Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<32>
 
 クラウド
 

 


 

 しばらく目を閉じていたけど、そう何時間も眠れるものではない。

 そうでなくとも、丸一日以上、眠り込んでいたというのだから。そう考えた途端、なんだかお腹がすいてきた。

 まだ、熱はあるみたいだけど、頭とお腹は別物だと思う。

 そんなことをつらつらと考えていたところ、扉がゆっくりと開いた。

 ちょうどいい。ヴィンセントだったなら、きっとすぐに何か用意してきてくれることだろう。

「……クラウド」

 オレンジ色のランプの灯りの中、低く響いた声は、セフィロスのものだった。音を立てず、ゆっくりと寝室に入ってきた。

「セフィ、起きてたの?」

 俺の問いかけが的外れだったのか、彼は少しだけ困ったような表情を見せ、

「……オレはなんともない。わざわざ寝ている理由がない」

 ぼそりとそう応えた。

「……クラウド、具合はどうだ。ヴィンセントが熱は大分下がったと言っていたが」

「うん。もうなんともない」

「バカ。一昼夜、眠り込んだヤツがいうな」

「だって、もう平気だもん。お腹もすいてきたし」

「……悪かったな」

 話の流れを無視して、いきなりそう言われて、俺はちょっとびっくりした。

「ど、どうしたの、セフィ。なんだか、昨日……一昨日からおかしいよ? どうして謝んの?」

「…………」

 黙ったまま見つめられて、俺はますます動揺した。

「だ、だって、あれ……セフィたちがピンチに陥ったのって、不可抗力じゃん。あんな場所に落とし穴があったなんて、王子の地図にも書いてなかったんだし」

「オレの油断のせいだ」

「無茶だよ、セフィ。神様じゃないんだからさ。たまにはこういうことだってあるよ」

「…………」

 どうしちゃったんだよ、セフィ。そんな厳しい顔……

 俺的には、「セフィを助けたのは俺だぞ! 感謝しろ!」くらいのノリで、ちょっと偉ぶろうかと思っていたのに、そんな真似、到底できそうにない深刻さだ。

 

 

 

 

 

 

「……情けない」

 小さなつぶやきは、最初よく聞き取れなかった。

「え?」

「情けないな、オレは。……いつの間にか自分の力におごっていたのかもしれない」

「え……え? なんで、そんな……」

「リユニオンしていなくとも、神羅でトップを張っていたころと、同等の力量……いや、それ以上であると自負していたのに……お笑いぐさだ」

 包帯の巻かれた左手を見つめながら、セフィロスは低くつぶやいた。

「な、何言ってんの? セフィは今だって、十分強いだろ! 今回だって、まともな剣も持っていなかったのに、モンスター倒して、城の衛兵だって、全然近寄らせなかったじゃないか」

 俺は必死にそう言いつのったが、セフィロスは深く吐息すると、かぶりを振った。

「……オレの肉体……いや、精神もか……? 徐々に退化しているのかもしれない」

「た、退化? なんのことだよ?」

「この肉体は一度死んでいる。死の淵に在った者は、例え甦っても、いずれは……」

「バカ言うなよッ!」

 ガバッと身体を起こして、俺は大声を上げた。

「アンタ、いいかげんにしろよ! セフィは前よりも強くなって、この星に戻ってきたんだろッ! 一度や二度、ピンチに陥ったからって、いきなり悲観的なこと考えんな!」

「クラウド……」

「おかげさまでアンタがウチに来てから、申し合わせたように、嫌ってほどいろいろなことがあったよね? DGソルジャーのことや……ミッドガルに遠征までしたっけ」

「…………」

「でも、どのときも、どんなときでも、最後の最後まで闘って、勝ってきたのってアンタじゃないか! くやしいけど、ヴィンセントが失踪したときのことも……一番側で、最後の時まで彼を守り通したのもアンタだった!」

 すぅっと大きく息を吸い込み、俺は怒鳴り続けた。

「……どれほど……どれほど、俺がアンタに憧れ続けてきたかわかる? 子供の頃から……恋人として側にいた頃から、今この時まで、ずっとずっと一番…… 他の誰よりも俺の……」

 そこまで言ったときだった。

 ぼろっと、瞳から熱いモノがこぼれ落ちた。泣くつもりなんか無かったのに、激情に引き摺られ、涙腺が緩んでしまったのだ。

「セフィ……セフィ…… 怖いこと、言わないでよ。俺を不安にさせないで」

 嗚咽混じりにそうつぶやくと、俺は必死に涙を手で拭った。

「……すまん」

 セフィロスは低く言った。大きな手の平が、俺の頭に置かれる。

「悪かったな。泣かせるつもりじゃなかった」

「そう思うんなら、悲しくなるようなこと言わないでよ……」

「……オレの不注意のせいで、おまえをこんな目に遭わせるなど……自分でも信じがたかった」

「俺だって、いつまでも神羅の見習い兵じゃないんだよ。……強くなってるんだから」

「ああ、そうだ……そうだな」

 彼は俺の頭に手を置いたまま、二度ほど頷くと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。

「……腹が減ったと言っていたな。今、ヴィンセントを呼んできてやる」

「あ、セフィ……」

「……顔を拭ってから、寝てろ」

 俺は彼の後ろ姿に、思わず手を差し伸べる。しかし、セフィロスはそう言い残すと、扉を閉めた。