〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<8>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「……そうじゃないけど……だって、フツーそう思うだろッ?」

 虚をつかれた形になり、少しだけトーンダウンした。

「…………」 

「いきなり『英雄』とか呼ばれている男に告白されたら、クラウドだって困るに決まってんだろ。そりゃ確かにクラウド本人はまだセフィロスの気持ちとか……知らないから、実際はどうだったって話はできないけど……でも……」

「そう。『でも、常識で考えたら』、チョコボが困惑するという、そういうことだね」

「そ、そうだよ」

「ふふ……恋愛感情ほど、『常識』が通用しない事柄もないのだけどね」

「じゃあ、なにか!?」

 俺はふたたび強い口調でそう切り出すと、向かいの席でのんびりくつろぐ男を睨み付けた。茶化すようなジェネシスの物言いに、ついつい苛立ちが表に現れてしまったのだ。

「じゃあ、アンタはセフィロスのこともクラウドのことも放っておけっつーのかよ!? クラウドがセフィロスに追いかけられていても無視しろって!?」

 畳みかけるように怒鳴りつける。だが、ジェネシスは激昂する俺とは対照的に終始落ち着いた態度を崩すことはなかった。

「本当に嫌なら、チョコボがセフィロスにそう言って断るんじゃないか?」

「クラウドはセフィロスに心酔してるんだ。……そんなの残酷じゃねーか」

「…………」

「それにトップソルジャーと修習生だぞ!? もし変なうわさでも流れたら、つらい思いをするのはクラウドのほうだ」

「ふぅん……ザックスはやさしいんだな」

 独り言のようにそうつぶやくと、彼は嬉しそうに切れ長の双眸を細めた。

「茶化すなよ! 一応真面目に答えてんだぞ!」

「そんなつもりは全然ないよ。チョコボくんはいい友だちを持ったなって感心したんだ」

「ケッ、言ってろ!」

 車窓からの風景が、さらにローカルになってゆく。

 さすがに空港近くの駅は、それなりに大きかったし、近隣にもステーションビルやオフィスビルなどが林立していた。

 だが、ローカル列車に揺られること約二時間。

 今の風景はどうだろう?

 針葉樹林が寂しい姿をさらし、時折目に入る緑は、苔生した岩壁などだ。

 冷たそうな湧き水が小さな滝を作り、涼しげな音を奏でていた。

                      

                  

         

       

 

 

 とうとう同じ車輌に俺たち以外の人間が居なくなった頃、ようやく目的の場所に到着したらしかった。

 駅員もひとりふたり程度で、欠伸をしながら切符を回収している。

 俺はくしゃくしゃになった切符を寝ぼけた駅員に渡すと、さっさと駅内から飛び出した。急がなければニブルヘイムに着く前に日付が変わってしまうかも知れない……そんな焦燥感に襲われて。

「ザックス、待てよ」

「早く!! ジェネシス。おいおい……もう夜だよ……っつーか、後数時間で真夜中だな」

「そうだねぇ。ずいぶんとのどかな場所だね。電灯がないから道がわかりにくいだろうなァ、あっはっはっ」

「笑ってる場合じゃねーだろ。宿取るにしても真夜中じゃ…… ええと、地図地図!! まいったな。駅から村までもけっこうあるぞ!!」

 ズボンのポケットから地図を取り出し、月明かりで眺める。

 ジェネシスは、人影のない駅周辺を、あてもなくフラフラ歩いているだけだ。

 チッ……参ったなァ。ホントに田舎なんだなァ。

 

「ザックス〜」

「なんだよ、おい、こっち……」

 地図を片手にヤツを促す。だが、彼は見知らぬオッサンを背後に従えたまま、俺を手招きするのだ。

「なんだよ、どうした……」

「送ってくれるって」

 にこにこと顔だけで笑いながら、ジェネシスが言った。よく見ると、さっき切符を回収した駅員のオッサンだった。

「で、で、でも……」

「アンタら、ニブルヘイムの村に行きたいてェ」

「え、ええ、そうなんスけど」

「なんだァ、神羅の人なんだってかァ?」

 オッサンというよりジイさんだな。老人特有のくせのあるしゃべり方に注意しつつ耳を傾ける。もしやセフィロス到着の情報を聞けるのではないかと思って。

「そうじゃねェ、あすこには神羅屋敷があるけんねェ」

「そう、そこに行きたいんだよね。でも俺たち初めての土地だから、ちょっと勝手が分からなくて困っていたんだ」

 愛想良く答えるジェネシス。本当にこいつは人のあしらいが上手い。

「んじゃて、乗ってけ。車出すし」

「ありがたい。助かるよ」

 と、ジェネシス。すすめられるままに、荷物を載せてしまう。

「いんや、わしもどうせそろそろ帰るところじゃったけ。ニブルヘイムは通り道じゃ。そっちの兄ちゃんも、ほれ荷物上げ」

「ザックス、早く」

「え、あ、あの、マジすいまっせん!! ホント助かりますッ!!」

 地獄に仏とはこのことだ。バスは数時間に一本程度。しかも終バスが出てしまった的雰囲気プンプンなのである。車で村まで送ってもらえるならそれに越したことはない。

「ほい、乗って乗って。ちょっと揺れるけ、ちゃんと座ってな」

 ジェネシスともども、お言葉に甘えさせていただく。

 いや……むしろこれは、俺の手柄なんかじゃなくて、ジェネシスが機転を利かせてくれた結果なのだ。俺などただ必死に地図とにらめっこして、獣道を捜していただけなのだから。

 スプリングの古くなった座席はお世辞にも座り心地がいいとは言えなかった。

 だが、田舎道の運行はスムーズで、ほんの20分程度で、俺たちは目的の場所へ到着することができたのだ。

 ……そう、クラウドの故郷……ニブルヘイムへ。