墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

 

 

 

 

「セフィロス……あの……」

 エントランスでブラついていたオレに、ヴィンセントが困惑した風に声を掛けてきた。ようやく気づいたのだろうか……と思ったが、どうもそうでないらしい。

「フ、フロントに人がいないのだ。……特に用のある場合だけ、ブザーを押すようにとなっていて……」

 ああ、まぁ、そりゃそうだろうな。ラブホなんだから。

 極力店の人間はツラを出さないのがこういった場所のルールだ。

「……あのな、ヴィンセント。社会勉強だ、こっちにこい」

 そういってヤツをパネル画面の前に押し出した。オレの前に立つように促し、オドオドと後ろを振り返る身体を固定して、しっかりと画面を見るように言った。

「あ、あの……セフィロス?」

「この中から好きな部屋を選べ」

 オレはヴィンセントに命じた。

 ラブホテルと一口に言っても多種多様だ。

 真っ赤なシーツにレースびらびらのベッド、ハート型の鏡などがこれ見よがしなホテルもあれば、一見シティホテルとそう変わらないムードのものもある。

 もちろん、それだってラブホなんだからフロントに人はいないし、部屋に入れば様々な仕掛けがあったりするのだが。

 今目の前のパネルに並んでいるのは、どちらかといえば後者のほうだ。部屋の名前もごく機械的に501号室だの、そんなカンジで。

 だが、よくよくパネル写真を見れば、普通の人間ならさすがに違和感を感じるはずだ。

 比較的シンプルな部屋でもベッドは必ずダブルだし、派手めな部屋に至っては極彩色の洪水の中、アダルトグッズのピックアップまである。

 オレはヴィンセントの肩を後ろから押さえるような形で、パネルを見させていたのだが、だんだん細い身体が小刻みに震えだした。

 

 

 

 

 

 

「セ、セフィロス…… あ、あの…… ここ……」

 ビクビクと身をよじって、背後のオレを見上げるヴィンセント。気の毒なほど動揺している。

「ようやくわかったか。ったくおまえはどこの箱入り娘だ」

「す、す、す、すまないッ! ほ、本当に……すまないッ! な、な、な、なんて過ちを……!」

 素っ頓狂な声で大げさに謝罪するヴィンセント。

「おい、大声出すな。ツラは出さなくても奥にフロント担当のヤツが控えてるんだぞ」

「あ、ああッ! だ、だがッ…… 私としたことが……!」

 頬だけでなく、耳たぶまで、茹で上げたみたいに真っ赤だ。勘違いの恥ずかしさと、オレを引っ張り込んだ己の行動に、もはやパニック状態である。

「私としたことが……ッ! し、し、失敬した!! い、今すぐ、どこか他を…… 本当にみっともない真似を……!」

「おい、いいからちょっと落ち着け。見ている分には面白いが、目立って仕方ないだろ」

 ため息にならぬよう、やれやれといった苦笑に紛らわせて、オレは息を吐き出した。

「だが……だが…… セフィロス…… すまない……どうして私はこう……君に迷惑ばかり…… なんでこんなにも愚鈍なのだろう……!」

「フフ、そう自虐的になるな」

 今にも泣き出しそうなヴィンセントを、そのままの姿勢で背後から抱きすくめる。

 別にヘンな意味合いではない。パニックに陥った人間相手なら、こうして体温伝え、身動き取りにくくさせてから、落ち着くよう促すのが有効なのだ。

 ……特に昔のクラウドには役立ったな。

「いろいろ回ってみて他がダメだったんだろ。なら、予定通り、ここに泊まればいい」

「ええッ!? だ、だがッ……ここは……ッ」

 案の定、過剰反応するヴィンセント。

「ベッドさえあれば眠れるだろ」

「そ、それはそうだが……」

「よく考えて見ろ。野宿なんぞよりは遙かにマシだ」

「あ、ああ……でも……かまわないのだろうか? 君に不快な思いを……」

「オレなんざ、昔から飽きるほど泊まってる。今さら気にするな。ほら、さっさと選べ」

 そういって促すと、ヴィンセントは覚悟を決めたかのように、もう一度パネルに向かい合う。さすがにのんきな温泉地だ。この近代的なホテルも、到底元が取れているとは思えないほどの空き具合だった。

「……おい、指が震えてるぞ、フフ」

 とからかってやるが、それに応える余裕もないほどにヴィンセントは真剣な面持ちをしていた。

「セ、セフィロス。ここでよいだろうか? 他よりも部屋が広いし、室内に浴室もあるらしい…… その……それほど派手でもなさそうだし」

 デカイ浴室がどの部屋にもついているのがラブホなんだがな。

 まぁ、そのあたりには突っ込まず、ヴィンセントの選択に任せる。おっかなびっくりセレクトボタンを押すと、自動的に部屋のカードキーがプレート上にあらわれた。

「す、すごい…… す、すごいのだな……こういった場所はとても機械化が進んでいるのだな。あ、ああ、失敬……つい無駄口を……」

「フフ、こっちはおまえを見ているだけで飽きない。ほら行くぞ」

 初めてのお使いではないが、ヴィンセントにカードキーを持たせて、該当の部屋へ向かう。こういったホテル特有の薄暗い廊下だが、幅が大きく取られていて高級感がある。些細なことだがそのあたりの雰囲気はリピーターにとっては重視される部分なのだ。

 途中、若いカップルとすれ違ったのだが、ケロリとした小娘とは対照的に、ヴィンセントはいたたまれない風に身を縮こまらせていた。

 ようやく目指す部屋……カードキー510号室へ到着したとき、ヴィンセントはほとんど卒倒しそうなほど、顔色を失っていたのだった。