〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<18>
 ザックス・フェア
 

 

 


 

「ここで足を滑らせたらしくて……」

 ルーネスが緊張しつつも、さきほどと同じことを、しっかりと説明していた。

「この場所ね…… ザックス、地図と照らし合わせてくれ。ポイントは?」

「え、あ、ああ。ポイントF−3地点が一番近いな。正確には、それの北側なんだけど」

「F−3だな。……君、話を続けてくれ」

 特別仕様の携帯なのか、ヤツはいつもの紅いヤツじゃなくて、見たことのないブラックの電話を手にしていた。せわしなく指がボタンを押すが、質問できるような余裕はなかった。

「最初は、そこの下の方のへこみに立っていたんです。足場は悪いけど、壁につかまっていれば普通に立てていて…… ロープで引き上げるのが難しそうだったから、俺と班長がザックスさんを呼びに行き、後のふたりが見守っていました」

「ああ、なるほど……あの足場か……下の方だし、そこの岩が邪魔だね」

「あ、はい、そうなんです。最初は俺たちで引き上げようと思って、ロープを垂らしたんですけど、岩盤でこすれてしまって…… もともと使う予定のないものだったから、それほど強度のあるものではないし」

 ルーネスが苦しげにつぶやいた。

 そうなのだ。今回は確かに山頂での実習ではあったが、『クライミング』をするような場所ではない。

 ちゃんと登るためのルートはあるし(最短距離を登ってきたジェネシスは別だ)、ロープは各班に一本、形ばかり備えさせていただけだった。実際、昨年もその前の年も、この場所で研修生の実習を行ったが、ロープの出番などなかった。

「うん、それで……突風が吹いたって言っていたよね。彼が飛ばされたとき、どんな感じだったの?」

「ハイ……それが、暗かったし、一瞬のことだったから。ただ風は北から吹き付けていたので……」

「風のことはわかった。落ちる瞬間、彼の身体が浮いたわけだろう? なにか、手に持っていたりはしなかったか?」

 ジェネシスが次から次へと、きわどい質問をする。事故の状況を思い起こすのはつらかろうが、ルーネスは気丈に答えていた。

「それはなかったと思います。ロープを掴んでいたけど……結局、ち、千切れてしまって……」

「つまり、ロープの片方をあの子が握っていたということだね?」

「あ、は、はい。飛ばされたときはそうであったはずです」

「……そうか。それでは、そのときのあの子の服装は?帽子などは被っていなかったか? なにか特徴のあるアクセサリーや上着なんかは?」

「え……いえ…… ああ、ただ、もう夜遅かったので、作業着じゃなくて私服に着替えていました」

「私服って? どんなの?」

「え? ええと…… レモンイエローっぽい、洒落た感じのパーカーと下はコットンのカーゴパンツみたいなの……でした」

 そうだ。

 パーカーはどこぞの人気ブランドで、セフィロスからのプレゼントだったはずだ。ムカツクやろうだが、センスはいいらしくて、さわやかな色合いが、クラウドによく似合っていた。

「レモンイエローのパーカーね…… な、ザックス、それって蛍光塗料は入っていないのかな? よくあるだろ、蛍光糸で織られたヤツ」

 そう言いながら、ジェネシスはまたせわしなく携帯を操作した。

「い、いや……どうだっただろ。よくわかんねェな……」

「アレって確かスポーツブランドの新作でしたよね?Pureは蛍光色のユニフォームをよく作っているから……」

「ああ、あそこのヤツか。だったらおそらくそうだろうな」

 ルーネスとジェネシスの間で、俺にはわからない会話が交わされる。このオシャレ野郎どもめ!服なんか着れりゃいいっていう俺とは別世界の奴らだ。

「よし、ザックス、ここから岸壁に沿って、南西方面を調べていくぞ。人手が欲しいところだが……もうひとりのソルジャーは、修習生たちについているように指示しておけ」

「あ、ああ、そう頼んである」

 俺は頷き返した。

「あ、あのッ! ソルジャー・ジェネシス!ザックス! 俺たちに手伝わせてもらえませんでしょうか!? もちろん、危険なことは承知の上ですッ!」

 ルーネスの後ろに控えていた、班長のイングスが前に進み出た。真剣そのものの表情だ。

「…………」

「クラウドは俺たちの仲間だし……もちろん、無茶はしませんからッ!」

 ジェネシスが少し困ったような苦笑をした。

 ここは引率のソルジャーである俺が、きっちりと止めるべきなのだろう。言い聞かせてテントに戻らせなければならない。……こいつらの気持ちを考えればつらいけど。

「いや……おまえら、気持ちはわかるけど……」

「お願いします、ザックスさん!」

 ザシャッと音がするほど勢いよく頭を下げるふたりだ。

「そうかい。……そうだねェ。君たち、俺の指示を守れるか?」

 そういったのは、ジェネシスだった。

「え……は、はい!」

 ルーネスとイングスがしゃっちょこばって敬礼をした。

「危険だと判断したら、すぐに引いてもらうからね」

「お、おい、ジェネシス!」

「ザックス。さすがにこの状況だ。人手が欲しい。……この子たちはしっかりしていそうだ」

「だ、だが……」

「それに、チョコボっ子の身を心から案じている。助力してもらおう。せめてあの子を見つけ出すまでは」

「…………」

「ザックスさん! やらせてくださいッ! ザックスさんに迷惑は掛けませんからッ」

 班長が声を上げた。

「おい、誤解するなよ。俺に迷惑とか……そんなのはどうでもいいんだよ。この上、おまえたちに何かあったら……」

「慎重に行動します! 指示されたこと以外はでしゃばらないと誓います!」

 持参した懐中電灯の中で、彼らはふたたび敬礼して俺を掻き口説いた。

「……わかったよ。手を貸してくれ、ふたりとも。そして俺にも約束してくれ。絶対に無理なことはしないと」

「はいッ!」

 声をそろえて、ここまで真剣な返事をされては、どうにも致し方がなかった。だいたいジェネシスが認めているのだ。それこそ俺が出張って反対する理由はなかったのだ。