Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<最終回>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クラウド!」

 オレはふたたび、チョコボ頭の名を叫んだ。

 

「あ、あれ? 兄さん、あれ、セフィロスじゃない? ねぇねぇ、ヤズー」

 ガキが大声をあげた。

「ああ、そうみたいだね、どうやら間に合ったようだ、よかったね、兄さん」

「おい、ヴィンセントは? ヴィンセントも一緒かッ?」

「う〜ん、よく見えないけどねぇ〜」

「おい、ちゃんと見ろよ! ヴィンセントッ!ヴィンセントッ!」

「ちょっ……兄さん、よそ見運転しないでよ」

 

 そんな会話の後、ヤツらはこの旅荘を見いだし、車を止めた。すぐさま、ダカダカと騒々しい足音を立てて階段を昇ってくる。

 

 バン!と扉が叩き付けられ、金髪のガキが真っ先に飛び込んできた。

「ヴィンセントッ!」

「あ……ク、クラ……」

 ヴィンセントが掠れた声でクラウドを呼ぶ。

「ヴィンセント、ヴィンセント! 怪我してんのッ? 大丈夫かッ?」

 クラウドは、それこそ脱兎のごとくヴィンセントに飛びつくと、細い身体を抱き起こし、頬を包む。

「あ、大丈夫だ……」

「ヴィンセント、ごめんな、アンタをこんな目に遇わせて……」
 
「ク、クラウド……」
 
「避難してた村の人から事情聞いて……もうホント、俺……心配で心配で……」

「大丈夫だ……クラウド……私よりも彼を……セフィロスが何度もかばってくれて……」

 そんなことを言ってくれる。

「別にそんなことはない。……オレは自分の身を守っただけだ」

 オレは無愛想にそう言った。

  

「セフィロス! ヴィンセントッ!」

「兄さん、ヴィンセントいたの〜? セフィロスは?」

 ヤズー、カダージュの順番だ。ひとりは車を守らせているのだろう。

 

「ヴィンセント、ヴィンセント……動けるか? ほら、つかまって。……ごめん、ごめんよ、アンタのこと放っておいて……すぐ、引き返そうと思ったんだけど……街を見つけるのに時間がかかって……」

「大丈夫だ……それより……おまえが無事でよかった、クラウド」

「何言ってんだよ、俺のことなんかどうでも……ああ、よかった……万一のことがあったら……俺……ホント……よかった……」

「……クラウド……」

「……セフィがついているからとは思っていたんだけど……でも、やっぱり心配で……よかった……」

 ぎゅうぎゅうとヴィンセントの身体を抱きしめ、乱れた髪に顔を埋めてつぶやくクラウド。

「おい、ガキ。のんびりしている場合じゃないだろう。やつらがひるんでいる間にここから離れるぞ」

「あ、ああ、そうだな。ヴィンセント、ほら乗って!」

「え……あ……」

「はやく負ぶされよ、遠慮してる場合じゃないだろ!」

 クラウドが慌てたようにそう言うと、ヴィンセントはあやまりながらもクラウドの背に乗った。

 

「……セフィロス、俺につかまって」

 ヤズーが言う。

「……ああ」

「ちゃんと毒は吸い出したの?」

「適当にだがな。……毒消しは飲んだ」

 そう答えた。

 オレの状況をすべて心得ているような、小気味のいいやり取り。さすがに安堵の吐息がこぼれた。

 

 オレたちはロッズの守っていた車まで一挙に走り抜けると、待っていたかのようにジープが動き出す。

 ヤズーのベルベッドナイトメアが火を噴き、行く手をふさぐスケルトンブロウを次々に打ち落とす。カダージュはジープに飛びかかってくる雪豹を双刃で切り裂き、道を開く。

 

 時速200qはくだらないスピードで、モンスターの大群を振り切ると、ようやくオレたちは人心地着くことが出来た。

 

 

  

「やれやれ危なかったねぇ……なんにせよ、ふたりとも生きててよかったよ」

「怖い言い方すんな、ヤズー! でも、こんな怪我させちゃうなんて……ごめんよ、ヴィンセント、本当にごめん……」

 ヴィンセントのとなりにきちんと陣取って、ヤツの頭を抱きしめるクラウド。頬ずりをくり返し、しっかりと毛布でヴィンセントの身体を包む。

「クラウドのせいではない……それより助けに来てくれて……ありがとう……」

「バカ言ってんなよ、あたりまえだろ!」

 

「……セフィロス」

 意外にもオレに声をかけてくるヴィンセント。

「……なんだ」

「具合はどうだろうか……まだ苦しいか……?」

「……自分の心配だけしていろと、何度言われれば気が済むんだ。オレは大丈夫だ」

 ようやく毒消しが体内の毒気を排除しつつあるようだ。

「……それより、そっちの状況を教えろ。車があるということはどこかに行き着けたんだろう」

「うん、目的地にね」

 至極アッサリとヤズーが答えた。

「あ、ちょっ……ヤズー!」

 慌てたように、クラウドがヤズーをたしなめる。

「……なんだと?」

「うん、だから目的地……アイシクルロッジの温泉街にだよ。さっきの村の人たちはみんなそこに避難してる」

「……そんなに近い場所だったのか? だが地図では……」

「まぁ、いいだろ! とにかく見つかったんだからッ!」

 強引にまとめるクラウドだった。笑いを堪えるヤズー。

 

「……おい、クソガキ。また貴様か」

「違うよ、事故だろ、事故!」

「地図の一つもまともに読めんのか。成長しとらんな……まったくおまえは神羅で何を習ってきたんだ」

 さすがにうんざりとして、オレはつぶやいた。

「あ、ほら、もうすぐ着くから! ……それより、セフィロス、ヴィンセントに何もしなかったろうな? 守って戦っただけだろうな?」

「さてなァ……」

「ちょっ……なんだよ、その言い方!」

「よ、よさないか、クラウド……あっ……痛ッ!」

 クラウドを止めようとして、腕の傷に顔をしかめるヴィンセント。

「何してんだよ、大人しくしてろ、ヴィンセント。ほら、ちゃんと毛布にくるまって」

「……はぁ、ヤレヤレ……ガキの相手は骨が折れる……」

 そう毒づくと、オレは前の椅子に手をかけて、ヤズーのとなりに席を移った。クラウドの近くにいると、いつまでもヤツの焼き餅に付き合わなければならない。

 

「……楽になった? セフィロス」

「まぁな。オレとしたことがドジを踏んだ」

「フフ、さすがに旅行でバトルは想定していないからねぇ」

「……まったくだ」

 

「でもさ、来てよかったでしょ?」

 いたずらっぽく微笑んでヤズーがオレの顔をのぞき込む。カダージュのガキはロッズのとなりで騒いでいる。

 この男は、弟が側にいるときといないときでは、微妙に物言いが異なるのだ。

 

「……どこがだ。こんな煩わしいことになるなら、コスタデルソルで昼寝でもしていればよかった」

 オレは吐き捨てるようにそう言った。

「……そう?」

「そうだ。クソ……まだこめかみが痛む!」

「……天罰じゃない?」

 聖母のような笑顔を作るヤズー。女のように長い睫毛が切れ長の双眸を覆った。」

 

「……なんだ、それは」

「いくらなんでも、縛りつけてっていうのはヒドイんじゃないかなァ……? まぁ、個人的には、是非、やってみたいけどね」
 
「……貴様……なんだと?」

「だ・か・ら、天罰、でしょ? あ〜あ、あんなに真っ赤にこすれちゃって……可哀想に」

「…………」

「でもね、痕が残るほどっていうのは、ちょっといただけないよ?」

「……おい」

     

 くすくすと一通り笑うと、不穏な顔つきのオレに、

「お疲れ様」

 と言った。

 もはや、言葉の意味を問いただす気力も、残っていないオレであった。

 

 

 その後のことは、わざわざペンを取る気にもなれない話だ。

 

 当初の目的地、アイシクルロッジのホテルへ雪崩れ込み、存分に休養を取った後、オレたちはごく普通のバカンスを過ごした。

 温かい温泉に、美味い飯。

 

 そう、最初からそうであったはずなのだ。

 

 天罰といえば、てきめんなのはクラウドだろう。

  

 とうとう、このWet season Vacationの間、一度たりとも、ヴィンセントととは同じ部屋で楽しむことはできなかったのである。

 もちろん、事情は周知のとおりだが、もちろんそれは秘密だ。

 

 もうしばらく……あの小さな家で、時を過ごしたい……

 

 ……そう思っているから……な