〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<48>
 
 クラウド&レノ
 

 

 

「おい、クラウド! ったく、おまえはよ! 一幕だけで、元の席に戻れと言ったはずだぞ、と!」

 ボックス席に入ってくるなり、レノがぎゃんぎゃんと怒り出した。

 あ……そうか。二幕目からは皇太子殿も元の席に戻るって言ってたっけ。

「あ、ああ、悪ィ…… いや、だってさ!セフィとかジェネシスとか……もう驚くことばっかりでうっかりしてたんだよ」

「……まぁ、気持ちはわかるがな」

 しぶしぶレノが頷いた。俺はヴィンセントも聞きたくてたまらなかったであろうことを訊ねた。

「な、レノ。あれ、どういう冗談なんだよ。なんか舞台裏であったの?」

「まぁな。でなきゃ、ちゃんと本物のオペラ歌手が舞台に立ってるぞ、と」

 そういいながら、心配そうなヴィンセントを気遣うように彼は言った。

「ああ、大丈夫ッスよ。確かにオペラ団の団員が襲われたのは事実ですが、セフィロスたちのおかげで皆軽傷です。ただ、やはり舞台に上がるとなるとね。足を引きずって上がるわけにはいかないですから」

 驚いたことに、レノの話によると、先ほどの舞台、正規の配役の役者以外に、かなりの数のアンダーが入っていたらしいのだ。素人の俺にはまったくわからなかった。

 主役級のふたりについては、アンダー自体の用意がなく、一か八かという大勝負だったらしい。

「じゃあさ、セフィやジェネシスの歌とかって、口パク?」

 と俺は興味本位で訊いたのだが、ふたりともぶっつけ本番で歌ったのだと言う。

「まぁ、フィガロの結婚は有名なオペラだからな。だが、アレ、観客に気づかれない場所に、歌詞カード置いてたらしいぞ、と」

「へぇ……すごい強心臓。でも、セフィロスって歌、歌えたんだな。ちょっとびっくりした、俺」

「ああ、オレもヤツの歌なんざ聴くのは初めてだぞ、と。ジェネシスは神羅にいた頃から芸達者だったがな」

「うん……」

「あ、ああ、イカン。長話してる場合じゃないぞ、と。ええと、ヴィンセントさんはまだ出ないでください。一般客が出て、完全に安全が確保できてから、退席してもらうッス」

 レノの説明に、ヴィンセントが素直に頷く。……というか、心はまだ舞台に酔っているのだろう。

「それから、クラウド。おまえはさっさと皇太子殿たちのところへ行け! 上手く理由を考えるんだぞ、と!」

「ええ〜、もういいじゃ〜ん」

「アホか! こいつが最後のイベントなんだぞ、きちんと終わりまで務めろよ、と!」

「わかった、わかったよ! じゃあ……ヴィンセント、行くね」

 俺がいやいやそう声を掛けると、彼は気を付けて、というように、軽く二の腕に触れてきた。

 それに頷き返し、俺はため息混じりにヴィンセントらのボックス席を退場したのだった。

 ……ちぇっ。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセントさん、大丈夫ですか? 少し熱いですかね?」 

 オレはめずらしくも頬を上気させている彼に、声を掛けた。彼は慌てて頭を振ったが、疲れで発熱してもおかしくはない。

 注意深く様子を伺いながら、話を続けた。彼には申し訳ないのだが、期せずして有名役者となってしまった彼らの脱出に付き合ってもらわなければならない。

「あの、疲れているところ、申し訳なんスけど……」

 そこまで言ったところで、廊下のほうからドカドカと迷惑な騒音が聞こえてきた。

 ノックもせず、乱暴に叩きつけられる扉。

「あー、クソ、疲れた!」

「やぁ、女神。俺の晴れ姿、見てくれたかい?」

 まったく異なるセリフを口にしながら、ボックス席に入ってくる二人。

 もちろん、セフィロスとジェネシスだ。ヴィンセントさんは舞台の余韻が残っているのか、すぐに彼ら二人に反応できなかったようだ。

「おめーら、騒がしすぎるんだぞ、と。ヴィンセントさんが驚いているだろ」

「ああ、失敬、女神。君の無事な姿を見て、ついはしゃいでしまったよ。そうそう、さっきの舞台、どうだったかな? あれは、フィガロからスザンナへの恋の歌だけど、俺は君に向かって歌ったつもりだよ、女神……」

 ヴィンセントさんの手を取り、その甲に口づけるジェネシス。クラウドから愚痴混じりで聞いてはいたが、ジェネシスは本気でヴィンセントさんを想っているらしいのだ。

 セフィロスのほうは、ごしごしとタオルで顔やら髪やらを拭きながら、あたりを見回している。

「おい、レノ、何か飲み物ねぇのか? あ〜、クソ暑い!」

「え、ああ、さっき買った缶コーヒーが……」

 そういうと、セフィロスは遠慮会釈なくオレの手からコーヒー缶をひったくり、ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。

「クソッ、舞台の上っつーのは、あんなに暑いもんなのか?」

「ああ、ライトがもろに当たるからなぁ。シャワーを浴びたけど、なんだかまだ汗臭いような気がして心配になるよ。大丈夫かな、レノ?」

「なんで、いきなりオレに振るんだよ、と」

「女神にそんな不躾な質問をするわけにはいかないだろう?」

 いけしゃあしゃあと言ってのけるジェネシス。ヴィンセントさんはなにやらソワソワと捜し物をしていたが、目的のメモ帳とボールペンを発見し、気が急いたふうに文章を書き付けた。

『セフィロスもジェネシスも、本当に素晴らしかった。最初は吃驚しすぎてしまって、平常心ではいられなかったが、すごく感動した』

「……チッ、つまんねーことを言うな、ヴィンセント。誰が好きこのんであんな真似……」

 舌打ちするセフィロスの物言いに、ジェネシスは遠慮無く覆い被せるように言葉を続けた。

「君に誉めてもらえたなら、舞台に立ったかいがあったよ。なぁ、セフィロス」

「……おまえ、人の話聞いてるか?」

「心配性の女神に説明しておくけど、オペラ団に死傷者はいないよ。ただ主要な人物たちがケガをしてしまったので、ああいった形になっただけさ。彼らには申し訳なかったけど、君に晴れ姿を見てもらえた俺としてはラッキーだなァ」

 セフィロスの氷のような眼差しもなんのその。

 ジェネシスは舞台に立っていたときよりも、ずっと興奮した面持ちでヴィンセントさんに語りかけるのであった。

「……おい、レノ。この阿呆は放っておけ。これで今回の三者会談の日程はすべて終了……それに間違いないな?」

 セフィロスは、空になったカンを偉そうにオレに押しつけつつ、そう訊ねてきた。

「ああ、コレで終了だ。皇太子殿たちは護衛兵に守られて帝国ホテルに戻った。……ミッドガルに住まう、一般人の喝采に送られてな」

「……成功か」

「ああ、綱渡りだったがな。大成功だよ、セフィロス」

 万感の思いを抱きながら、オレは素直にそう答えた……