近似アルゴリズム
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<21>
 
 ヤズー
 

 


(ここまで来たからには見届けるべきだろう)

 そう考え、すぐにセフィロスの後を追う。もちろん、彼には俺が見えていないから、足音だのを気にする必要はない。

 失神している彼女が気にならないわけではないが、俺に出来ることは何もないのだ。

 

 魔晄炉の最奧……そこには天使を模した奇妙な人形像が置かれていた。

 人形といっても、小さな物ではない。おそらくもとは円筒状のカバーがとりつけられていたのだろう。それは今、セフィロスによって外され、彼のもとに放置されていた。

 

「ああ、母さん。たったひとりでずっとここに居たんだね。大丈夫、もうさびしくないよ」

 聞いたことの無いような口調で、セフィロスが人形に語りかける。

「神羅屋敷を調べてようやくわかったんだ。この星の住人はオレたちの仲間じゃない。それどころか、優秀なセトラを追いやり、繁殖した唾棄すべき輩なんだ……」

 すっと彼の手が伸ばされ、天使の頬を撫でる。

「今こそ、オレと母さんでこの星を手に入れよう。それが正しいことなんだ……」

 熱に浮かされたようなセフィロスのセリフ。彼は熱心に巨大な天使像に語りかけ、その頭部に手を掛けると、ぐいと引き寄せる。

 ブチブチと音を立て、繋がれていたコードが引き千切られ、保存液がこぼれ落ちる。

「ああ、母さん……オレの母さん。ずっと一緒に行こう」

 セフィロスは、透明なガラスケースに入ったそれに口づけ、頬ずりした。

 

(あれが…… ジェノバ……?)

 そこには奇妙な物体がプカプカと浮いているだけだ。一度は治まった嘔吐感が沸き上がり、ハァハァと浅い呼吸を繰り返す。

「母さん……母さん……」

 たいそう愛おしげに、ガラスケースを撫で回すと、ようやく気が済んだのか

セフィロスはそれを大事そうに抱え込んだ。

「さぁ、母さん。こんなところからは早く出よう。母さんを縛り付けていたものは、もう全部オレが壊してあげたからね……」

 

 ずくんと胸が痛んだ。

 目の前の光景は、あきらかに狂気に支配されているのに、ただひたすらに母親を慕うセフィロスがあまりにも哀れだったからだ。

 

(そうだよね……あなたは好きこのんで、そんな風に生まれてきたわけじゃないんだもんね。すべて神羅カンパニーがしたことだものね)

 俺の言葉が聞こえるはずもなく、セフィロスはふらふらと歩き出した。

 

「セフィロス!」

 悲鳴のような叫びで、俺はハッと意識をこの場にもどす。セフィロスの過去に触れ、感慨に耽っている場合ではない。

 

 ドンッ!

 

 と、鈍い音がして、こちらに向かって歩いていた、セフィロスの長身がびくりと震えた。

 その瞬間、俺の背にも、焼け火箸を宛がわれたような激痛が駆け抜けた。

(うあぁッ! な、なんだ……これ…… この痛み……)

 

「き、貴様……ッ!」

 彼の背後には兄さんが居た。ガタガタと震える両手には、見覚えのある大剣を握りしめられていた。

 その切っ先がセフィロスの背を、深々と貫いている。

「貴様……クラウド……!」

「ハァッ、ハァッ! セフィロス……!」

 兄さんは、吐息を弾ませたまま、かつての思い人の名を呼んだ。

「クラウド……よもや……おまえが……!」

「よくもよくも……ティファまで……! 村のみんなを返せッ!」

「……黙れッ! この……ッ!」

 深々と突き刺さった剣をぐいと自力で引き抜き、正宗を構える。

 背中からは血が吹き出しているが、手負いの獣のように油断なく、じりじりと兄さんとの間合いを詰めた。

「好きだったのに……! 尊敬していたのに……! 何の罪も無い人たちを……!」

「クラウド…… よくも……!」

「アンタは狂っている!」

 兄さんが叩き付けるように叫んだ。

「……フ……フフフ…… 図に乗るな……!」

 突き出された正宗が、兄さんの脇腹を貫いた。

「あうッ……!」

「何の罪も無い……だと? 貴様ら、この星の人間共が何をしたか……」

「ぐうぅぅ……!」

 ズンと深く抉りこまれ、兄さんが低く呻いた。

「ア、アンタはもう……俺の知ってるセフィロスじゃない……!」

「……黙れ」

「俺の好きだったセフィは、こんなことしないッ!」

 クラウド兄さんは、両手でグッとセフィロスの正宗を握りしめた。

「なにを……!?」

「アンタなんて…… アンタなんて…… 大嫌いだッ!」

 グググとセフィロスの巨躯が持ち上がった。兄さんが正宗の先端を支点に、力づくで彼の身体を浮かせたのだ。

「うあぁぁぁぁッ!」

 ひとつ大きく雄叫びを上げると、ずるりと腹に刺さった切っ先を引き抜いた。その拍子に、ボタボタと兄さんの脇腹から血がこぼれる。

「おのれ……この子供が……! 放せッ!」

 背中の傷のせいなのだろう。セフィロスの動きが緩慢になった。

「……ハァハァハァ、ゼッゼッ…… さようなら、セフィロス……!」

「おのれ……ッ!」

 兄さんが刀を放す。

 セフィロスの身体はぐらりとよろけ、ケースを抱えたまま、燃えたぎる魔晄炉に落下していった。

 

(あぁぁぁ! セフィロスが……セフィロスの身体が……ッ!)

 その瞬間、俺は頭から落下して行くセフィロスと重なった。

 俺は、落下しているセフィロス、そのものになったのだ。爆発を繰り返し、煮えたぎる溶鉱炉が熱い! 兄さんに貫かれた背がしびれる。

 どうして……?

 ただの傍観者だったはずなのに……!?

 

「うあぁぁぁーッ!」

 喉が裂けんばかりに、声を上げ、俺はセフィロスの肉体とともに、燃える魔晄炉に吸い込まれていったのだった。