

「いや、今日はオレは外には出ていない。ほとんど昼寝してたからな」

 と応えてやった。

「ったく、グータラ怠けものなんだから。居候の分際で、セフィは!」

「うるせぇ、チョコボ野郎!」

「もう、ちょっとよして、兄さんもセフィロスも。話の続きがあるでしょう。それで? ヴィンセントはその人をセフィロスだと思っちゃったんだね?」

 母親のようにやさしく確認するイロケムシ。オレやクラウドに対する物言いと天と地ほども差があるのだ。

「そ、それで……ゆ、勇気を出して声を掛けてみようと…… そう決心したんだ……!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ぷっ……あ、あれ? 今、笑うトコじゃないの?ヤズー?」

「カダ……い、いや、多分違うと思う……」

「もう、ヴィンセントってば可愛いんだからァ〜。でも、別にセフィ相手にわざわざ声なんか…… ああ、荷物があったのか」

 のんびりとクラウドのガキが言った。それを目を見開いて、キッとにらみつけたのはヴィンセント本人であった。

「ま、まさか! そんなふうに考えるわけはないだろう! た、ただ、私はセフィロスに声を掛けたくて……ッ! 迷惑でないなら、話をしようかと……ッ!」

「あー、まぁ、落ち着け、ヴィンセント。それで? 声を掛けりゃ人違いだってわかるだろ」

 何故に、いきり立つヴィンセントを、このオレ様が宥めなきゃならんのか……まぁ、それは深く追求せず、とりあえず先を促した。

「あ、あ……それは……その……声を掛けようと……いや、名前は呼んでみたのだが……き、聞こえなかったみたいで…… もっと近くに行けばいいかと思って走ってみたのだが…… その……あの……歩幅が大きいようで……私は……あの……お、遅いから」

「…………」

「…………」

「…………」

 妙な沈黙をフォローしたのもヤズーであった。

「あー、なるほどね。そのセフィロスに似た人を追っかけてて、結局追いつけなくて、気がついたら道に迷っちゃったんだね。やれやれヴィンセントらしいなぁ」

 後を引き取ってヤズーがまとめた。反論がないところを見ると、的を射ていたのだろう。

「何かに夢中になっちゃうと、ついついそっちばっかりに気を取られちゃうんだよね」

「本当に……よい年をして……面目ない……」

「いいじゃない。ま、今回はちょっとアンラッキーだったかもしれないけど」

 なぐさめるようにヤズーが言った。

 クラウドのアホが。こういうときこそ、気の利いた言葉を掛けてやればよいのに。あのバカタレは、まったく。ヴィンセントがオレだと思った人間を追っかけて行ったというのが気に入らぬ様子でぶんむくれているのだ。

「さーてと。じゃあ、これでお開きね〜」

 一息ついたところで、頃合いよくイロケムシが言った。

「あー、食った食った旨かった〜」

 ガキは単純だ。すでに機嫌の直っているクラウドであった。

「じゃ、ヴィンセントは先にお風呂入って休んで。疲れちゃったでしょ」

「え……あ、いや……そんなことは。ヤズーこそ……食事の支度をほとんど……」

「俺は全然。ヴィンセント、昼間から買い物に出てたんだからね。きっとお風呂入ったらすぐに眠くなるよ」

 イロケムシの気遣いに恐縮していたようだが、ようやく納得したのか、おとなしく自室へ着替えを取りに戻った。

「いやー、やっぱ放っておけないんだよね〜、ヴィンセントって〜」

 姿が見えなくなったのをいいことに、しみじみと腕組みしてつぶやくクラウド。本当にコイツは昔から、恋愛対象にはベタ惚れ的にホレる。あばたもえくぼの典型だろう。

  

「ヤズー! 僕、手伝う〜!」

「俺もー!」

「そうか、ありがとう。じゃ、カダは洗った食器を拭いていってくれるか。ロッズは皿を下げて、テーブルの上を綺麗にしてくれ」

 テキパキと指示を出し、ヤズーの野郎は鼻歌なんぞを口ずさみつつ、後片づけを始めた。 それほど遅い時間ではなかったが、熱い湯に浸かっていたせいか、満腹なると、めずらしくもウトウトとしてきた。オレとイロケムシは宵っ張りだ。こんな時刻に眠くなることなど滅多にないのだが。

「セフィロスも一暴れしてきたんだし、今日はさっさと寝なよね。夜遊びはやめておいてね。ヴィンセントも心配するだろうし」

「チッ、口うるせー野郎だ」

 ブツブツと文句を垂れるが、さすがに今日はもう外に出る気になれない。

 奴の言葉に従うようで癪ではあったが、オレもさっさと自室に引き上げたのであった。

 

 

 

 

 ……カチカチカチ……

『……この家が気に入りましたか?』

『…………いいえ』

『それでは、あらためて僕のことを好きになっていただけましたか?』

『…………いいえ』

『……おやおや、それは残念。ですが、長いご逗留ですよね?』

『………………』

『そろそろきちんと答えてくれませんか?』

『………………』

『あなたの名は?』

『何度も言っています。……○○○です』

『……ねぇ、僕はあなたに手荒な真似をしたくはないのです』

『…………』

『それに、決してあなたの意にそぐわぬことを、無理強いしようとしているのでもないのです』

 

 ……カチカチカチ……

『……あなたの名はヴィンセント・ヴァレンタイン。……そうですね?』

『いいえ』

 

 ……カチカチカチ……