〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<30>
 
 クラウド
 

 


「ああ、救急車が来たのだな。彼の容態はどうか?」

「あ、まだ寝てるッス」

 レノが答えた。

「出血がひどくて失神しているのだろう」

 と、皇太子殿下に言い直されて、しゅんとしょげる。

「あー、あの……殿下。ご気分はどうですか? コレ」

 俺はついついヤマダー口調になりながら、まだやや青ざめている彼に問いかけた。俺としては、ヴィンセントの薬のこともあるから、このまま予定通りに進めたいのだが、強引にそうするわけにはいかないだろう。

「……気分? ああ、そうだな。愉快なものではないな。……初めて人を撃ったのだ」

 彼はそう言いながら自らの手をじっと見た。

「あ、でも、アレ、人っつーか、ロボットですからね。それに、殿下はヤズ……じゃねー、ウチの護衛官を守ってくれました。本当に感謝しています」

 ルーファウスぶりっこで俺は頭を下げた。傍らでは救急隊員が迅速に動き回っている。

「それで……その申し訳ないんですけど、俺……いや、私も救急車で同行したいんですけど。あ、すぐこっちに戻りますけどね!」

「ああ、そうだな。その方がよいだろう」

「ですが、殿下のことが心配です。私などとは違って繊細でしょうから……これ以上、無理をいうのは……」

「…………」

 彼はしばらく沈黙した後、軽く頭を振った。彼にとって、さっきの出来事は、おそらく人生の中でワースト3には入るであろう、ショッキングなことであろうから。

 俺の問いに対して、すぐさま、

「私は大丈夫だ」

 と答えることなど出来ないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 十分に一呼吸以上おいた上で、皇太子殿下は口を開いた。

「そうだな……確かに……滅多にない……いや、もう二度としたくはない体験だった」

 彼は正直にそう言った。

 ……そりゃそうだよなァ。フツーの人ならそうだ。俺たちみたいに、戦いの中に身を置くのが当たり前の人じゃないんだから。

 あきらかに害意があっての襲撃とはいえ、相手を射殺した事実は、到底彼を平静ではいさせなくするのだろう。

 やはり、今後の予定をキャンセルと言い出すだろうか。ならば、その申し出を受けないわけにはいかない。

 ……状況が状況なのだ。

「ルーファウス神羅。貴方はこれから病院へ同行されて……その後、いかがなされるのだ?」

 彼はそんな風に水を向けてきた。

「あ、え、ええ。その……」

「観劇には参られないのか?」

「え? あ、い、いきます、行きますよ、もちろん。でも、殿下は……」

 俺は上目遣いに彼を見た。

 あー、ルーファウスはこんな仕草なんかしやしないなと考えつつ。

「貴方が行くというのなら、もちろん同行する」

「え…… で、でも……」

「貴方は言われたではないか。今回の三者会談の目的は、今後、平和で安全な社会が訪れるのだと、被災地の者たちに理解させることだと。神羅カンパニーがその主導的な役割を果たすから、協力して欲しいと……そうではないのか、ルーファウス神羅」

「え、あ、そうッス……」

「ならば、ゆかぬわけにはいくまい。夜に予定されているオペラハウスでの観劇は、今回のイベントの最後だ。著名人ばかりではなく、一般の者たちも数多くやってくると聞いた」

「そ、そうです」

「私も、この星に平安と安寧が訪れることを願っている」

 彼は穏やかに……だが、十分力強い物言いでそう宣った。

「じゃ、じゃあ、殿下……」

「……心配には及ばない。当初の予定通り行動しよう」

「あ、ありがとうございます!」

 俺は勢いよく頭を下げた。傍らで事の成り行きを見守っていたリーブも、安堵のため息を吐いていた。

「ルーファウス神羅、救急車が出る。早く行きたまえ」

「あ、は、はい! あの、すぐに戻りますから! 殿下の御身は必ず、お守り致します!」

「心遣いに感謝する。だが、君は君の部下のことも考えてやる必要がある。……失ってよい命など、ひとつもないのだからな」

 俺に諭すような物言いで、彼は低くささやいた。

 あー、この人、本当にいい人なんだ……

 いや、もう、絶対、皇太子殿下には指一本触れさせるわけにはいかない。

 俺の方の用件を済ませたらとんぼ返りだ。

 

 俺はレノと一緒に救急車に乗り込むと、時間が惜しいとばかりにヤツにおのれの考えをぶちまけた。