墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 太陽がコレル山に沈みかけるころ、のんびりとした海列車はようやく終点に到着した。

 ちなみに『終点』というのは街ではない。

 ……コレル山の南口。つまり登山ルートの麓に到着するのだ。基本的にこの列車は観光列車ゆえ、終着点がこういった場所でもおかしくはない。

 一旦街にゆくのかと思っていたのだが、ヴィンセントは先に目的地を回るとのことだった。

 今回はヴィンセントの旅行なのだし、オレはただのオマケだ。ヤツの行動に口出しする気は毛頭無かった。

 

「セフィロス……その、明日も来るから……君は先に街で休んでいてくれても……」

「アホか。体力なら貴様の十倍はある。オレのことを気にする必要はない。おまえの思うように行動しろ」

 オレがそういうと、ヴィンセントは少し困ったような面持ちをしたが、コクリと頷いた。

 

 終着点で列車を降りたのは、俺たちふたりだけだった。まったく冗談のようだが本当にふたりきり……

 それだけへんぴな場所なのだ。

 

「ここはコレルエリアとニブルエリアのちょうど境目になるんだな」

 辺りの風景を一通り見回しつつオレは言った。

「ああ……だが、目的地はややニブルエリア寄りかな。……こっちだ、セフィロス」

「よし」

 ヤツに導かれるままに歩いていくと、山の麓から細い路が狭隘な谷間に続いている。そこは天然の洞窟になっているようで、かなり奥まで入り込めるらしい。

 ヴィンセントが何の迷いもなく足を進めるところを見ると、コイツは何度かこの場所を訪れているのだろう。

 ……ああ、そういえば、クラウドが、ヴィンセントの墓参り?は、年中行事だと言っていたか。 

 土と岩で構成される入り口付近を抜けると、洞窟に響く足音が変わる。

 

 カツーンカツーン

 

 というエコーがかかった冷たい響きは、水晶が共鳴しているらしい。

 

「ほぅ、中に入ると大分気温が低いんだな」

「あ…… 寒いだろうか、セフィロス? よければ私の……」

 慌ててジャケットを脱ごうとするヴィンセントを、あきれ口調で押しとどめた。

「オレはなんともない。おまえこそきちんと着ておけ、風邪を引くぞ」

「あ……ああ。そ、そうだな……君は強いから。ええと、もう少し奥なのだが……」

 おずおずと申し訳なさそうに告げるヴィンセント。それに

「それならサクサク歩け、サクサク!」

 と言ってやると、彼なりに早足でトロトロと歩み出した。

「ふぅん。……水晶の洞窟か。フフン、なかなか珍しい情景だ。キレイなもんだな」

「そうだろう? ルクレツィアの思念はずっとこの美しい空間に留まり、現世を思っていた」

「ルクレツィア…… ああ、DG連中とやりあったとき、最後にオレたちの前に現れた女か?」

「ああ。彼女は君の……」

「オレを生んだ人間の女だろ。前に聞いた」

 オレの物言いに引っかかるところがあるのか、ヴィンセントは少しだけ悲しそうな表情をした。

 

 

 

 

 

 

「ここだ…… この中に……」

 ヴィンセントは荷物を傍らに置くと、まるで何かに引きつけられるようにフラフラと前に進んだ。

 ……一番奥にあった水晶の前に……

 その水晶は他のものとは異なり……そう、その大きさといい、色合いも……

 淡いエメラルドに輝くそれは、洞窟の天井から地面をつなぐほどのものであった。

 ヴィンセントは、愛おしげにその水晶に触れると、そっと双眸を綴じ合わせた。

「ルクレツィア……」

 ヤツはまるでそこに目当ての女がいるように声を掛けた。

 もちろん、実際にルクレツィアという女の姿が見えるわけではない。だがそいつの思念の名残のようなものは感じられる。きっとヴィンセントは、昔日の姿を思い起こして語りかけているのだろう。

「ルクレツィア…… 久方ぶりだな……」

 こいつがどれほどその女を想っていたのかが、わかるような切なげな声音だった。

「ルクレツィア…… 君には見えているだろうか? ほら……セフィロスが来てくれている」

 そう言って彼はオレに視線をよこしたが、見えもしない女相手にどの面下げて挨拶しろってんだ。だいたいこっちの方から頭を下げるいわれはない。

 しかし、むっつりと仏頂面で立ち尽くすオレのことなど、まるで気にしないように、ヴィンセントは実体のない『ルクレツィア』に語り続けた。

「ルクレツィア……君にはずいぶんと心配を掛けたと思う。私の力が及ばないせいで……本当にすまない」

 ……なんだそりゃ?

 さすがに突っ込んでやろうかと思った。

 宝条とツルんだ女科学者が、ヴィンセントに謝罪することはあっても、ヴィンセントの方から謝る理由なんざ無いだろうに。

「だが、もう……私は大丈夫だ…… 今、少しずつ……強くなれているような気がする」

 白く細い指が、愛おしげに水晶柱を撫でた。

「セフィロスやクラウドや……大切な家族と友人たちに支えられて……とても幸せなのだ。あのとき……死にかけた私を、君がカオスと融合させてくれたから…… 君が私を生かしてくれたから…… 今、こうして居られる」

「おいおい、そいつは初耳だなァ」

 途中で茶々入れしてやると、ヴィンセントはハッと現実に戻されたように何度か瞬きした。もちろん、オレの声はちゃんと聞き取れているのだろう。

「え……と、言ったことがなかっただろうか? 宝条に殺されかけた私は、ヤツの人体改造には耐えられなかったんだ。だが優秀な研究者だった彼女が、カオスを私の肉体に融合させた。カオスは強い生態エネルギーを秘めている…… だからこうして……」

「アホか、てめェ! このお人好しが! その『カオス』とやらのおかげでエライ目にあったのはどこのどいつだ? さんざん思い悩んで苦しんだんだろう!? 恨み言のひとつでも言ってやれ!」

「セ、セフィロス……! そ、そんな……私は恨みなど……」

 慌てて水晶柱から離れると、こちらにやってきてオレの腕にしがみつくヴィンセント。なんとか宥めようとする野郎の手をふりほどいて、オレはズカズカと水晶柱に近づいた。