近似アルゴリズム
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 ヤズー
 

 

「お久しぶり、赤毛くん。今回は迷惑かけちゃって悪いねェ」

 出迎えてくれたタークスのレノに、俺は目一杯の笑顔を向けてやった。彼とは何度か闘っているが、現在の位置づけとしては、一応『知り合い』程度として認識してくれているらしい。

「社長命令だから、仕方ないぞ、と」

「ルーファウス神羅にも、お礼言わなきゃね。船で行けばよかったんだろうけど……」

「どうせ、セフィロスだろ、だだこねたのは」

 付き合いの長さで言えば、俺以上にセフィロスと一緒に過ごした時間は長いのだろう。よくわかっているというように、片手を振って俺の言葉を遮った。

「……それより、あー、おまえ、平気なのかよ」

「え?」

「いや……だから、目ェ見えないんだろ? どっち……左だっけ?」

「あ……あぁ、大丈夫」

 意外な気遣いを受けて、俺は少々驚いた。前回の一件で、それなりのコミュニケーションは取ったが、それでも、これまでの経緯から、タークスの面々が俺たちを敵視するのは当然なのだ。

「銃使いにゃ、視界が命だし、かたっぽの目でしか見えないんじゃ、疲れるだろ」

「……意外だね、君がそんなふうに俺のことを心配してくれるなんて」

「フン、別に心配しているわけじゃないぞ、と。ただちょっと聞いてみただけだ」

 ぶっきらぼうな物言いに、照れが混じっていて、知らず知らずのうち、自分の口元が揺るむのに気づいた。

 さらに言葉を続けようとしたが、後から出てきたふたりに先を越されてしまう。

「よぉ、赤毛。このヘリ、最新なんだろうな。エアコン強くしておけよ」

「やぁ、レノ。ご機嫌よう。おや、ちょっと髪を切ったの? なにはともあれ、今回はよろしくね」

 セフィロスとジェネシスである。

「出たな、御大」

 身構えたレノを素通りし、彼らはさっさとヘリに乗り込んだ。

「ヤズー。おまえはこっちへ。私が側についているからな」

 今度はヴィンセントが俺の手を取った。

 ……まったく、お姫様じゃないんだから、こんな扱いは困惑する。

「ヴィンセントがそっちなら、俺も行く」

「騒いではダメだぞ、クラウド」

 この人数ゆえ、二機のヘリに分乗し、俺たちはふたたびコスタ・デル・ソルを旅立った。

 

 俺の左目は、やはり暗く濁ったままであったが、不思議とこれからのことに不安を抱きはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 綿菓子のような雲をくぐり、青い空を抜けてヘリコプターは進んで行く。

 船なら丸二日以上かかる距離だが、さすがに最新式のヘリは早かった。

 それでも、本社ビルの屋上に無事着陸するとホッと吐息がこぼれる。やはりどこか緊張しているのかもしれない。

「お疲れさん。着いたぞ、と」

 まっさきに飛び出して行く兄さん。もう一機からカダやロッズも出てきた。カダの腕にはしっかりと猫のバスケットが抱きしめられている。

「ヤズー、大丈夫かい? 手を貸そう」

 声を掛けてくれたのは、ジェネシス。さっさと降りて、大あくびしながら伸びをしている無神経な英雄とは対照的だ。

 ありがたくもその手を取った俺だが、ほとんど抱き上げられるように下ろされたのが何ともいごこちが悪かった。

 外見はともかく、俺はこういう扱いになれていないのだ。

 

「俺たちタークスとその直属の部隊、一部の医療スタッフにしかアンタらのことはオープンにしていないからな。そのつもりで居てくれ」

「そいつはどうでもいいが、また本社で寝泊まりしろってのか? 肩が凝るぜ」

 無神経なセフィロスのセリフに、レノが苦虫をかみつぶしたような面持ちで応える。

「本社じゃなくて、となりのロイヤルホテルだ。最上階のスイートを全室借り切ってある」

「フーン、豪勢じゃねーか。おまえらにしちゃ粋な計らい……」

 どこまでも上から目線のセフィロス。すぐ後ろを歩いていたヴィンセントが、あわてて無遠慮な彼の発言を遮る。

「セ、セフィロス! あ、あの、レノ。気遣いは有り難いのだが、我々は物見遊山にきたわけではないし、とにかくヤズーを医者に……」

「ああ、わかってるっすよ、ヴィンセントさん。ただ、急な話だったからな。検査は早くても明後日だ。それに結果が出るまで、それなりに時間はかかるから、どんなに急いでも一週間は滞在してもらうことになる」

 レノのいうことはもっともだ。なんせ、紹介状をもらったのが、ほんの五日前。まだあの日から、一週間も経っていない性急さなのだ。

「それはそうだろうが…… だが、なおさら、こんな贅沢な……」

「いいんすよ、ヴィンセントさんにはいろいろお世話になりましたし、ルーファウス社長にもしっかり言いつけられてますんで」

 笑顔の苦手そうな赤毛くんだが、ヴィンセント相手にはずいぶんとやさしげな面持ちをしている。

「だよなァ。頼りないテメーらのために、ずいぶんと手ェ貸してやったもんな」

「セ、セフィロス! 君はどうしてそんな物言いを……」

「だってその通りだろ。ま、あのときの貸しの代金にゃ足りねェが、とりあえずよしとしておくか。おい、赤毛、腹が減った。すぐメシになるんだろうな」

「セフィロス! よしなさい!まずはきちんと彼らに礼を……」

 まるで母親に叱られる不良青年(?)だ。くどくどと注意を重ねるヴィンセントから、フンとそっぽを向いて押し黙る。

 俺たち家族にとっては、わりと見慣れた光景なのだが、レノやルードには、この上なくものめずらしい見せ物になったのだろう。きょとんとした顔つきでふたりのやりとりを眺めていた。

 

「ほら、ヤズー、笑っていないで足下に気をつけて」

 背後からそっと手を取られ、背に腕が回される。

「ふふ、大丈夫だよ、ジェネシス。あのときはどうしようと思っていたが、案外さっさと来ることに決めて正解だったみたい」

「そうだろう。検査の結果が出るまでは落ち着かなかろうが、君はひとりではない。これだけ味方がついているのだからね」

 ジェネシスお得意の気障なセリフだったが、今は笑って流そうとは思わなかった。

「そうだねェ。ま、気楽に受診してくるよ。……あなたには感謝しなくちゃいけないんだろうね、ジェネシス」

 まるで淑女のように、俺を扱ってくれる美青年にそう告げた。

「礼を言われる筋合いはないよ。俺はただ大切な友人に大事がないか心配だっただけさ」

 切れ長の双眸が軽くウインクした。

 苦笑で返した俺を、彼は丁寧に誘導してくれた。