墓 参
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 古びた車窓からここちよい風が吹き込んでくる。

 まだコスタ・デル・ソルを出発したばかりだから、差し込む日差しは厳しい。ブラインドを下ろせばよいのだろうが、私は景色を見ることを優先したかったのだ。

 列車はコスタ・デル・ソルのサウスエリアを進み、海底トンネルに入る。コレル山を経由するルートもあるのだが、それだと乗り換えが必要で煩わしかったのだ。

 なにより、この列車なら、短い区間だが海底を通るのだ。子供のようだが私はそれを楽しみにしていた。

 

 ……ルクレツィアの最後の思念がとどまった場所……

 コレルエリアとニブルエリアのちょうど中間に位置する場所に、水晶で覆われた洞窟がある。そこに彼女は留まっていた。セフィロスを追っていたときは、特にそれを強く感じた。

 時が経ち……すべての厄災を退けた今、彼女の思念はもはやほとんど感じられない。

 だが、年に一度……私はこの場所に足を運ぶことにしていた。かつて心から愛したルクレツィアに、こうして生きていることを感謝し、報告するために……

 そして今回は、彼女の息子セフィロスが、すばらしい青年に成長し、私たちの家に居ること。私の心の支えになってくれていること……その話をしたかった。

 

 ルクレツィア……

 なんという不思議な巡り合わせなのだろう。

 あの小さかったセフィロスが、とても賢く素敵な青年に成長して、私たちを守ってくれている。いっときは敵対したことだとてあるものの、今はクラウドや私の側に居てくれているのだ。

 あの頃……まだ幼すぎた彼に、君の記憶はほとんどないのだろう。

 だが、DCに引き起こされたあの一件…… 最後の最後に、私とセフィロスは同じ映像を見ていた。

 そう……君が手を差し伸べ、私と彼を光と熱から守ってくれた、あの場面を。

 セフィロスは、私の忌むべき秘密を耳にした後も、私を忌避したり卑しんだりすることはなかった。それどころか私の懊悩を知り、以前よりもずっと気に掛けてくれているようだ。

 ……彼が私の息子だったら。

 いや、そんな埒もない空想にふけるのも、いい加減にせよと君は笑うかも知れない。そう、もはやそんなことはどうでもよいのだ。

 私は心から彼のことを大切に思っている。私のような非力な人間がいかに想おうと、あの優れた人には何の足しにもならなかろうが、わずかなりとも長く生きている年長の人間として、役立てることがあるのならこの命も惜しくはない。

 私の生命はただ…… そう、ただ今在るこの時に……クラウドやセフィロス、そしてヤズー、ロッズ、カダージュ。ジェネシス始め、大切な友人たち。

 彼らとともに長らえるために存在するのだ。

 

 ポオォォォォ

 

 と高い汽笛が鳴った。

 そろそろ海に入るのだろう。見れば指定席中心のこのエリアは、ガランと静まりかえっている。何の変哲もないこの時期に、旅行気分の海列車に乗る暇人など、まずはいないのだろう。

 自由席でもよかったのかもしれないが、私はしばしこの緩やかな気分を楽しもうと、車窓に目線を戻した。

 

 そのときだった。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、こんなところに居やがったのか。チッ、無駄な時間を掛けた」

 お世辞にも上品とは言い難い物言い。

 だが、見上げた青年は彫像のように整った容貌をしていて……

 ああ、だが、彼がどうして……?

「指定はガラ空きだな。まぁ、こっちのほうが静かでいい」

「セ、セフィロス……? 君……セフィロス?」

「なんだ、その化け物でも見たようなツラは」

 不満げにそういうと、なんの躊躇もなく、私の向かいの席にドサリと腰を下ろした。

「セフィロス……? き、君……どうして?」

「あ? オレがおまえと一緒に行っちゃマズイのか? 乱交パーティーでもあるのか?」

「な、なにを言っているのだ!」

「言ってみただけだろ。女子供じゃあるまいし、この程度の冗談で赤面すんな」

 そういうと、セフィロスは「ホレ」と私に飲み物を放り投げた。

 ちょうど喉が渇いていたところでありがたかったのだが、反射神経の鈍い私は格好良く手にすることが出来ず、全身で抱きしめるような受け取り方をしてしまった。

 その様子にセフィロスが喉元でクスッと笑う。

「あ……紅茶……?」

「おまえ、よくそういうの飲んでんだろ。酒がよければ、ビールもチューハイもあるぞ」

「あ、い、いや、私はこちらのほうがいい。……そ、その、あ、ありがとう」

 話は終わったとばかりにくつろぐセフィロス。

 だが、私としてはどうしても訊きたくて……気になってしまって。

「あ、あの、セフィロス……? これからどこに行くのかは……知っているのだろうか?」

「当然だろ」

 と、迷いのない即答。

「そ、そうか……その、ならば私としても、とても嬉しいのだが……」

「おい、勘違いするなよ? ただちょっと気が向いただけだ。暇だしな」

「あ、ああ……」

「家だとガキどもがうるさいし、小姑野郎が朝っぱらからキンキンとけたたましいし……」

 さも鬱陶しいというように、手振りを交えてセフィロスは言った。

「そ、そんな言い方…… あ、では家の者たちにはきちんと言付けてあるのだな? いきなり君が姿を消したら、皆が心配して……」

「あー、言ってある言ってある。心配すんな」

「な、ならばよいのだが……」

 今ひとつ信用できないのだが、これ以上セフィロスを問い詰めるのもはばかられた。

 彼はもうずっと大人で……いや、そんなことよりも私たちの頼みであの家に居続けてくれているのだ。彼の行動を規制する権利など私にはない。

「しかし、まぁ、列車とは…… アナログだな。目的地までどれくらいかかるんだ?」

「え……あ、五時間弱くらいだと思う。今からなら夕方には着くかと……」

「五時間!?」

 セフィロスの素っ頓狂な声で、私は飛び上がりそうになってしまった。

「え……あ、ああ……そうだが」

「五時間って……おまえ…… フツー、飛行機だろ?コスタ・デル・ソルにはエアポートもあるんだし」

「……その……す、すまない」

「まぁ、別にオレがどうこう言うことじゃないが…… 物好きな男だな」

 呆れ果てた様子のセフィロスの言葉に、頬に血が上るのを感じた。

「で、でも…… その……この列車は短い間だが、海の中を通るのだ。海底のパイプラインだから……」

 何とか説明している間に、列車は待ちに待った海底空間に突入した。

 最初は地下鉄のような印象である。外からの採光がなくなり、列車の中の頼りなげなライトが頼りだ。

 

 だが、それもほんの数分。

 あとは……ほら……