うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセントさん、他に何かすることは? 俺に手伝えることがあるなら何でも言って欲しい」

 キュッキュッと調理台を拭きながら、レオンが訊ねた。どうも手伝い足りないらしい。

「い、いや……もう……なにも…… それより、ありがとう……疲れているのに」

「まったくその心配はない。あなたは気遣いがすぎる」

 確固たる口調でそう宣うレオン。

「あ……す、すまない……」

「い、いや……そんなつもりではなくて…… ええと……その……言葉が上手くなくて申し訳ない。世話になるのだし、あなたにも好意を持っているので、色々と手伝わせて欲しいと……そういうことなのだ……」

「あ、ありがとう……」

「礼は無用だ」

「い、いや……でも、うれしいから…… あ……もう湯が沸いているので、風呂に入ってくれ。後で着替えを持って行くから……」

「一番風呂などもらうわけにはいかない。あなたの背中を流させていただきたい」

「ええッ!? そ、そそそそんなとんでもない……!! そ、それは……そんなことをしてもらうわけには……」

 

「ブハーッ! ハッハッハッハッ!」

「アーハッハッハッ!」

 吹き出したのは、イロケムシと同時であった。

 ちなみにヤツもキッチンで後かたづけを手伝っていたので、やつらのより近くで大笑いしたわけだ。

 レオンが怪訝そうな顔をしてオレたちを眺める。リンゴのように赤面して顔を上げることさえできないヴィンセント。

「どうかしたのか?」

 と、素のままのレオン。

「だっ……だって……なんかもう、ほとんど『新婚さん、いらっしゃい!』じゃなーい!! ああ、おかしい!」

 ケラケラと甲高い声をあげて笑うイロケムシだ。

「ヤ、ヤズー! そ、そんな……」

 ヴィンセントが、あたふたと滑稽なほどに慌てる。

「ごっめーん、ヴィンセント。ああ、レオンも特定の相手がいるのに。でもさぁ、なんかもうホント仲良しさんだよねぇ。お似合いだしィ。『ここは若いふたりに任せて……』とか言って退席したくなるよ、ねぇ、セフィロス?」

「アホチョコボよりはおまえに似合いかもしれんな、ヴィンセント」

「ヤ、ヤズー! セフィロス……! よ、よさないか、ふたりとも」

「ところで先ほどの続きなのだが」

 きっちりと前置きをして続ける。本当に素のままで真面目くさったヤロウなのだ。

 

「ヤズー、先に風呂へどうぞ。俺はここを済ませてからもらうから」

「うんうん、わかったよ。でも、俺たちの部屋は離れにあるから。そこにもバスルームあるんだよ。だから遠慮しないで先に入っちゃいな」

「でも……」

「本当に……しなければならないことは、あらかた終わっているし……ゆっくり疲れを落としてくれ」

 ヴィンセントが重ねてそう言い聞かせると、納得したのか思いの外あっさりとヤツは浴室に消えた。とにかく『こう』と決まったら、行動がいちいち早いのだ。

 慌てた様子でバスローブと着替えを用意しに行くヴィンセント。

 レオンとヴィンセントを足して2で割れば、ちょうどよいペースになるのかもしれない。 

 手にしていた読み物をラックに放り投げ、立ち上がる。

 海の近くを歩いてきたせいか、肌がべたつくのだ。蒼い海を渡る潮風は、心地よいものだが、匂いがつくのと、べたつくことだけは辟易とする。

 広いバスルームはレオンに譲り、ゲストルームの風呂を使った。こちらはごく素っ気ないつくりではあるが、面倒くさいのでシャワーだけでよしとする。

 

 熱めの湯で、ボディソープの泡を流すと、すっきりと目が覚めてきた。これから休むのに、『目が覚める』というのもどうかと思うが、ぬるめの湯だとシャワーを浴びた気がしないのだ。

 神羅でクラウドのガキの側に居てやった頃は、よく風呂など一緒に入ったが、アイツは熱い湯はダメだった。すぐにのぼせて鼻血なんぞ垂らしやがる。

 

『お水埋めて!』

 といって、否応なしに、ぬるま湯にされたのも、今思い出すと微笑ましい記憶であった。

「……ったく、バカが……クソガキめ。いったいどこで何していやがる」

 レオンがここにいるということは、おそらくアイツと入れ替わったのだろう。この家の連中は誰ひとり欠けていないし、姿がないのはクラウドだけだ。

 と、すると、なにかあったとすれば、あの子以外には考えられない。

 念のため、数回アイツの携帯番号にかけてみたが、電源切れのメッセージがなるのみ。昨日の今日だ。ヴィンセントへの誤解を打ち消したいあいつならば、常に携帯電話を気にしているはずだ。にも関わらず通話できないということは、やはり何かあったのだろう。

 

 まぁ、アレはアレでなかなかしぶといガキだから、それほど心配するつもりはないが……

 

 素肌にバスローブを引っかけ、浴室を出る。

 やや行儀の悪い格好で、ソファに腰掛けた。

「ふぅ……」

 ほっぽり出しておいた携帯を眺めるが、着信履歴もメールもない。もっともクラウドは面倒くさがりなので、メールで連絡してくることは、これまでもほとんどなかった。

 

 ……コン……コン……

 

 ためらいがちで小さなノックの音。

 そう、ノックひとつでも個性が出るのだ。

 ダンダンダンと無遠慮で感覚の短いヤツはクラウド。タンタンッ!と勢いのいい、突っ慳貪な雰囲気のヤツはイロケムシ……

 そして、今のヤツはヴィンセントであった。