〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
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 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

 

「ザックス、お帰り! ザックスの分、ウチの班で作ったんだよ」

 子犬のように駆けだしてくるクラウド。

 見れば、皆、飯ごう炊飯を終えて、簡単な昼飯をすませたところだったらしい。メニューはお約束のカレーらしく、班ごとに大鍋で作ったそいつは、まだけっこう余っている様子であった。

「おーう、サンキュ。なんだ、クラウドはもうすませたのか?」

「うん、班のみんなと一緒にね。でも今は休み時間だし、ザックスが食べている間、一緒に居る」

 『一緒に居たい』でも『一緒に居てもいい?』でもない。クラウドは「身内」となった俺には、自分の欲求や心で決めたことをストレートに告げてくる。

 つまらないこだわりなのかもしれないが、その優越感をセフィロスに分けてやるのは、何だかもったいないような気がするのだ。

  いや、別にそんな理由で『交際反対!』というわけではないのだが。

 

「ザックス? どうしたの?」

「え、あ、ああ、いや」

「町まで行くのに結構時間がかかったみたいだもんね。疲れちゃった?食欲ない?」

 温め直したカレーを大皿にとりわけながら、彼は少し心配そうに訊ねてきた。

「いや、そんなことねーよ。超腹減ってる。ただ山道がけっこう入り組んでたから、運転するのに気ィ使ったかな」

「そっかぁ。ここ、かなり奥のほうだもんねェ。はい、どーぞ!」

 ドン!と山盛りカレーと豪快なフルーツサラダが置かれる。なんつーか、まさしく「男が作りました!」と言わんばかりの作品だ。

「みんなで作ったから、美味しいよ!」

「ああ、サンキュ。……っと、クラウド、別にわざわざ側ついてくれなくていいぜ?休憩時間なんだろ?」

「うん。休憩時間だからザックスと居たいの」

 ストレートに彼はそう応じた。

 ……マズイ……この率直さ、素直さ、デカイ目が何のてらいもなくキラキラと輝いている。無垢の少年というのを全身で体現するクラウド……

 よりにもよって、無垢とは正反対の位置にいる、世俗の垢でドロドロのセフィロスなんかに目ェつけられちまって……

「ザックス? 食べないの? さめちゃうよ」

「え? あ、ああ」

「大丈夫?もしかして具合悪いんじゃ……」

「バカ言ってんな。へへッ、一応ソルジャーのはしくれなんだぜ。健康管理は基本中の基本だからな」

「そう?そんならいいけど……」

「やれやれ修習生のクラウドに心配されるようじゃ、俺もまだまだだな」

 そうつぶやいて、いたずらっぽく笑ってやると、クラウドもようやく安心してくれたらしく、『お茶、淹れてくるね!』といって、パタパタと台所へ走っていった。

 やれやれ、アホか、ザックス。

 クラウド本人に俺の心配させてどうするんだっつーの。だが、ジェネシスが町に現れたのは相当気になることではあるし、ヤツの話によると、セフィロスの馬鹿野郎もこの近辺をうろついているのは、ほぼ間違いない。

 もしかしたら、町で見たクラウド似の金髪少年と、エロイやり取りをしていたのは、やっぱりセフィロス本人だったのかもしれない。声がよく似ていたしな……

 すぐに淹れたてのお茶を携えて、クラウドが戻ってきたのを見て、俺はさっさと気を取り直した。

 

 

 

 

 

 

 到着したその日は、特にハードな予定があるわけではない。

明日からはきっちり授業と実習が組み込まれているが、今日は昼と夜の飯作りくらいで、後は自習時間だ。

 神羅の修習生のカリキュラムはけっこう厳しく、一年を三期に分け、それぞれの期末に試験があるのだ。もちろん、そいつはすべての学科……つまりバトル実習や演習だけでなく、語学や数学、経済、法律(まぁ、この辺のレベルは『社会科』くらいに考えてくれればいい)など、クラウドなどは苦手でたまらないといった科目もある。

 この研修旅行の後には、それほど時をおかず、彼らにとって初めての期末試験がやってくる。それゆえ修習生たちは、この旅行中もテキストやノート、単語帳などから解放されることがないのだ。

 まぁ、大変だろうが、この苦行は修習生ならば誰でもが通る道。

 もちろん俺も同じようにしごかれた。そいつが全部役立っているかどうか、実感として感じられる機会はまだ少ないかもしれない。だが間違いなくソルジャーになるためには必要なことだと思うのだ。

 一人前の軍人は、戦闘能力だけではダメなのだ。ある一定レベル以上の語学力、知識、教養……それらは必ずクラウドの望む将来に役立つはずだ。

 

 俺は一応、仕事になっている見回りを始めた。修習生たちは各班のごとの割り当てになっている、簡素な宿舎でそれぞれ勉強するのだ。

 寮の部屋の備品ほどではないが、簡易デスクとベッドが人数分押し込まれているので、各自机に付くことも出来るし、疲労を感じる者は、休息をとることもできる。

 一班ずつ見回ってゆくと、それぞれの班の特色が見えて面白い。ちょっと人間観察みたいな気分だ。

 たとえば、とある班はそれぞれ机について、もくもくとテキストを進めている。私語をする者はおらず、各自のペースで勉強を進めているのだ。なんだか予備校の自習実みたいな雰囲気で、班長に伝達事項を確認すると、早々に退散した。」

 また別の版は、机について勉強するものと、ベッドで横になってテキストを眺めている者がいる。会話がないのは先ほどの部屋と同じだが、なんとなく冷ややかな空気が流れている。俺が様子を身に入ると、皆きちんとあいさつを返してくるのだが。

 一つ頷き、その部屋を退出し、奥に位置する部屋の前に足を進めた。古めかしい木製の廊下がギシギシと俺の体重に文句を吐いた