〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<27>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「お帰り、ザックス! あ、セ、セフィロスさんもジェネシスさんもお帰りなさい!」

 クラウドはいつもと同じ、元気な表情で俺たちを出迎えてくれた。やはり彼の顔を見ると、ああ戻ってきたんだなとホッと落ち着く気がする。

「おめーら、部屋までついてくんなよ。アンタらのトコと違って、普通寮はせまいんだからな」

 それにつけても、なんつー図々しい連中なのだろう。

 ミッドガルに無事帰り着いたはよかったが、ぞろぞろと俺の部屋まで同行してくるソルジャー・クラス1stの二名である。ただでさえデカイふたりなのに……鬱陶しい。

「狭いんだとよ。おまえは帰れ、ジェネシス」

 平気でこういう発言をするのは、もちろんセフィロスだ。

「え〜、いいじゃないか。ちょっとだけ中に入れてよ、ちゃんとチョコボにおみやげ買ってきたんだから」

「大切なクラウドがジェネシス菌に空気感染する。さっさと消えろ」

「あ、あのッ……お、おふたりとも、狭くてすみませんけど、ど、どうぞ上がって下さい」

 クラウドが慌てて口喧嘩になりそうなふたりを取りなした。

 いや、何より、そろそろ廊下にギャラリーが溜まりそうな状況だったからである。なんせ、セフィロスとジェネシスという、神羅カンパニーの立役者のソルジャーがふたり並び立っているのだから。

 

 四日ぶりに戻った部屋は……ああ、やっぱりいいぜ、落ち着くぜ〜。

 クラウドには、事前に戻る日を知らせておいたのだ。それでたぶん気を利かせて掃除をしておいてくれたのだろう。いいタイミングで小綺麗に片づいていた。

「あ、い、今、お茶淹れますね!」

 二人部屋なので、他の部屋よりは多少余裕があるとはいうものの、クラウドを抜かした約三名はクソデカイ男たちなのである。

 俺も含めたそいつらが、ひとつのちゃぶ台に膝付き合わせて、お茶を啜るのは……なんというか……滑稽な様にも見えるだろう。

「ん……おまえの淹れたお茶は美味いな。クラウドの味がする」

「は、はぁ……ありがとうございます……」

 訳の分からない誉め方をするセフィロス。どんな味だっつーの。気色悪ィんだよ……

「はい、チョコボサブレ。約束してたからね〜」

 ごくフツーにキ○スクで売っているそれを差し出すジェネシス。

 そんなものでも珍しいのか、クラウドは嬉しそうに受け取った。もともと甘いものが大好物なので、ヒヨコの形をしたクッキーは、彼にとってお茶請けとしては最適なのだろう。

 

「クラウド、オレ……私からもみやげがあるぞ」

 セフィロスはそういうと、数え切れないほどのブランドの紙袋を『店開き』した。心底呆れ顔をした俺とは対照的に、ジェネシスは楽しげにクスクスと笑っている。

「あ、あの……セフィロスさん? これ……みんな……?」

「おまえはとても好ましい見目形をしているからな。何を着ても似合うだろうが……ああ、ほら、こいつは今年の新作ものだ。モデルの少年よりおまえのほうがずっと映える」

「え、あ、あの……」

「そのシャツと相性のよさそうなパンツを見立ててきた。おまえは足の形が綺麗だからな。これからの季節ショートパンツは重宝するぞ。ほら、こいつだ。色もいいだろう? ええと、それから……」

「セ、セフィロスさん、あ、あの……でも、これって……」

「肌寒くなってきたらジャケットが必要だな。ここは秋の訪れが早いから。それから、夏場でも冷える日はカーディガンを羽織れ。風邪を引いたりしてはコトだからな。これならば品質もいいし、肌触りもいいはずだ」

 あーあーあーあー、もう。

 クラウドがびっくりしてるじゃねーか。空気読めよ、英雄。

 あのね、一応、クラウドには、ニブルヘイムに行ったことは伏せて置いて、偶然旅行先の飛行機で一緒になったってシナリオにしてるんだからね?コレ。

 事前にアンタもその辺は了承してたじゃねーかよ。だいたい鄙びた温泉地からのみやげの品が、ブランド品一式ってどういうセレクトなんだよ……

 

「それから、クラウド。これは私が愛用しているコロンだ」

「あ、は、はい……」

「夜着にでもつけるといい。いつでも私と一緒に寝ている気分に……」

「よさねーかッ!!」

「あっはっはっはっ。セフィロスは面白いなァ〜」

 とんでもない発言を食い止める俺に、いとも楽しげに笑うジェネシス。ああ、本当に日常が戻ってきたのだと実感する。

 クラウドは嬉しくないはずはなかろうが、さすがにセフィロスのみやげものに恐縮している有様だ。

 非常に高価なものばかりというのは、流行に敏感なこの年代の少年ならばすぐに理解できる。だが、わかるからこそ、そんなものをいきなり贈られても当惑するわけだ。

「セ、セフィロスさん……でも、こんな……高いものばっかり……」

「どうした? 気に入らないのか?」

「い、いいえッ! 全部、すごく素敵です。おれ、こんないいもの一枚も持っていないから…… で、でも、おれなんかに……」

 おずおずとプレゼントを手に取りながら、つぶやくクラウド。桃色の頬が上気して紅く染まっている。その様がまた心をそそるのだろう。

 まさしく猫好きが子猫を眺めるようなとろけた表情でクラウドを見つめ、ひどく満足そうに頷くセフィロス。

「どれもこれもおまえに似合うと思って見繕ってきたのだ。選んでいる最中もとても楽しかった。是非とも身につけて欲しい」

「は、はい……」

「修習生となったからには、これから人前に出ることも多かろう。ならば、自らに似合うものを知るべきだ。……おまえはとても美しい容姿をしているのだからな」

「セ、セフィロスさん……」

 カアァァァッと本当に音が聞こえそうなほど、クラウドは赤面した。その様が決して嫌そうには見えなかった。また困惑しているだけでもないようなのだ。

 ……おいおいおいおい。

 まさか……脈有り? あの巨乳美少女のティファちゃんを差し置いてか?

 いやいや、まだそう決めつけるには早計だ。ただ単純に贈り物をされ、容姿を誉められたのが嬉しいだけなのかもしれない…… だが、ちょっと過剰反応だと思うのだが。

 

 

 

 

 

 

「あー、もう、こんな時間だ!!」

 俺は声を上げた。

 別に見つめ合うクラウドとセフィロスを邪魔するつもりはなかった。……ちょっとしか。

「おい、クラウド。明日も授業だろ。アンタらも明日からはフツーに仕事だろ。オラ、今夜はお開きだ。帰った帰った!」

「え〜、つまらないなァ、いいところなのにィ。ああ、でも、もう21時過ぎかァ」

 のんびりとジェネシスが言う。あからさまに舌打ちしそうなツラのセフィロスとは対照的だ。

「そうかァ、寮は消灯時間が早いんだよな」

「チッ……無粋な」

「仕方ねーだろ。クラウドも疲れちまうしな」

 そういうと、セフィロスも不本意ながらも引き下がるのだった。……つまりそれだけクラウドのことを気に掛けているのだ。

 ああ、やっぱし、こいつは本気なんだなぁと思う。こういった何気ない日常の中で感じさせられるほうが、真実味があって重い。

「しかたないさ。さぁ、行こう、セフィロス。お邪魔したね、ザックス、チョコボ」

「クラウドです!」

「はいはい、そうだった。クラウド。おやすみ」

 ちゃらちゃらと手を振って、ジェネシスが部屋を出る。

「ではな、おやすみ、クラウド。良い夢を……」

 そのまま、口づけそうな雰囲気であったが、俺が部屋の中でゴホン!と咳払いをすると、セフィロスのヤツは、チッと上目遣いに睨み付けてきた。

「は、はい。おやすみなさい、セフィロスさん。あの……お洋服とか、色々……ありがとうございました。おれ、大切にします!」

 クラウドはぺこりと頭を下げた。ああ、こういう素直なしぐさが、俗世の垢にまみれまくったセフィロスには新鮮そのものなのだろう。なんともいえない満足げな表情を浮かべ、クラウドに語りかける。

「ああ、クラウド。そのうち共に出掛けよう。おまえが一緒ならさらに見立てが確実なるだろう?」

「え……で、でも…… おれなんか……」

「私がおまえと休日を過ごしたいんだ。おまえは素直でいい子だな。……先が楽しみだ」

「え……? あ、は、はい……」

「おい、セフィロス! 消灯時間過ぎるぞ、さっさと行けっつーの」

「フン、わかっている。……では、クラウド」

「はい……おやすみなさい、セフィロスさん。ジェネシスさんも」

 きちんとふたりに挨拶して、彼らがエレベーターに乗り込むまできちんと見送るクラウドであった。

 幸か不幸か、セフィロスの言葉を正確に理解できているわけではなく、不思議そうな面持ちをしている。

 部屋に戻り、もらったプレゼントを丁寧にクローゼットに片付けながら、

「すごいねェ、ザックス。やっぱりセフィロスさんってお金持ちなんだね」

 と、少々ずれた賞賛をもらすのが可笑しかった。

 

 ……やれやれ。

 クソデカイ連中が退場して、ようやく人心地ついた気分になった。

「ザックス、どうしたの? 疲れちゃった?」

 食事の後かたづけをしながら、クラウドが訊ねてくる。

 ええ、そりゃあ、まぁね……疲れましたよ、ものすごく。

 だが、当然俺たち三人でニブルヘイムへ行って参りましたなどとはいえない。さっきも説明したように、セフィロスとは偶然いっしょになったというように口裏を合わせているのだ。

「いやァ、別に。まぁ、多少は気疲れしたかな」

 そんな言葉でごまかした。

「ねぇねぇ、今度は俺も一緒に連れてってよね。ザックスとなら絶対楽しい旅行になるだろうし!」

「お、おう、そうだな。もちろん……」

 いや、クラウド……おまえと一緒に旅行したいのはセフィロスなんだけどね……当然泊まりがけで。

 ……まぁ、後は野となれ山となれ。

 セフィロス本人に任せるしかない。

 その、セフィロスの気持ちを受け取るのか断るのか……そいつを決めるのはクラウド本人だ。

 俺に出来ることなんざ、本当に限られている。そもそも恋愛なんつーのは、当事者以外は大したコトァ出来ないもんなんだ。

 

 だが、クラウド。

 おまえがどんな答えを選ぼうとも、俺たちはずっとダチだからな。

 もし、セフィロスとのことで、つらい目に遇うようなことがあっても、俺はずっと側に居るから。俺だけは何も変わらずにそうしているから。

 だから、おまえの思うように行動しろ。自分の望むとおり生きればいい。

 

 ま、俺的には絶対、セフィロスよりもティファちゃんを選ぶけどな。人はそれぞれだ。

 

 だが……まぁ、心ならずとも奴らと旅行したおかげで、今までただ苦手だったセフィロスとジェネシスのことも、少し理解できたような気がする。だからといって別に仲良くしたいと思っているわけじゃないが。

 

 クラウド、これからも色々あるだろうけど、がんばってソルジャーになれよ。

 俺も一日でも早く、尊敬するアンジールと肩を並べて働ける男になるぜ。

 

「ザックスぅ、紅茶飲む〜?」

 キッチンで二人分のカップを用意してくれているクラウドに声を掛けられた。

「おう、俺、砂糖とミルクもな」

「へぇ、めずらしいね」

 のんびりとした彼の物言いを聞いて、あらためて「ああ、戻ってきたんだなぁ」と感じた。

 やれやれ、しばらくは平和な日常が続いてくれよ……と、誰にともなく祈る俺であった。

 

 終わり