〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<28>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

……クソッ……!

 

 バカな……こんなところで死んでたまるか……!

 カダージュ……ッ!!

 

「ギンパツ、伏せろッ!」

 瞬間……

 彼女の背後から飛んできた声に、俺が反応できたのはほとんど本能だったと思う。

 俺は最後の力で、足を前方に滑らせ、踏ん張った彼女の股下をくぐり抜けた。そのまま地に仰臥する。

 

 間髪入れず、銃声が響いた。

 

 ダンッ! ガゥン!

 

 一つはまるで耳元で撃たれたように近く感じた。間を空けず続いた二発目は、遠い距離からだったと思う。

「ガ…… ギ……ッ」

 錆びた金釘が折れるような呻きを漏らし、女の身体は前方の石壁につっぷすように倒れ込み、ズルズルと頽れていった。

 

「う……ッ」

 ズキズキと軋む身体を何とか起こす。その瞬間切り裂かれた二の腕と肩口から、じわりと血がにじむのを感じた。

「……助かった……のかな……」

 倒れた女は、もはやまったく生命の兆候をを感じ取ることはできなかった。さっきの銃が彼女の命を砕いたのだろう。

「やぁれやれ、間に合ったぞ、と」

「ヤズー! 大丈夫ッ!?」

「あ、赤毛くん…… 兄さん……」

 真っ赤な髪をした不良タークスが、庭園の門柱から、目の前に飛び降りてきた。ほとんど同時に、兄さんも駆け寄ってきてくれる。

「ここは……素直にお礼を言わせてもらうよ。ふたりともありがとう」

「いんや。正確には俺らより、あっちの人のほうが早かったぞ、と」

 クイクイと親指で指し示されて、今度こそ俺は失神しそうになってしまった。兄さんもレノに言われて初めて気づいたのだろう。

 そう彼女の肉体には、レノが撃ったと思われる銃弾の傷跡が右背中に……そして、兄さんの投げたナイフが足を止めていた。

 だが、致命傷だったのは、まさしく眉間に一発、お見舞いされた銃弾だったに違いないのだ。

 

 

 

 

 

 

「こ、皇太子……殿下……ッ!?」

 目の前の窓に、真っ青になった青年が突っ立っている。彼はまだ銃を握りしめていて、その手はブルブルと震えていた。

 そうなのだ、壁を背後にしたこの位置関係で、彼女の眉間を撃ち抜けるのは、三人の中で館内にいた人間……つまり皇太子殿下だけであった。

「ほら、眉間に一発。皇太子殿はみごとな腕前だぞ、と」

 ジェスチャー付きでレノが言った。

 急所である場所を正確に貫いたのは、疑うべくもなく皇太子殿下の銃弾であったのだ。何よりの証拠に目の前の窓ガラスは、銃弾の通った穴が空いていた。

「殿下…… あ、ありがとう……ございます」

 俺はそんな言葉しか口に出来なかった。本当なら、速効でフォローしなければならないのに。なんせ、今回の三者会談は『円満無事に終了することが最重要課題』だったのだから。

 だが、俺の礼など耳に入っていないのだろう。護身用の銃を持っているとはいえ、本当に人を……しかも女性を撃ったのは初めてだったのだろう。

 彼は拳銃をホルダーにしまうことさえ忘れていた。

「くっ……に、兄さ…… じゃない、ルーファウス社長、レノ、中に入りましょう。殿下のところへ行かないと……」

「お、おい、無理すんなよ! ヤズー、これヤバイって、血……スゴイから……」

 兄さんが困惑した様子でそういう。

 確かに想像以上に血が流れているが……だが、今、殿下をフォローしなければ、今回のもくろみが成功する算段は確実に低くなるはずだ。

「いいからッ…… ルーファウス社長! ちゃんと殿下をフォローして……」

 無理難題とは思いつつも、兄さんに小声で耳打ちした。

 レノが致し方なさそうに、俺に肩を貸してくれたとき、ハッと顔を上げた皇太子殿が、すぐ並びにあるガラス扉を開け、こちらに駆け寄ってきた。

「で、殿下……私どもの力が及ばず、大変御迷惑を……」

「ダメだ、動かしてはいけない! 早く横にしてやりなさい!」

 俺の口上を遮ったのは、皇太子殿下本人であった。彼は正装のマントを惜しげもなく芝生に広げると、厳しい口調でレノに命じた。そして慌てて追ってきた護衛官に、すぐに救急車を呼ぶように指示を出した。

「レ、レノくんといったか…… 彼の出血を止めないと……手伝うからやり方を教えてくれたまえ」

「いや、大丈夫ッスよ。俺だけで……」

「悠長なやり取りをしている場合ではない! 人手があったほうがよいだろう。早く血を止めなければ……」

 皇太子殿の剣幕に、レノは押し出されるように頷いた。

 気持ちはありがたいが……赤毛くん、それはダメだよ。これ以上、主賓である、彼の手を煩わせては…… あくまでも俺の立場は神羅の護衛官ということになっているのだから、客筋の殿下に頼むこと自体が間違っているんだよ。

「殿下……御手が汚れます。私のことはもう……」

「君!」

 強い口調でそう呼びかけられ、俺は少し驚いた。

「怪我人は静かにしていたまえ! 君はこの地の住民なのだろう。ならば私の大切な国民のひとりだ。私が君の傷口を押さえるのに何のはばかりがあるというのか!」

 そんな風に叱りつけられて、俺はもう苦笑しつつもおとなしく従う他はなかった。

 レノの指示に従い、何の躊躇もなく当て布を肩に押しつけ固定している。彼の白い手は俺の血でひどく汚れていた。もちろん、手だけではなく、胸元も袖口も鈍い紅に染まっている。

 脇腹を押さえるとき、思わず歯を食いしばった俺に、

「もうすぐに済むから。しばし堪えられよ」

 と、彼のほうが辛そうな面持ちで、勇気づけてくれた。

 

 ……ああ、なんだかこの人……本当に、あの『レオン』に似ている。

 そういや、『レオンハルト』とかいう名前だったけ。もちろん、赤の他人だろうけど。

 

 あー、こういう人好きになっちゃうと、後がけっこうしんどいんだよねェ……

 

「ちょっと、リーブ、この女の身体見て! これって……」

「待ってください、銃弾の貫通している頭部は……」

 兄さんとリーブ局長のやり取りを横目に、妙にずれた感想を抱きつつ、俺は意識を手放していた。