The beginning of Autumn
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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Interval 〜05〜
 ヤズー
 

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 居間に、皆が揃ったところで俺は口を開いた。

 ……もとい開こうとしたが、それを兄さんに遮られる格好となったのだ。

 

「セフィのせいだッ! セフィがヴィンセントに意地悪ばっかするからだッ!」

「なんだと、もういっぺん言ってみろ、クソガキ!!」

 手にした新聞紙を、ガラステーブルに叩き付けて怒鳴るセフィロス。なんだかひどく苛ついているように見える。

「だってそうだろッ! この前の入れ替わり騒動のときだって、ヴィンセント泣かせたじゃんかッ!」

「ふざけるな! オレの身体使って好き放題してくれたくせに、何を言いやがるッ!」

「で、でも、それは……ヴィンセントもいいって……合意の上だったもん!!」

 必死に弁解する兄さん。先の一件では兄さんのほうが分が悪い。 

 

「だから貴様は無神経だと言うんだ。あのお人好しのことだ。おまえに望まれたら嫌だとは言えないんだろ! それに貴様とオレでは身長もウエイトもパワーも、何から何まで異なるんだぞ!? そいつをちゃんと念頭に置いていたのかッ!?」

「……そ、それは……でも……ヴィンセント、ヤダって言わなかっ……」

「この節操なしが! 愛人の身体に、別の人間が触れてもかまわないというわけか? だったら、もう何の遠慮もいらんようだな!」

 叩き付けるようにセフィロスが叫んだ。思わずビクリと竦んでしまいそうな激しい物言いだった。

「……な、なにそれ! そんなこと一言も言ってないだろ! それに『愛人』なんて言い方よしてくんないッ!? ヴィンセントは俺の大事な……」

「はーい、そこまでッ! ふたりが言い争いしたって仕方ないでしょ?」

 オレはやや茶化した物言いで、割って入った。

 兄さんの方から因縁をつけられたとはいえ、セフィロスの逆襲は……そうまさに『逆襲』と呼ぶべき反論は、いつもよりも数段厳しかったからだ。

 

「……まぁ、兄さんにも反省点はあるだろうけど、ヴィンセントはもともとすごく繊細な人だから。フツーの人なら、笑って済ませられることをずっと気にしてしまうような人だからね。そういった資質も関係しているだと思うよ」 

「ヴィンセントもセフィくらい図々しければ、病気になんかならないのに!」

「このクソガキ! おまえのようにツラの皮の厚い野郎に言われたくないッ!」

「ああ、もう、いい加減にして!」

 ふたたび言い争いに突入しそうなふたりを、ややキツい口調で窘めた。これではいつまで経っても話が先に進まない。

 

「ちゃんと聞いてくれる? ふたりとも!」

 そう前置きをしてから、あらためて口を開いた。

「……客観的に見て……まず、兄さん。あなたはヴィンセントにくっつきすぎ。恋人なんだろうし、愛しているのはわかるけど、もうちょっと余裕をもって接してあげないと。兄さんのペースに合わせようとすると、あの人、振り回されちゃうでしょう?」

「……う……俺、そんなに余裕なく見える?」

「見えるに決まってんだろうが、このボケナス!」

 すかさずセフィロスが口を挟んだ。

「悪いけど、かなり切羽詰まって見えるね」

「見えるよ」

「うん、見える」

 これまで黙って話の経過を聞いていた、ロッズとカダージュまでもが異口同音に賛同した。

 兄さんは悄然と項垂れた。

 

「……それから、セフィロス」

「なんだと? 貴様、このオレにまで何か意見しようってのか?」

 剣呑な空気を醸しだし、俺を睨め付ける。だがそんなことに、いちいち怯える俺ではない。

「そうだよ。大切なヴィンセントのことだからね」

 きっぱりとした口調でそう告げる。

「フン、聞くだけ聞いてやる。……『お願い』があれば言ってみろ」

「じゃあ、『お願い』。……あなたはね、もうちょっとヴィンセントにかまってあげて。意地悪しないで、静かに側に居て、やさしい言葉をかけてあげて」

「ちょっと待った〜ッ! なんでセフィが『側に居て』で俺がくっつきすぎなんだよ!」

 にわかに頭をもたげて叫ぶ兄さん。気持ちはわかるが、致し方がないのだ。

 ……ヴィンセントが俺の理解者で居てくれるように、俺も殊の外彼については心に留め置くようにしていた。いや、そうでなくとも人間観察は俺の特技だ。

 

 

 

 

 ……兄さんの恋人だというヴィンセント。

 ただ、それは世間一般で言うところの『恋愛感情』とは異なって見受けられる。

 兄さんのヴィンセントへの想いはしっかり『恋愛』なのだろう。だからこそ、無茶だとわかっていても衝動が抑えられないこともあるのだろうし、ヴィンセントが他の誰かに興味を示すと途端に不安になるのだ。まさしく典型的な恋人としての在りようだ。

 

 だがヴィンセントは違う。

 それは兄さんとセフィロスの関係を見ても一目瞭然だと思う。昔の話とはいえ、セフィロスと兄さんはずっと一緒に居た仲なのだ。ヴィンセントの立場から見れば、複雑な想いを抱いても不思議はないはずなのに、不安に思っている様子もないし、ましてや嫉妬したり猜疑心を持つことなど、毛ほども感じ取れない。

 むしろ、クラウド兄さんとセフィロスが仲良くじゃれあっているのを、嬉しそうに眺めているくらいだ。到底現在の恋人という立場ならあり得ない態度だと思う。

 さらに付け加えるなら、日常生活で、兄さんが同じ年頃の女性と歓談している様子すら、微笑ましく見守っているのだ。

 

 上記に挙げたヴィンセントの行動は、おおよそ『恋人』という定義から外れるのではなかろうか。

 ならばヴィンセントは兄さんを思っていないのかと問われると、首を縦に振るべきではないと感じる。

 ヴィンセントはいつでも兄さんを見守っているし、大切に接している。事実、兄さんにはとてもやさしく、どんなワガママを言われても、やわらかく受け止めてやっている。

 そう……『恋情』というよりも『愛情』と呼んだ方が似つかわしい雰囲気なのであった。