墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 オレとヴィンセントが向かい合わせに座った窓際の席……

 視界に真っ青な海の情景が映し出された。おそらく地理的に、この部分はコスタ・デル・ソルとコレルエリアの境界線にあたる大陸棚なのだろう。

 ちなみに『大陸棚』とは、大陸の周縁に分布する、きわめて緩傾斜の海底で、平らな棚状の地形をいう。海の中では比較的浅い部分になるのだ。

 それゆえ、この場所では、陽の光も通すし美しい魚たちを見ることもできるのだ。

 ヴィンセントが、このローカル線に乗りたいと考えたのはこの情景を見たかったからなのだろう。

 

「ほら……! セフィロス……」

 彼は窓枠に張り付くと、勢い込んでオレに声を掛けてきた。

「これが見たかったんだ……! 話には聞いていたのだけど、一度も乗ったことがなかったから……! ああ、綺麗だな…… 淡く煌めくあの魚はなんていうのだろう? 海には不思議な生物がたくさんいるのだな……」

 オイオイ。ガキの夏休みの宿題かよ?

 だが、こんなふうにヴィンセントがはしゃぐところは初めて見た。そういや、ゴールドソーサーのゴンドラをお気に入りだとクラウドが言っていたか。

 ヴィンセントの実年齢を考えれば、おそらく幼少期はそういった乗り物や娯楽が少なかった時代なのだろう。コイツの性格上、大人になってから娯楽施設に一人で遊びに行けるキャラではない。

「ほら……セフィロス。まるで水族館の水槽に、列車ごと飛び込んだようだとは思わないか? なんて美しいのだろう……」

 うっとりとヴィンセントがつぶやいた。

 そう言っている間にも、不思議な色合いの熱帯魚が群れをなして車窓を横切る。

 桜色の天然珊瑚もこの海ならではのものだろう。その間を、竜の落とし子に似た愛嬌のある生物が、フワフワと漂っていた。

 

「はは……なんて愛らしい」

 ヴィンセントが感嘆の吐息と共にささやいた。

「……フフ、そうだな。なかなか見る機会のなさそうな情景だな」

「君もそう思うだろう……? あ、ああ、ほら、あれ!」

「ああん? なんだ、どこだ?」

「あの大きな岩の向こう…… 透明の足の長い不思議な生物が……」

 視界を遮る巨岩を一生懸命指さして、オレの注意を促すヴィンセント。

「あー? イカとかじゃねーの?」

「いや、頭は尖っていなくて……なんだろう……クラゲなのかな? 透き通っていて……キラキラ七色に光るんだ」

「ここは大陸棚だからな。日射しもあるし、照り返しで輝く習性があるヤツもいるんじゃないか」

「ん……また、あの岩の向こうから顔を出すんじゃないかと思うんだが……もう一度見られれば……」

 暗い血の色の瞳が、海の光を留めてキラキラと輝く。まるで極上のボルドーワインのような色味。いや、それ以上に楽しそうなヴィンセントの表情はそれこそ『極上』であった。

 

「フフン。残念だがそろそろ上映会は終了のようだな」

 前方に陸地につながる連結パイプが見えたのだ。あっという間に無機質な鉄の空間に吸い込まれる列車。

 あからさまにつまらなそうなヴィンセントに、つい声を出して笑ってしまった。

「フフッ……どうせ、帰りも通るんだろ? そうがっかりするな」

「ん……ああ……そうだな」

「…………」

「あ、な、なんだろうか?」

 オレのまともな直視にようやく気づいたのだろう。彼は急に小さくなって、声までも低く潜めるのだった。

「……いや、ずいぶんと楽しそうだと思ってな」

「え……あ……いや、その……つい……失敬した」

「謝るトコじゃねーだろ。なんだ、もっと早く言えば、ウチの連中が喜んで連れてきてくれるだろうに」

 二本目のビールを一気に空けてそう言った。

「あ……いや、そんな……大人げないこと……」

「そこらのオッサンがねだるならウゼーだけだろうけど、おまえが言うならクラウドだのジェネシスだのはいつでも付き合ってくれると思うぞ」

「……あ、あの、その……彼らには話さずにいてくれたまえ」

 ゴホンと咳払いをすると、居心地悪げに身を縮こまらせるヴィンセントであった。

 

 

 

 

 

 

 海列車はそのままコレルエリアに乗り上げる。

 遠目にだが、ゴールドソーサーが見えた。

「おい、ヴィンセント。ホレ、あれはゴールドソーサーだぞ。おまえ、行ったことはあるのか?」

 と訊ねた。

 クラウドから昔行ったことがあると聞いていたが、敢えてそう問いかけた。目に見えて彼の表情が明るく輝いた。

「あ、ああ! 大分……以前にだが。クラウドがゴンドラに誘ってくれて…… 夢のような光景だった……!」

「ああ、ゴンドラな。ゴールドソーサー一周するヤツだろ」

 乗ったことはないが、そういったアトラクションがあることくらい知っている。確かあの施設の目玉だったはずだ。

「そう!そうなのだ。あんなもの……一度も乗ったことがなかったから……すごく興奮してしまった……! ゴンドラの移動中に花火が上がったり、チョコボレースが見えたり。ああ、そうだ! クラウドもあのレースに出たことがあるのだ。見事優勝を果たしていたな。……とても可愛らしかった」

「フッ、ハハハハ。チョコボのガキが本物のチョコボに乗るワケか。まぁ、あのガキは運動神経はいいからな。民間人相手ならソコソコ勝負にはなるだろ」

「ふふふ、また君はそんな言い方を…… 一度しか行ったことはないのだが、本当に楽しかった。窓から眺めた情景はずっと心に残っている。ああいったところは……非現実的で……人工的な施設だからこそのよさというのがあるのだろうな」

「……また行きたいのか?」

 何気なくそう聞き返すと、ヴィンセントはちょっと慌てた風に手を振った。

「え……あ、ははは。そんな……ひとりで行くようなところではないから。カダージュたちが興味があるようなら、連れてきてあげたいかな…… とても楽しい場所だから……」

 そんなふうにごまかしたが、とても気持ちを惹かれるのだろう。ヴィンセントは車窓からずっとゴールドソーサーを眺めていたのだった……