近似アルゴリズム
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 ヤズー
 

 

 

 翌日、朝食も食べずに、ホテルを出た。

 検査のために、胃の内容物を残しておかない方がよいと言うことらしい。

 

 カダージュは、やはり不安そうな面持ちをしていたが、昨夜の約束をきちんと守るつもりなのだろう。

 必死に平静を装って、『いってらっしゃい』と言ってくれた。

 それに笑顔で、『いってきます』と返し、俺は神羅の用意してくれた車に乗った。

 歩いても二十分程度の距離だから、道が空いていれば、ものの十分で到着してしまう。

 

 きりりと顔を引き締めたヴィンセントと、気の抜けた様子でだらしなく座っているセフィロスは好対象だ。

 運転してくれている赤毛くんもそう感じたのだろう。

 あっという間の道程を走り終えると、つくづく呆れたと言った様子で口を開いた。

 

「ヴィンセントさん……もの好きにもほどがあるッスよ。どうして、アンタみたいな人が、こんな無神経なエロ男と、我がママ好き勝手なチョコボ小僧と一緒に居るんスか?」

「え……あ、あの…… 君はいったいだれのことを……?」

「アッハハハハ! 検査入院前にずいぶん笑わせてくれるんだねェ、赤毛くん。でもね、ヴィンセントってばホントにわかってないから」

 真顔で困惑しているヴィンセントの肩に手を添え、俺はそう言い返してやった。

「あ、あの……ヤズー……?」

「いや、スンマセン、ヴィンセントさん。つい……俺的には、そこでだらしなく横になっているデカイ男と、ホテルの夕食でデザートだけおかわり繰り返してるクラウドのガキのことッス」

 律儀にも赤毛くんは丁寧にそう答えた。

「あ、ああ、あの……す、すまない。クラウドは甘い物が好きで……家にいるときも、たくさん食べているから……」

「黙れ、このクソ赤毛。オレさまに向かって良い度胸だ、テメー」

 ヴィンセントの物言いを遮って、凄むセフィロス。早朝に叩き起こされて憤懣やるかたなしといった様子だ。

「セフィロス、や、やめたまえ。今回は我々が彼らの世話になるのだぞ。レノの物言いは……その、親愛の情だ」

「おまえはどこまでめでたいんだ、ヴィンセント! だいたい、この前の貸しがこの程度のことで帳消しになるとでも思ってんのか? まだまだ釣りがくるぜ」

「あー、ハイハイ。わかってるッスよ。だから、こうしてイロイロ手配してやってんだぞ、と」

 セフィロスにこうして言い返せる人物はなかなかいない。俺にとっても、赤毛くんは貴重な友人になり得そうであった。

 

 

 

 

 

 

 十分もしないうちに、車は目的の場所に到着した。

 だが、表玄関からではなく、病院の裏通りに回る。厳重な警備兵が立っている辺りで、ゆっくりとスピードを落とした。

 いかにも頑丈な扉が機械仕掛けで観音開きになり、レノがそこに慎重に車を入れる。

 ちなみに俺たちが乗ったのは、普通の乗用車の態をしていたが、防弾ガラスにスモークが貼られているということだった。

「警備兵といい、車といい、なんだか、仰々しいなァ。ここまで警戒する必要、あるの?」

 皮肉っぽくそう言ってやった。

「俺は検査のために来たんだから、神羅の人間に危害を加えるはずがないでしょ?」

「ああん、なにを言ってるんだぞ、と。アンタは特別なお客人だ。検査の前に何かトラブルがあっちゃマズイだろーが」

「トラブル? トラブルって……」

「俺たち神羅カンパニーにはまだまだ敵が多い。アンタらのことは厳重に守秘されてるが、万一のことがないとは限らんからな。関わる医者は身元確認を済ませているし、こうして警備兵も配備しているんだぞ、と」

「ヤズー……。レノを始め、ルーファウス神羅たちは、私たちの安全を守ってくれているのだ。とても有り難いことだな……」

 ヴィンセントは最初から、当然に理解していたというふうに微笑を浮かべた。

 俺は全く見当外れの勘違いをしていたのだ。

 厳重な警備は、俺たちに対して向けられたものだと思っていた。一度はルーファウスを誘拐し、神羅カンパニーに牙を剥いたのだから。

「……あんなことがあったのに、ずいぶんとまぁ信頼されたもんだね」

 素直でない俺は、憎まれ口を叩いたが、レノやヴィンセントにはお見通しだったらしい。まるで『ヤレヤレ』といったふうに苦笑されて、ますます身の置き所がなくなる。

 早朝の苦手なセフィロスが、未だに半覚醒であったのが、唯一の救いだろうか。

 

 尚も、何か言ってやろうかと、口を開いた俺は墓穴を掘らずにすんだ。

 車が停止したからだ。