うらしまクラウド
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 
 

 

 

……真夜中。

  ゴウゴウと吹きすさぶ風は一段と強さを増したようだ。

 窓を打つ雨も、まるでガラスが砕けるのではないかという勢いであった。

 女の悲鳴のような……突風。

 そして、雷鳴……

 

 この家の窓ガラスはすべて強化ガラスだ。

 改築の際、今後に備えてすべて取り替えさせた。それにもかかわらず、窓を通して轟音の一部が室内に忍び込んでくるというのは、やはり外の荒れようが尋常ではないのだろう。

 

 一度、まどろみはしたが、眠り込むことはできなかった。

 ほの明るいデジタル時計の光が、午前1時を差す。

 

 のどの渇きを覚え、オレは寝台から下りた。

 キッチンに行って、茶でも賄えばよいのだろうが、面倒くさいので水でよしとする。ここはサニタリー設備付きの客室なので、水ならばすぐとなりの部屋で汲めるのだ。

 

 軽くグラス一杯の水を飲み干し、寝室へ戻った。

 ふと……部屋の外が気になって扉の方へ足をすすめる。理屈ではない。『なんとなく気がかりだった』だけだ。

 

 天蓋つきの寝台から、扉まではそこそこの距離がある。

 瀟洒な装飾のある取っ手を引っ張ると、それほど力を入れていないにも関わらず、引き戸は勢いよく内側に開いた。

 ゴロリとなにやら重たいモノが、転がり込んでくる。

 

「……ん……? あ、あれ?」

 驚いたように、キョロキョロと辺りを見回す『クラウド』。吃驚したのはこちらのほうだ。

 見れば毛布にくるまったまま、寝入っていたようであるが……

 

「……なにをしている? おまえは……」

 やや呆れた口調でオレはそう尋ねた。

「……あ、ご、ごめんなさい……セ、セフィロス、出てくると思わなくて……」

「……だから、何をしていたと聞いている」

「……あの……」

 ああ、いかん。

 この子には詰問するような口調はダメなのだ。

 植え付けられた『セフィロス』に対する、恐れがすぐさま甦ってくるのだろう。

 

「……あの……ご、ごめんなさい……」

「違う、咎めているわけじゃない。どうした……外が怖いのか?」

「…………」

「……『クラウド』?」

「…………うん……ごめんなさい」

 消えそうな声で、そうつぶやくと彼は俯いてしまった。耳の裏側が真っ赤になっているところを見ると、恥ずかしくて居たたまれないのだろう。

「バカな子だ。最初からそう言えばいいだろうが」

 ヤレヤレと呆れた調子でそう言ってやった。

 

「……だって」

「いいから中に入れ。風邪を引く」

「……い、いいの?」

 大きな瞳が嬉しそうに輝く。

「そのつもりだったのではないのか? 戸口のところで待っていたのだろう?」

「……セフィロス、起こすつもりはなかったから……だれかが近くにいると思えば……怖くなかったし……眠れるかなって……」

「オレに声が掛けにくいのなら、ヴィンセントのところにでも行けばいいものを」

 ヴィンセントの部屋はクラウドのとなりだ。

 ヤツならば、ノックひとつですぐに中に入れてくれるだろう。

 

「そ、それは……ダメだよ」

「何故だ?」

「だ、だって……きっと……『クラウド』が嫌がるよ……オレ、ただでさえ、ヴィンセントさんには迷惑ばっか掛けてるのに……」

「ふふ、もうひとりの自分に遠慮しているのか。なんだか滑稽でもあるな」

「だって……仕方ないもん……」

 しゅんと項垂れた様子が、幼いころのクラウドを思い出させる。

 ふわふわと逆立ったクセ毛を撫でてやると、彼は不思議そうに顔を上げた。

「ここにいる間はオレに甘えろと言っただろう。……中に入れ」

「……あ、ありがとう」

 ようやくパッと明るい表情になると、彼はズルズルと毛布を抱えたまま、室内に入ってきた。

 

「ご、ごめん、オレ、迷惑……かけて。ソファとクッション、借りるね」

 持ってきた毛布をソファに伸ばし、クッションを枕代わりに敷いた。

「何をしているんだ、おまえは?」

 その様子がおかしくて吹き出しそうになる。

「え、こ、ここ……借りちゃダメ?」

「そうじゃないだろ。ほら、こっちに来い」

 寝台に座って、羽布団をポンポンと叩いてみせた。

「……セフィロス……」

「寝るならソファよりベッドのほうがいいだろ」

「う、うん……でも……いいの?」

「前にもおまえを抱いて眠ったことがあったぞ」

 オレの言葉に、『クラウド』は真っ赤になった。

 

「……じゃ、じゃあ、言葉に……あ、甘えます」

「フフ、ほら早く入れ」

 先に横になり、布団を持ち上げてやると、『クラウド』はまるで子どものように嬉しそうにとなりに忍び込んできた。

 頬がくっつきそうになるくらい近くにすり寄ってくると、楽しそうにクスクスと笑う。この子の仕草はあの黒猫に似ているようだ。おかしな含みなどなく、純粋に誰かと隣同士で眠れるのが、楽しくて嬉しくてたまらないといった様子であった。

 

「やれやれ。もとのクラウドもたいそう乳臭かったが、おまえも本当に子どもみたいだな」

「……セフィロスにそう思われるのは仕方ないと思うから。いいもん、別に何て言われても」

 開き直ったようにそう言ってのけると、少しだけ不満げに唇を曲げた。

 

 そのとき、カッ……!と天が光った。

 家中の電気を一斉に灯したのかと思われるほど、まばゆい光に包まれる。

 

 カッ……ガッ……ガガガガガァァァン!

 

「…………ッッ!」

 『クラウド』、耳を塞いで、身を竦める。

 さきほど、居間にいたときのように真っ青な顔をして。

 

「大丈夫だ。イロケムシも言ってただろ。この家は改築したばかりだ。この程度の雨風ではビクともせん」

「……う、うん……」

 恐る恐る……まるで確認するように『クラウド』は背後をじっと見つめた。