墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「ああ、クソッ! けったくそ悪ィ! いろいろ思い出しちまった!」

「セフィロス……そんな……」

 人の良いヴィンセントは、オレを怒らせたことを申し訳なく思っているようだ。別にコイツが何かしたわけでもないのに。

「おまえだってフツーむかつくだろ、あの女には!」

「い、いや……私は……」

「あー、もうこの話は終わりだッ! 今日は疲れたからな。さっさと宿に行って休むぞ。まだ話し足りないってェなら、明日また行きゃいいだろ」

「あ、ああ……そう……だな」

 ようやくあきらめが付いたのか、ヴィンセントは大人しく街に向かって歩き出した。この時間だと乗り物もないのだという。

 もっとも、目下の洞窟から二十分ばかりニブルエリアに入り込んだところに、寂れた田舎観光地があるということだった。

 オレ様は心ならずもあの女に暴言を吐いたことが引っかかっていて……いや、誤解されたくはないのだが、言った内容自体は間違っていないと思っているし、正当な抗議だと考えている。

 だが、ヴィンセントの前でガキのように激したのを後悔しているだけだ。

 なんとなくモヤついた気分が伝わっているのだろう。ヴィンセントが道々、不安げにオレを見遣るのが、さらに苛立ちを煽るのであった。

「何をジロジロ見てやがる。前を向いて歩け。おまえはすぐ転ぶだろ!」

「え……あ、ああ、し、失敬……」

 

 それでも、ひとしきり歩いていると、ようやく宿泊地……そう観光地に到着したのであった。

『コレル山にはこちらから!』

だの、

『帰りはゴールドソーサーで一時の夢を』

だの

『名物、ニブルまんじゅう』(どんなのだ!?)

 だのといった、行楽地特有の宣伝文句が、古びてペンキのはげ掛かった看板に踊っていた。

 それでも、一応、行楽地らしく、垢抜けないレストランに、バー(というより飲み屋だな)、化粧のキツい女のいそうなスナックなどが裏通りにならんでいる。

 表通りには、そこそこまともなホテルが数軒……

 

「おい、ヴィンセント。ホテルは取ってあるのか?」

 とオレは訊ねた。

「あ、い、いや…… いつも……大抵空いているのだが……」

 ヴィンセントは困惑した風に周囲を見回した。

 例の洞窟を回った後だったから、すでに時刻は九時にもなろうとしている。善良な小市民は自宅に引き上げる時間だ。それにも関わらず、街の表通りにはけっこうな人出があったし、レストランで食事を楽しんでいるカップルも多い。

「こんなに人出が多いのは初めて見るな……」

「ああ、ヴィンセント。アレだ」

 オレは、真新しい看板を指さした。

『魅惑の温泉!これで貴女のお肌も十代に若返ります!』

 なんと……聞けば約半年前、源泉がこの地域で見つかったらしい。

 街の中ではないが、道続きの山麓に温泉が湧いているとのことだ。当然、街にもその湯を引くようになった昨今、大賑わいというほどではなかったが、それなりに地域振興に役立っているらしいのだ。

「しばらく来ない間に…… そうか……」

「まぁ、仕方ないだろ。部屋が空いていればいいがな」

「あ、ああ。すまないが、君はそこで待っていてくれたまえ。私のほうが地理感があるから……」

 ヴィンセントの墓参りは年中行事だと言っていた。それならば、多少の心当たりはあるのだろう。

「……わかった。腹が減ったな。そこらでメシ食ってるから、さっさと見つけてこい」

 オレがそういうと、ヴィンセントはしっかりと頷いて走り出した。……トロトロとだが。

「おい、転ぶぞ!」

 と声を掛けると、一端立ち止まって振り返り、ジッとオレを見つめ返すと、またトロトロと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 適当に腹ごしらえし、店を出ると、ちょうど上手い具合に、ヴィンセントと合流できた。

 あれから、かれこれ一時間近く経っているから、人通りも大分減ってきていた。それなりに難儀したのだろう。いつもは蒼白い頬が、軽く上気し、息が弾んでいた。

「別にそんなに慌てる必要はないだろ」

「あ、ああ……でも、君を待たせていると思うと…… それに、なかなか見つからなくて、裏通りまで探し回ってしまって……」

「それで? どこか泊まれそうなところはあったのか?」

 いざとなりゃ、オレなんざ野宿でもなんでもできるが、ヴィンセントには向いていないだろう。多少狭かろうとオンボロだろうと、屋内でベッドがありゃそれでいい。

「あ、ああ、大丈夫だ! 思いの外近代的な作りのホテルを見つけた。二人部屋が中心とのことだから、ちょうどいいと思う!」

 わずかながらにも手柄顔で言うのが可愛らしい。相手に対し『可愛い』という感情を抱くのは、なにも年下相手だけには限らぬのだと知った。

「そうか。そいつはよかったな。おまえ、メシはルームサービスにしろ。オレも一緒に食うから。……この店は不味いぞ」

 そういってやると、ヴィンセントは喉の奥でクスッと笑った。

 

 ヴィンセントに促されるまま、表通りからひとつ奥の道に入る。すると健全なレストラン街というよりも、酒飲みが喜びそうな店があちこちに並んでいるわけだが……

 ヴィンセントがオレを連れて行ったのは……

「ここだ、セフィロス」

 そのホテルの妙に近代的な入り口には、ご丁寧に『空室あり』という看板がでていた。

「今、フロントで部屋を頼んでくる。……その……せっかくふたりで来たのだし、シングルふたつよりも、ツインのほうがいいと思うのだが……君はどうだろうか?」

 いや……どうだろうかって……

 その前にこのホテルは……

「いや、オレはツインだろうがなんだろうが、どうでも……」

 っていうか、ダブルしかないだろ。こういうところは。

「そ、そうか! わ、わかった!」

「あ、おい、ヴィンセント」

「ああ、支払いのことなら任せてくれたまえ。私は君より年長なのだから……!」

 妙に使命感あふれたツラをすると、ヴィンセントはさっそうと……そう、この男にしては、めずらしくも毅然とした態度でフロントに向かっていった。

 

 ……天然なのはわかっていたが……コイツ、ラブホも知らねーのか?

 エントランスの雰囲気と『空室あり』の看板でわかるだろ……フツー……