〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<44>
 
 レノ
 

 

 



 帝国ホテルの道なりに、近代的なオペラハウスが建っている。

 もともとのオペラハウスは、大分古びたものであったのだが、そこはメテオ事件でめちゃくちゃに壊された。もっとずっとミッドガルの旧市街地よりの場所だ。

 それを往年の意匠をそのままに、近代手法で建築したのがこの場所なのである。

 近代的と表したのは、内部……例えば水回りやサービスエリアのみの話で、それ以外の場所は快適さを失わせないレベルで、当時の形状を復元した。

 建築費としては、まったく新しいものを作るよりも、むしろ金がかかるそうだ。

 だが、ルーファウス社長は、持ち出しをしてでも、過去の意匠にこだわったのである。

 

「ヴィンセントさん、オレたちはこっちッス」

 彼の身柄の安全に配慮して、一般の出入り口とは異なる場所から入館する。こちらはスタッフや関係者の出入り口なのだ。

 後、半時もしないで、開幕だから、今や楽屋裏はてんやわんやだと思う。

『念のために周辺を確認する』

 といって、セフィロスとジェネシスが楽屋裏に残り、オレはヴィンセントさんをエスコートして特別席に連れて行った。

 張り出しの二階席で、コーナーごとに個室仕様になっているのだ。

「よ、ご苦労さん。アンタら、大事な客人だからな。しっかり守ってくれよ」

 と、彼の席の出入り口で張っている下位エージェントに声を掛けた。もちろん、彼らも訓練を受けた神羅兵なのである。

 オレはボックス席の中まで彼の手を引くと、きちんと椅子に座らせた。なんせ彼の目はよく見えていないのだし、館内のライトはそう明るくない。

 彼はオレに向かって、

『ありがとう』

 というように、小首をかしげると、大人しく着席してくれた。

 ジェネシスが言っていたが、彼は芸術方面にも造詣が深いのだという。オレなんて、オペラと演歌の区別もつかないありさまで…… まぁ、今回はヴィンセントさんを守るという重大な使命があるから、爆睡しないようがんばるつもりだが。

「ヴィンセントさん、一応、二階席用のオペラグラス渡しておきます。でも、歌とかもあるんだろうから、見えなくてもそんなに気にならないと思うッス」

 気配りで言ったセリフに、彼は笑みをこぼし、それでもオペラグラスは受け取ってくれた。ボックス席の出入り口には神羅兵、そしてこの中にはオレが居るんだ。

 ふと気がつくと、ヴィンセントさんは手渡されたパンフレットを、何とか読もうと顔を近づけていた。ああ、そりゃあ演目くらい知っておきたいのだろう。

 

「あ、すいません、気づかなくて。ええと……なんだ、『フィガロの結婚』とか書いてありますよ。結婚式の話ですかね」

 自らの無知を遠慮無く露呈したオレに、ヴィンセントさんは苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 トントン

 と、開演を待つ間に扉がノックされた。ここは専用のボックス席だから、他人が入ってくることはあり得ないはずなのだが。もちろん、出入り口には神羅のガードマンを配してあるわけだし。

「レノさん、すいません……」

 と、オレよりも頭一つ大柄なガードマンが、申し訳なさそうに顔を出した。

「なんだよ、と。怪しいヤツでも見つけたのか?」

「あの……ええと、ルーファウス社長がみえておられて……」

「……は?」

 聞くともなしに、耳に入ってきたのだろう。傍らのヴィンセントさんも驚いた様子で瞳を見開いた。

「社長は病院だぞ、と。まさか、こんなところに……」

「あ、い、いえ、正確には違っていて……」

 大男、総身に知恵は回りかね……

 のたとえではないが、若手ガードマンの説明が悪かったのだ。

「もう、ちょっと、どいてよ! 今、俺がルーファウスなんだから! 社長だぞ、コルァ! アンタらはおとなしく通してくれればいいんだよ!」

 賑やかな怒鳴り声が聞こえると、未だに困惑して立ち尽くすカードマンを、子犬が飼い主の腕をすり抜けるように、ぐりぐりと身体を押し込み、『ルーファウス社長』が侵入してきた。

「……なにをやってるんだよ、と……」

 オレは息を切らせているクラウドを、呆れ果てた面持ちでじろじろと眺めた。

「なんだよ、レノ。アンタがヴィンセントの護衛!? ちょっ……頼りないなぁ! セフィは何してんだよ! ああ、ジェネシスはどうでもいいけど」

 耳を塞ぎたくなるような大声で、目が見えないヴィンセントさんでもすぐにわかっただろう。彼は椅子から身を乗り出して、クラウドの姿を探した。

「あッ! ヴィンセント〜ッ!! よかったァ〜。 ねぇ、大丈夫? 怖かったでしょ? ああ、俺がずっと側についていられれば、アンタにつらい思いをさせずに済んだのに……!」

 そういいながら、両手でヴィンセントさんの頬を包み込み、遠慮無く口づけを繰り返すクラウド……

 あの〜

 フツーに、となりにオレが立っているわけなんですが。

 ったく今時の若い者は……

 もちろん、ヴィンセントさんのほうは困り顔だが、そんなことを気にするクラウドではないのだ。

 もっとも、今日一日、朝から離ればなれで、彼の身を案じていたとあっては、無理もないと考えてやるべきであった。

「えー、ゴホン!」

 無茶な咳払いをして、オレは会話に割り込んだ。

「気持ちはわかるけどな、クラウド。もうちょっとの辛抱だろ。『ルーファウス社長』の姿が見えないと、皇太子殿らが不審に感じるぞ、と」

「うっさいな! ちょっと抜けてきただけだろッ! あ、そーだ、ヴィンセント、俺たちの席にこない? あ、大丈夫、大丈夫! 俺たちの場所もボックス席だし、ここより広いし!」

 強引な誘いに困惑顔のヴィンセントさん。クラウドは相変わらず相手の反応を確認しないお子様だった。

「それに、皇太子殿はなんか舞台挨拶するんだって。出演者じゃないのにね。たぶん、エデュケーションスクールでいうところの『校長先生のお話』だよね!」

「あのなぁ、クラウド。皇太子殿はな……」

 丁寧に訂正してやろうとした俺の物言いを遮って、クラウドは言葉を重ねた。

「だから皇太子殿は一幕目は別の場所にいるんだよ! ま、俺的にはヴィンセントを皇太子殿に自慢したいところなんだけどさァ。好きになられたら困っちゃうもんね」

 ヴィンセントさんはクラウドの、調子のいいしゃべりを何とか止めようと手振りで知らせるのだが、ヤツにはまったく通じていないようだった。

「アホか、ダメに決まってんだろ、クラウド。わざわざこの席にはきちっと護衛を付けているんだし、セフィロスたちにもここの場所を知らせてある。ヴィンセントさんがいなかったら、彼らが戻ってきたとき大騒ぎになっちまうぞ、と」

 俺の物言いに鼻にしわを刻む。

「……いいよ、だったら、俺がここにいるもん。レノどっか行って」

 ワガママ一杯の発言に、ヴィンセントさんが彼の手を握って頭を振った。

『いけません』

 というように。

「いいじゃん!大丈夫だったら!二幕目になったら皇太子殿が特別席に戻ってくるから、そしたら戻るもん!」

「はぁ〜、もういいっすよ。ま、今日一日ずいぶんやきもきさせたもんな。……クラウド、一幕目だけだぞ、と」

「わかってるよ!」

 やれやれとため息を吐きつつ、ヴィンセントさんの隣の席をクラウドに譲り、オレは後ろ席に移ったのである。