〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<29>
 
 クラウド
 

 

 

 

 

 表通りから救急車のサイレンが聞こえた。

 だが、それはまもなく止み、わずかな後にこの場所……

 庭園美術館の裏庭にやってきた。

 

 レノらが呼び寄せた救急車は、おそらく神羅カンパニーのものだろう。

 現在、俺たちが庭園美術館を観覧しているのは、関係者ばかりではなく、一般の人たちも知っていることだ。

 そこに、救急車がけたたましいサイレンをうならせて、駆けつけて来てはまずいからだ。

 

 それにしても……あのヤズーがこんなことになるなんて。

 いつも飄々としていて、どんな状況でもスルリと上手く躱すヤツだったから…… 俺は彼の負傷に激しく動揺していた。

 ヤズーだって不死身じゃないんだ。今回みたいなことがあれば、当然怪我だってするし……

 本人は『自分が油断したのが悪い』と言っていた。だが、彼は美術館を守ろうとしたのだ。いや、正確にいうなら館内に居る皇太子他、関係者一同を。

 俺がもうちょっと早く、雑魚のDGソルジャーを片付けていたら……

 おのれのふがいなさに歯がみする気持ちだったが、俺はブルブルと頭を振って雑念を追い出した。

 ……ダメだ。今は落ち込んでいる場合じゃない。出血は止めてあるから、早急に処置をすれば、ヤズーの回復は早いはず。

 済んでしまったことを思い悩んで心配するよりも、先にやらなければならないことがある。

 

 あのヤズーがいかに不利な状況であったとはいえ、何故あそこまでひどくやられたのかという理由……それはそのまま、他のメンバーの危機にも関わることであった。

 女戦士の名は『朱のロッソ』というらしい。ツヴィエートのひとりだ。

 ヤズーは以前に彼女と対峙し、間違いなく倒したといっていた。そう、それは正しいとも言えるし、誤りであったとも言える。いや、純粋に闘いの結果ということならば、やはり前の時は、ヤズーのいうとおり彼が、ロッソを打ち倒したというのが正確だ。

 問題はその後のことだろう。

 ヤズーがロッソを銃撃し、血を吹き出す肉体が神羅ビルから地に踊った……その後。

 何者かが、彼女の遺体から、まだ微弱な生命の兆候を維持していた脳の部分だけを摘出したのだ。

 たった今、今度こそ本当に息の根を止めたあの女…… 彼女の肉体は精巧な金属で出来ていた。簡単に言うならロボットということである。

 だから、どれほど激しい戦闘でも、時間が経過しても、普通の人間のように息が切れたりすることはない。もともと『体力』などという概念のない金属の固まりなのだから。

 ただ、彼女の頭部にだけは、慎重に摘出したのであろう『脳』が存在した。そう、以前ヤズーに破れて死んだ、ロッソの脳だ。ガラス製の頭部を象った入れ物の中に、そいつは妙に生々しく収まっていた。

 

 

 

 

 

 

「……ノーミソだけ摘出して……か」

「ゾッとしないぞ、と」

 俺の独り言にレノが返事をした。

「よし、クラウド、救急車が来た」

「あ……うん。ちょっと……気になることがあるんだよ」

 俺は低く言った。手洗いに行った皇太子殿に聞かれるとまずいからだ。

「……あのさ、レノ。この後の予定、どうすんの?」

「軽く茶会を済ませた後で、オペラハウス入りだ」

 レノは時計を確認するとそう答えた。彼の顔にも困惑の色が浮かんでいる。

「……そうだよね。予定ならね」

「観劇は、わざわざ海外から一流のアーティストを呼んでいるし、こちらは一般人も一緒に観ることになっている…… いわば、今回の会談のメインとも言えるからな」

「わかってるよ。ルーファウスもそう言ってたもんな」

 俺は頷いた。だが……これから、のんきに観劇を楽しむ? 予定通りにそんなことが可能なのだろうか? ヤズーを助けるためとはいえ、女を射殺した皇太子殿の精神状態は?

 ああ、もちろん、皇太子殿は、ヤズーのことを護衛官だと信じているし、あの女が凶悪なテロリストの一味で、人脳を埋め込んだロボットまがいのものだと話してはあるが。

「でもさァ、皇太子殿下がそういう気分になれないんじゃない? いくら理屈では正しいことをしたと理解できても、実際に引き金に指を掛けるのは……さ。俺たちみたいなのとは違うんだし」

 そう言うと、レノも深く頷いた。きっとヤツも同じ事柄を慮っていたのだろう。

 だが、レノとの話はそこまでになった。救急車が到着したのと、ほぼ同時に皇太子殿下も戻ってきたからだった。