〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<52>
 
 セフィロス
 

 

 

「セフィロス……!」

 門番よろしく部屋の前に仁王立ちしていたレノが、化け物を見たようなツラをしやがった。

「イロケムシの様子を見に来たついでに立ち寄っただけだ。二三日で向こうへ戻るつもりだしな」

「そ、そうか。まぁ、用事が済めば、ミッドガルになんざ居たくないよな」

「そのとおりだ。帰りは飛行機で送れよ。それから今回の報酬も忘れるな」

 ヴィンセントの愚図りだの、面倒くさいことは一切省いて端的に返事をした。もちろん、オレ自身もこんな場所に居るよりは、コスタ・デル・ソルの田舎町のほうがいい。

「ルーファウスの具合はどうだ?」

 眠っているなら、わざわざ起こして別れのあいさつをするまでもない。

「ああ、大分落ち着いたぜ。摘出手術も思ったより楽に済んだそうだ。会ってってくれよ」

「……寝ているなら、わざわざ声を掛ける必要もないだろ」

「起きてるよ。ただ今はツォンさんが……」

「んなことァ、どうでもいい」

 オレは形だけのノックをし、さっさとドアを開いた。

 個室ではあるが、華美ではない病室に、ルーファウス神羅は居た。まだ額にも包帯が巻き付けられ、片腕にはギプスが施されている。

 ……軍人をやってりゃ、こうした怪我人を見るのは日常茶飯事なのだが、相手がルーファウスだからだろうか。痛ましげなその姿がひどく新鮮に感じられた。

「セフィロス……」

 まさかオレがのこのこやってくるとは思わなかったのだろう。心底驚いたように目を見張った。

「よぉ、具合はどうだ。あーあー、おまえも怪我人だろ。相変わらずの腰巾着だな」

 後半部は寝台の傍らで、片腕を釣りながらルーファウスに仕えている、ツォンに言ってやった言葉だった。

「……医者が大げさに巻き付けただけだ。私はもう問題ない」

 ツォンのヤツは無愛想にそういったが、壁に立てかけてあるのは杖だ。ネロの撃った弾丸は、タークスのリーダーだったこいつの大腿部を貫いた。

「セフィロス、君の家族たちの具合はどうだ」

 穏やかな声音でルーファウスが訊ねてきた。

「はぁ?オレの家族ゥ? そいつは誰のことを言ってるんだ。ちなみに、イロケムシならすぐに退院予定だし、ヴィンセントは相変わらずメソメソ病が治らんだけだ」

「ふっ……君は相変わらずの人だな。……だが、本当にありがとう、来てくれて」

「見舞いにか?」

 調子よくそう訊ねた言葉に、ルーファウスは一呼吸以上時を置いて、ふたたび口を開いた。

「ヴィンセント・ヴァレンタインを盾に取るようなやり方をした……私の勝手な願いに応えてくれて」

「ルーファウス様」

 つらそうな口調のルーファウスを気遣うツォン。

「別に。だが礼なら金で頼む。あの家は人間が多くて食費がかかるそうだ」

 半ば冗談でもなくそう言ってやったら、ルーファウスはベッドに横たわったまま、怪我をした脇腹を押さえつつ苦笑した。

「……それに、例の薬での負傷だのなんだという理由がなかったとしても、おまえが直接、ヴィンセントに事情を話して頼んだとしたら、お人好しのあいつは、すぐさま協力を申し出ただろうよ。クラウドだのオレたちだのを説得してな。……本当に手間のかかる男だ」

「……ふふ、不思議な人だな、彼は。私はあまりゆっくりと話時間はなかったのだが…… 私の周囲にはいなかった人物だ」

「まぁ、そうだろうな」

「……君もだがな、セフィロス」

 ルーファウスはそういうと、大きく息を吐き出した。こいつの怪我もけっこうひどかった。あまり無理をしてしゃべるのはよくない。

「ルーファウス。そろそろ休んだ方がいい。オラ、タークスの親玉。おまえもさっさと部屋に戻って寝ろ。だいたい松葉杖ついて、ふらふら徘徊するなんざ迷惑この上ねーんだよ」

「い、いや、私は……」

「ふふ、セフィロスのいうとおりだ。私も少し疲れたので眠ろうと思う。おまえもきちんと休息をとって早く治してくれ」

「はい…… ではルーファウス様。セフィロスを送り出したら、そうさせて……」

「おまえが先に出ろ。相変わらず鬱陶しい男だな。おい、レノ。こいつをさっさと病室に戻せ!」

 ドアの前に突っ立っているはずのレノに声を掛ける。ツォンよりは遙かに察しのいい赤毛男は、なんだかんだと言い募る先輩を、まぁまぁと宥めつつ、ぐんぐんと引き連れていってくれた。

 

「やれやれ。あの男は相変わらずだな。昔はおまえのほうが親離れできていないガキかと思っていたが、むしろあいつが子離れできていない母鳥だな」

「ハハハ…… 最近は……そう感じることもあるかな。だが、やはり私はツォンにとても頼っているから……」

「頼れる野郎が身近に居るのは幸せなことだ。少なくとも信頼関係が築かれていなければ、頼るなどという発想はできないはずだからな」

 オレはそう言いながら、ルーファウスの枕元に寄った。さきほどまでツォンが頑張っていた場所だ。

「セフィロス……?」

 軽く腰をかがめ、距離を縮めたオレを不思議に思ったのだろう。ルーファウスはぎこちない体勢でこちらを見上げた。

 

「……オレはおまえを恨みに思ったことはない。『神羅を恨んでいない』と言えるほど寛大な男ではないがな」

「セフィロス……」

 クラウドと同じ色の瞳が、にじみ出してきた涙で海のように揺れる。

「……おまえはいい男になったな。会えてよかった」

 無愛想な男という自覚はあるが、多分このときは微笑くらいは浮かべられたと思う。

 まだ痛々しい包帯の取れない額……だが、わずかに素肌が覗く部分に口づけた。

 多分……ルーファウス相手にした中で、一番心をこめたキスだった。

「セフィロス……」

 綺麗に整った面が、ぐしゃりとゆがんだ。惜しげもなく涙がこぼれ落ち、頬に当てられたガーゼを濡らした。

「……泣くな。早く良くなれ」

「……ああ。ありが……とう……」

 

「あー、ハイハイ。そこまでそこまでだぞ、と! あー、ほら、社長。まだ腹式呼吸しちゃダメっすよ〜。セフィロス、ほら、出て出て!」

 ひょいとツラを出したレノが、不躾にもオレをシッシッと追い払った。

 まぁ、いいタイミングだ。相手が誰であろうと、泣かれると面倒だから、な。

 ルーファウスに別れのあいさつを告げ、オレはイロケムシの病室に戻った。さっさと引き上げるぞと告げに、だ。