〜 めばえ 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<8>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「あれッ? ありり〜? 難しいよぅ、ザックス」

「あーん、もう、なんだってんだよ。修習生連中は」

 『クラウドは』とはいわず、『修習生連中』といったのは、修習生、皆が皆、クラウドと同じことを繰り返していたからだ。

 そう、応急処置法と包帯の巻き方の反復演習である。

 早くも掃討作戦の実施が翌日に迫っているのだ。

 クラウドの話では、修習生のミッション同行クラスは、昼までで授業を切り上げて、午後はシーウォームの生態の学習と、応急処置法の自主訓練になったそうだ。

 一般的な救急用具の使い方、包帯の巻き方などは、一度説明してしまえば、後は本人の反復練習しか身につける術はないということなのだろう。

 ワガママ一杯甘えっ子のクラウドであるが、授業や実習に臨む態度は真剣そのもので、今も食堂のすみっこでオレを相手に包帯を巻いているのだ。

 レクリエーションルームは人が多くて恥ずかしいのだという。

 

「だって、まだ上手くできないんだもん。あそこ、ソルジャーの人たちも来るし、見られたらやだもん」

「ヘイヘイ。ってゆーか、足、もういい?」

「待って、もう一回!!」

「まだやんのかよ〜」

「だって、先生が明日までにちゃんと出来るようにって言ってたもの。もし、ザックスが怪我したら、おれが手当してあげるね!!」

 にこにこと満面の笑みで宣言するクラウド。なんだかもう、こいつは弟というか……そこを通り越して、放っておけない息子のような気分だ。

「はい、ザックス。もう一回、足に巻くね!」

「あー、ハイハイ」

 言われたままに片足を預けたときであった。

 音もなく俺の背後に近づき、声を掛けてきた輩が居たのだ。

 

「それじゃあ、俺も金髪チョコボに手当してもらおうかなァ。……ザックス、お疲れさま」

 ごく当然の流れのように会話に滑り込んできたのは、変態紅コート……もといジェネシスであった。

 人が少なかったからよかったものの、昼時だったらセフィロスがやってきたときと同じような騒ぎになっていたに違いない。

 こいつはセフィロスと同格のトップソルジャーなのだ。……変態だが。

「あ、こ、こんにちわ!!」

 人見知りのクラウドが、頬を真っ赤に染めて頭を直角に下げる。どうもクラウドは緊張すると顔が上気するらしい。

「やぁ、元気そうだな」

 薄い笑みを浮かべつつ、挨拶を返すジェネシス。

「ジェネシス? どうかしたのかよ?」

 俺の物言いが突っ慳貪だったせいか、クラウドが驚いたようにこちらを見た。本当に顔に出るヤツだ。

「ああ、今夜からの湾岸封鎖の件でね、たぶんラザードが開始前におまえを呼び出すと思う。セフィロスはそういう細かいことは苦手な男だし」

「そうか。じゃ、メシが終わったら、統括室へ行っておくかな。……と、そいつを俺に伝えに、わざわざ来てくれたのか? アンタはミッション参加じゃないだろ」

「ザ、ザックス……そんな言い方……」

 クラウドが、おろおろと困惑した口調で窘めてきた。

 そんなつもりはないのだが…… 無愛想に聞こえるのであろうか。

「ああ、いや、一般寮の……こんなところにまで足を運んでさ」

「そう。いけないか?」

「う……あ、い、いや……」

 面と向かってそう聞かれると、返事に困惑する。

 だが、へどもどしている俺を後目に、ジェネシスの興味の対象はさっさと、となりの少年に移っていた。

 

 

 

 

 

 

「入社式の時、中庭で会ったね」

「あ、は、はいッ! あのときは気が動転していて、申し訳ありませんでした!」

 即座に謝罪するクラウド。そんなに気にする必要はないのに。というか、ジェネシス相手に頭を下げる筋はまったく無えッ!……と思う。

「ふふ、無事に辿り着けたようでよかった。……それ」

 と指さすジェネシス。

「え……? あ、あの……」

「包帯、巻いてみて」

 そういうと、ジェネシスは、にこにこと笑って見せた。

「え……あ、は、はい……で、でも……」

「修習生なんだから練習していたんだろ。上手くできないのは当たり前なんだから」

 ……へぇ、こいつ、こんなセリフも吐けるんだ。

 無気力でヘラヘラしているだけのポエマーかと思っていたのに。

「は、はい。じゃ、手……失礼します」

「あ、待った。ここに……ね」

 そう言うと、ジェネシスは、まるでそのまま口づけするかように、クラウドの側に顔を寄せた。

「ひゃ……」

「ここ…… けっこう怪我する人多いから」

「あ、頭ですか……?」

「そう。ああ、じゃ、俺が額に傷を負ったとしよう。大変だ、血が止まらない!! って、シチュエーションで、ハイ、どうぞ」

「はッ、はいッ!!」

 ジェネシスは、身を寄せたまま、ぴたりと静止姿勢を取った。

 ひどく神妙な面もちで、白い手が包帯を巻いていく。

 額の中央にガーゼを当て、傷口を刺激しないような手つきなのが、真に迫っていた。

 

 ……セフィロスにはすまないが、ジェネシスとクラウドという絵づらも悪くないなと思う。

 もちろんホモダチをお奨めするわけではないが、ジェネシスはとても整った容姿をしているし、こうして笑っていると優男風でやわらかな雰囲気になる。

 セフィロスの場合は、全身すべてがガッツリと『英雄』していて、優男にはなれない。……というか、英雄以外の何者にもなりようがないのだ。

 その点、シチュエーションによって、上手く自らを演出できるジェネシスのほうが、クラウドに似合って見える。いわずもがな、クラウド自身もとても可愛らしい外見をしているのだから。