墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「あーあ、クソ疲れた」

 オレはソファにドサリと腰を下ろした。十分余裕ある大きなソファセットだ。ヴィンセントもリラックスして座ればよいものを、箱入り娘は、戸口のところに突っ立ったままだ。

「おい、なにを呆けている。おまえも一休みしろ。ああ、そうだ、先に風呂を使え、オレは後でいい」

 そういいながら、テーブルに綺麗に並べられたルームサービスのメニューを眺める。

「あ、ああ、そ、そうだな…… 風呂で汗を……流して……」

 ソファの向かいに崩れるように座り込んだヴィンセントは、そうはいいながらもなかなか立ち上がれそうにはなかった。

「おい、何をブツブツ言っている。ああ、先に何か飲むか」

 勝手知ったるではないが、こういったホテルの造りは似たり寄ったりだ。冷蔵庫からビールを取り出し、ヴィンセントにはウーロン茶を放り投げる。

 今度もまたけったいな受け取り方をしたが、ヴィンセントはそれこそ勢いよく一気に飲み干してしまった。

「フン、……なんだ、そんなに喉が渇いていたのか?」

「え……あ……いや……自分でも気づかなかったのだが…… 少し飲んだから……ものすごく喉が渇いていたことに気づいた」

 丁寧にハンカチで口元をぬぐいながら、ヴィンセントはそう答えた。

「走り回ったからだろ」

「いや……たぶん……緊張で……だと思う。あ、あの……セフィロス。本当にすまない……こんなことになってしまって。私が気が回らないばかりに……」

「不可抗力だろ。他のホテルがいっぱいだったわけだからな」

「だが…… ここを見つけたとき……その手のホテルだとは気づかずに……」

「フフン、いい社会勉強になったろーが。クラウドとこういうところには行かないのか?」

「ま、まさか! あ、あるはずがないではないかッ!」

 ヴィンセントはめずらしくもジェスチャー付きで首を振った。

 ……そんなに慌てて否定するところではないと思うのだが。

 ちなみにクラウドはラブホ好きだ。神羅にいたころも、よく面白がって行きたがったもんだ。

 あのガキは、田舎育ちの純朴な子供だったわけだが…… まぁ、田舎育ちと羞恥心(?)が比例するわけでもないしな。

 

 

 

 

 

 

「……こういったホテルは、どの部屋もダブルベッドなのだな……」

 あまりにも当然過ぎることを、ヴィンセントがつぶやいた。妙に感心したような口調が可笑しい。

「そりゃ、基本的に目的はひとつだからな」

「目的……」

 ヤツはそうつぶやくと、ようやく落ち着いた頬の色合いを、再びカーッと真っ赤に染めた。自分の発言を後悔するように、慌てて口元を押さえた。

「あ、いや、失敬。そ、そんなつもりではなくて…… き、君の恋人に申し訳ないなと…… ああ、だが、ただ宿泊するだけなのだから、特に問題はないと思うのだが…… で、でも、その……」

 あたふたと地味な身振り手振りで、オレと付き合いのある支配人を気遣う。

「ハァ? 別に気にする必要はないだろ。アレとは割り切った仲だしな」

「……そ、そんな……」

「あいつも、いちいち気にするような性格ではない」

 ……今はそうではなくなってきているのかもしれないが。と心の中で付け加えた。

「セフィロス!」

 妙に神妙な面持ちで、姿勢を正すヴィンセント。

「そんな物言いをしてはいけない。彼は君のことを心から想っている。ネロとの一件に鑑みてもよくわかるだろう?」

「さぁなァ、まぁ、あいつも客商売だし、オレ以外ともいろいろあるんじゃねーの?」

「支配人の彼は、そのようなふしだらな人物ではない。少なくとも今は、君だけを想っているはずだ」

 と、ヤツはふしだらそのもののオレに説教した。

「あー、ハイハイ。その話はまた今度聞いてやる。それよりメシを取っておくから、さっさと風呂に入ってこい」

「え……あ、そ、そうか」

 すでに十時近くになっている時計を見ると、ヴィンセントは慌てて立ち上がった。

「ええと……夜着や……タオルなどは……」

「ローブだのなんだのは全部揃ってる。寝間着はソレだろ」

 さっさと行けと、手振りで追い払うと、ヴィンセントはおっかなびっくりといった様子で、部屋続きの浴室に消えた。

 オレは適当にヤツの食えそうなものをオーダーすると、ゴロリとベッドに横になった。もちろん浴室鑑賞がよくできる位置に。

 ラブホテルお約束のマジックミラーなのだが、案の定ヴィンセントはまるきり気づいている素振りはない。だが浴室でも肌を隠す主義なのか、しっかりと下肢にタオルを巻き付け、オレの期待を裏切ってくれるのだった。

 まぁ、ヌードが見られないのは多少残念ではあるが、挙動不審そのものの行動を見守るのはそれ以上に面白い。

 そこそこ高級感のある浴室には、ご丁寧にもさりげなくエロアイテムが置かれている。

 ボディソープと一緒にあたりまえのように鎮座している性感ローション。ソープ嬢御用達のビニールマット。

 ヴィンセントは不思議そうな面持ちで、長身の男でも十分横になれる巨大なマットに横臥し、しばらくそのままでいたが、納得のいかない面持ちで起き上がった。

 さらに身体を洗い、石けんまみれになりながら、ローションを手に取る。じっとそいつを見つめているのは、洗顔料とでも勘違いしているのだろうか。

 次の瞬間、ハッとした面持ちになり、ようやくソレの使用目的に気づいたのだろう。きょろきょろとあたりを見回すと、慌ててボディソープの後ろに押しこんで隠してしまった。

 ここまでの行動で、オレはずいぶんと腹を抱えて笑わせてもらった。

 途中で届いたルームサービスを受け取るのに難儀したほどだ。

 

 やがて丁寧に髪を洗った後、ヴィンセントは湯に浸かると、ほどなくして上がってきた。

 もちろん、部屋に戻った今は、きっちりとくるぶしまで隠れるバスローブを着付けてだ。