〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<47>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「あ、あの人、何やってんの……」

 思わず口から、しゃがれた声がこぼれ出た。

 ……ジェネシス……

 元々目立つのが好きな男だったけど…… まさか、オペラハウスで歌まで披露するとは……

 あ、いや、落ち着け、俺。

 当然、ヤツが出張っているのには、理由があるはずだ。本来なら、オペラ団の青年役者が、あそこで歌っていたはずなのだから……

 

 ウオォォォォ!

 

 という歓声で、俺はふたたび舞台に注意を戻した。

 ガタッという耳障りな音は、何とヴィンセントが立ち上がろうとして、椅子にぶつかってしまった音だった。

「ちょっ……ヴィンセント、危ないよ」

 俺は彼の手を取ろうとしたが、ヴィンセントは舞台に釘付けだ。

 先ほどよりも驚愕した様子で、両手で口元を押さえていて、しかもその手までが震えているのだ。

「ヴィンセント?」

 彼に釣られるように立ち上がり、俺も舞台を眺めた。

 

 ジェネシス扮するフィガロとその恋人スザンナのアリアが終わり、次にスポットライトを浴びたのは、至極重厚かつ上品な衣装を纏った貴族風の男だ。これがスザンナに横恋慕した『伯爵』なのだろう。

 役柄上、召使いのフィガロよりも、華やかなのは当然なのだが、まさしく王侯貴族といった出で立ちがまぶしいほどだ。

 

 そう、荘厳でありながらも、煌びやかな衣装に、長い銀の髪がよく似合っていて…… って……

 

 こ、今度はセフィかよ〜〜〜ッ!

 伯爵役はセフィロスだ!

 

 ジェネシスよりも少し低い、張りのあるバリトンが、朗々と歌い上げる。

 

 

 

 

 

 

 セフィ……歌なんて歌えたんだ…… 

 神羅時代、あんなに一緒に居たのに、セフィロスが歌を歌うところなんて、見たことがなかった。

 舞台のライトが、長身の彼を映し出す。銀の髪にはじかれた光が七色に輝き、本当に不思議な光景だ。

 ああ、そう、小説なんかに使われる『夢のような』という表現は、きっと目の前で展開されているこういう場面にふさわしいのだろう。

 

 ジェネシスもそうだったけど、セフィロスも舞台化粧を施されている。

 ただでさえ、目鼻立ちの整った美形なのだ。だが、メイクによってさらにそれが強調されていた。

 筋の通った……それでいて決して険しくはない、高い鼻梁。切れ長の双眸を覆う、うるさいほどの睫毛……薄い口唇には淡く紅を落としているのだろう。

 セフィってば、あれだけ長身で屈強な人なのに、ひどくなまめかしく感じた。

 

 ……ちなみに、俺もこの状況には驚いたが、ヴィンセントなど、さっきから突っ立ったまま、舞台を凝視している。さっきまでは口元を覆っていた手を、今度は胸もとで握り合わせて。

 ここはボックス席だから、立っていても問題はないんだけど……でも……

 ヴィンセントの様子。

 頬が真っ赤に染まっていて…… そりゃまぁ、俺だってドキドキしてるけど、何もそこまで興奮しなくても…… 

 今のヴィンセントには、はっきりと彼らの姿は見えないはずなんだけど。

 

 セフィロスの……もとい伯爵のソロは、悠然と……かつ華やかにホールに響く。

 魅了されたのは、ヴィンセントだけではないようだった。

 

 セフィロスのソロが終わり、スザンナとフィガロが退場し、舞台は一瞬闇に返った。

 そして、伯爵家の園庭という舞台設定が、今度は街中といった風に作り替えられる。この間、実に数秒なのだ。

 観客は声一つ立てず、舞台の行方を見守っているようだが、パラパラとせわしなくパンフレットを手繰る音が耳につく。この幕間に、さきほど登場した二人の青年のプロフィールを確認しようということなのだろう。

 

 ……ああ、でも、残念ながら彼らの写真はないからね、コレ。

 あの人たちの、今回のイベントにおける立場は『用心棒』だから。しかもヘラヘラ詩人のほうなんかは、招かざる闖入者ですから。舞台に立つ予定なんざ、まるきり無かったのだから……

 

 ヴィンセントがようやく、ストンと腰を下ろした。

 いや、力が抜けて椅子に頽れたと言った方が正しいだろう。深いワイン色の双眸は、ぼんやりと虚ろで、かすかに上気した頬がひどく色っぽく見えた。

「ヴィンセント、大丈夫?」

 彼の手をとって声を掛けると、ハッ、と俺を見つめ直す。

 まるで、たった今、俺が側に居たことに気づいたように。……ちょっと傷つくぞ。

 ヴィンセントは、俺に

『どうして彼らが……?』

 と訊ねようとしたが、もちろん、俺にだってわからない。

 

 そんなこんなで、俺たちはフィナーレまで観劇し、舞台は拍手拍手の大喝采で幕を閉じたのであった。