近似アルゴリズム
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 ヤズー
 

 

 

 

『……ヤズー、あなたを含め、ロッズ、カダージュの三名は、元神羅カンパニー所属・ソルジャークラス1stセフィロスの思念体であります』

 厳かに年配の方の医者が言った。

「ええ、そう。そのとおり」

 俺は平静に頷き返した。隠すようなことではないし、関係者は皆知っていることだ。

『元ソルジャークラス1stセフィロスは、不幸にしてあのような大事件を引き起こしました』

「……不幸にして……かは、知らないけどね。彼には彼の道理があるでしょうから」

『あなた方思念体が生まれたのは、メテオ事件のときでしょうか。それとも、一年前、このミッドガルに姿を現したその当時なのでしょうか』

 俺の物言いをやわらかく受け流して、医師は続けて質問した。

「……赤ん坊だって、どの瞬間に生まれたかなんて知るはずがないでしょう。いつの間にか意識をもっていたということだよ」

『意識というのはあなた自身のですか? それとも「セフィロス」のですか?』

「俺として……ヤズーとしての意識だよ、もちろん。おそらく一年前だと思うけどね」

『その前はまだ……』

「わからない。少なくとも、『覚えていない』」

 俺の言葉を、もう一方の医者が詳細に記述している。

 モルモットになるつもりで来たわけではないのだ。もし、彼らがセフィロスに同じ質問をしていたら、ぶん殴られているんじゃなかろうか。

「ねェ、センセ。こんな質問が、俺の身体の異変に関係があるの?」

『ないとはいえません。そもそも、これだけテクノロジーの発展した現代社会においても、未知なる病は多いのです』

「……上手い具合にはぐらかされたような気がするけど」

『思念体という概念はあっても、それが実在し、本体とは個別の一個体として存在しているのは、我々にとって非常に驚くべき現象なのです。できることなら、隅から隅まで調べさせていただきたい』

 いつの間にか握り拳を作って必死に宣う医師団に、俺はやれやれとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 その後、お約束の採血を済ませてから、目の検査をした。眼圧だのはコスタ・デル・ソルでも、計ってもらったのだが、こちらではさらに詳細に調べられる。

 眼底検査では、網膜疾患、視神経疾患などの眼の単独検査はもちろん、糖尿病、高血圧、脳内血流動態異常など、全身疾患の合併症の病状までも把握することができるとのことだ。

 ここまでの段階で、時計の針はすでに12時を指し、朝食を食べていないせいで、かなり空腹なことを自覚する。

 

 

『大変お疲れ様でした。最後に、こちらへ横になってください』

 ようやく本日最後の検査らしい。

 お昼時間にランチをとることは出来なかったが、その後、一段落付いたところ……そう、アフタヌーンティーの時間帯に、この日初めての食事をすることができたのだ。

 味気ない病人食かと期待はしていなかったのだが、個室に用意された食事は、おそらくホテルから運んできたのであろう、十分に豪華なものであった。

 確かに検査を受けているとはいえ、あくまでも疾患は目なのである。

 食欲は十分にあるし、内臓機能が衰えているわけではない。

 できることなら、ヴィンセントやセフィロスと共にしたかったがそこまでわがままをいうつもりはなかった。

 そして、本日の最終局面に至るのである。

 

 医師に促され、隣室に入る。巨大な寝台が用意されており、ドームのような円筒状の装置が壁面に設置されていた。

「なんか仰々しいなぁ」

『これより、脳波の測定を行います』

 マイクからの音声が流れてきた。

 操作盤は、ガラスで仕切られた別室にあるらしく、そこから指示が流れる。

 俺は、言われたとおり、台に横になると、可愛らしいというよりは『きつめの美人』といった雰囲気の看護師嬢に毛布を掛けられた。

 もうひとり中にいた若い医者が、もう一方に陣取る。

『覚醒時の脳波と、睡眠時の脳波を測定いたしますので、楽にして目を閉じてください』

 そのままの状態で、頭に何やらコードのついた帽子のようなものをかぶせられた。

 仰々しい装置の中へそのまま押し込まれる。

 ……なんだか、自身がヴィンセントに買われたアイスキャンディーになったようだ。

 それらは、持ち帰られてすぐさま巨大冷凍庫に押し込められるのだから。

 

『それでは今度は睡眠時の脳波を……失礼します』

 身体が動かないように固定されたベルトの隙間から、スタンプのようなものを腕に押しつけられる。

 それには細かい針のような物が植えられていて、肌の上でプシュッと音がした。

 痛みはほとんどなかったが、これから強制的に眠らされるとわかっているので、よい気分とは言い難かった。

 俺は基本的には紳士なので、『無理やり』というのは好きではないのだ。

 

『ハイ……すぐに眠くなります。身体を楽にして、ゆっくり呼吸してください』

 医師の指示がどこか遠いところから響いた気がした。

 だが、それはどんどんと遠ざかっていき、いつしか何も聞こえなくなった。