墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 では……それは、

『なぜだ?』

 胸の内奥……心がそう問いかける。 

 訊いていいのか?

 とりかえしのつかないことになりはしないのか……?

 

 ごく当たり前の口調で、

「君がルクレツィアの息子だから……」

 と答えられたら、いつものようにフンと笑って済ませることができるのか?

 こいつにとってのオレの存在価値が、すべてルクレツィアに起因しているのだと、そう知ってしまってもかまわないのか?

 もし、オレが『ルクレツィア』の息子ではなかったのなら……?

 つまりヴィンセントとまるきり因縁のない人間なら……?

 

 

「なぜだ……?」

 気づいたら、すでに声が出ていた。

「なぜだ、ヴィンセント」

「な、なにが……?」

「なぜ、おまえはオレと出逢えたことをそんなにも喜ぶ? こうして一緒にいることを感謝しやがるんだ」

 その問いかけに、ヴィンセントは一瞬、口をつぐんだ。その瞬間、花火がパァァとはじけて、彼の瞳が不思議な色合いに輝いた。

 

「……贖罪のつもりだった」

 ヴィンセントが低くささやいた。

 オレは両手の爪を、跡が付くほど深く組み合わせていた。

『贖罪』

 そう……ヤツはいつもルクレツィアに対し、この言葉を使う。

 あの女への『贖罪』。

 

 ……最初からわかっていたはずだ。心を乱すな……!

 動揺している……? このオレがか!?

 

「最初は贖罪のつもりだった。……私は彼女の過ちを糺す勇気がなかった。ルクレツィアのために何もしてやることができなかった」

「…………」

「……せめて、彼女の忘れ形見の君にだけは、幸せになって欲しかったんだ」

 穏やかにヴィンセントがつぶやいた。

「……そうか」

 とオレは応えた。

 ヴィンセントに気づかれぬよう、深く吐息する。

「だが、大人になった君と出会って……少し気持ちが変わった」

 ヤツは意外にもそう言葉を続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

「もちろん、君はルクレツィアの息子だ…… 君がどう思っていようとそれは事実だ。だが……今の私には、そんなことはもう、どうでもよくなってしまっている」

 陽気なゴールドソーサーの音楽が、ゴンドラの流れに合わせるように、遠く近く響いてくる。場違いなほどに明るく楽しげなメロディ。

「きっかけは確かに彼女だったのだろう。だが、今となっては彼女との出会いさえ、君との巡り合わせの序章だったのかと感じることがある」

 そういうと、ヤツは無愛想なオレのツラを見て、薄く笑った。

「だが……君が誰の子供でも、私とどれほど年が離れていたとしても……」

 いつもの低いボソボソ声。だが、ヴィンセントの声音はなめらかでやさしい。

「……どんな形で出逢っていたとしても、私は君という存在を心から愛したことだろう」

「…………」

「君は怒るかもしれないが…… もしも人に、来世というものが約束されているのなら、私は必ず君を見つけられる」

 凪いだ海のような口調でつぶやいた。力むでもなく、誓うようでもなく、ごく当然のことを口にするように。

「次の世で、君がどんな姿をしていようと…… 物言わぬ植物であっても、男性でなく女性として生まれてきたとしても…… 私には君がわかるはずだ」

「ヴィンセント……」

「そして、きっと私は、今と同じように君を愛するだろう。叶うのならば、側にいたいと強く願うだろう」

 そこまで言い切ると、ようやくオレがツラを凝視していることに気づいたのか、慌てて目線を逸らせた。

 

「ああ、なんだか、こんなふうに顔つき合わせているのに…… 私と来たらよく口にできたものだ。ゴ、ゴールドソーサーに居るからかな…… とても面映ゆいのだが、ほ、本当のことだから」

 ヴィンセントは今更ながらに火照ってきたのか、色味の薄い頬をほの紅く上気させた。

 

『次の世で、君がどんな姿をしていようと……今と同じように君を愛するだろう』

 

 ……ざまぁみやがれ、ルクレツィア。

 オレの勝ちだ。

 

「フッ、訊いてみるもんだな」

 と、オレはつぶやいた。独り言のように聞こえたのだろう。

 ヴィンセントが不思議そうにオレを見た。