Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<25>
 
 クラウド
 

 

 

 ……白雪ちゃんの手前、かっこいいこと言っちゃったけど、正直俺はめちゃくちゃビビッていた。

 勝手のわからない異世界で、しかもここは敵の城の中なのだ。

 頼みの綱のセフィロスとヤズーが大ピンチなんて、俺にとっては初めての経験である。

 ここは一番、彼らふたりを救い出すのが、俺の使命……!と、口でいうのは簡単だが、現実は相当厳しそうだった。

 

 ようやく足が着いたと思えば、水は俺の胸のあたりまで来ている。かなり激しい流れだ。

 俺は肩に巻き付けたロープを、しっかりと確認した。

「セフィ〜ッ! ヤズー!!」

 叫び声は、ゴォゴォという水流に巻き込まれ、奧まで運ばれてゆく。しかし、いらえはない。

 俺は命綱のロープを少しずつ伸ばして、奧の方へと進んでいった。この深さの水の流れに逆らうのは、それほど身長の高くない俺には厳しい。冷静になれば、滝からの水流の冷たさに竦み上がることになったろうが、今の俺にはそれを感じる余裕もなかった。

「セフィ〜! ヤズー! 返事しろ〜ッ ゲホッ! ゴボッ!」

 口の中に水が入り込んで、俺は大きく噎せ返った。

 ……どうしよう、もっと奧まで行ってみるか? でも、ロープの長さに限界もある。

 後、数メートルも離れれば、足りなくなってしまう。

 どうしよう、どうしよう……!?

 白雪ちゃんの別れ際の顔が頭をよぎる。そして城に残してきたヴィンセントの面影と重なった。セフィロス……ヤズー、カダージュ、ロッズ……ついでにジェネシス。

 馴染みの顔が次々に浮かんでくる。

 死に際の走馬燈かよ!と自らに突っ込んでおいて、俺は強く頭を振った。

 

「セフィ〜ッ! セフィーッ! どこにいるんだよぉ! 不安にさせないでよ〜ッ! セフィは英雄なんだろーッ! こんなところで死ぬなよーッ!」

 自分の呼び声が、徐々に濡れてゆくのを感じる。顔にも頭にも容赦なく、水しぶきを被っているから、泣き顔を隠す必要もなかった。

「セフィ〜ッ! 返事してーッ! セフィ〜〜ッ! ……あうッ!」

 大きく伸び上がったとき、足元が滑った。水はもう胸元を覆い尽くし、肩のところまで来ていたのだ。

 俺は否応なしに、水流に囚われた。耳にも鼻にも水が入ってきて、ドブンと無様に水に沈んだ。

(このままじゃ溺れるッ)

 何とか水面に身体を浮かせようと頑張るが、流れが速くて思うようにいかない。

 息が苦しくて、口元だけでも水面に出して息を吸い込むが、腹に入ってきたのは、空気よりも水だった。

「ゲホッ……ガボッ……」

 もんどりうって、深いところへ沈んでしまう。頭がぼうっとしてきて、今になってようやく水が冷たいと感じだした。

 目の前がだんだんと暗くなり、手足には鉛を括り付けたように重くなった。

 

 

 

 

 

 

 ……もう、ダメかもしれない。

 ごめんね、白雪ちゃん……ヴィンセント……

 

 ぼんやりとそんなことを考えたときであった。

 背後から襟元をぐいと掴まれ、ものすごい勢いで引きずり上げられた。

「ブハッ! ゲホッ!ゴホッ!」

「大丈夫か、クラウド!」

 抱きかかえられた俺は、力強い声に薄く目を開けた。

 そこにはセフィロスがいた。

 ……ああ、やっぱりな、という感覚が一番最初だった。

 このピンチに申し合わせたように、現れた彼に、『まさか!』とか『信じられない!』ではなく、『だって、セフィロスだもんなぁ』という、なつかしい気持ちがした。

「……セ、セフィ……ゲホッ、ゴホッ!」

「兄さん、しっかりして! 水飲んじゃったかな」

 聞き慣れた声が飛んできて、すぐにヤズーだとわかった。もう、水かさはどんどん増してきて、背の低い俺は既に立っていられないほどになっていた。

「ふ、ふたりとも……ゲホッ!ゴホッ!」

「いい、無理にしゃべるな。……おまえが無事で良かった」

 そう言ってセフィロスに抱き上げられる。こんなときなのに、過去の思い出とリンクし、涙腺が緩んだ。それを何とかごまかして、俺の方からもふたりの安否を確認した。

「セフィ……ゲホッ……こ、このロープ……上の階に……」

「そうか……でかした! 偉いぞ、クラウド」

 またもや、子どものときのような褒め方をされ、俺は反応に困ってしまう。

「話は後だね。だいぶ水かさが増してきた。急いで脱出しないと」

「ああ、そうだな。クラウド、オレにしがみついてろ」

 そういうと、セフィロスは俺の肩からロープを外し、自分の二の腕へと巻き付けた。

「おい、イロケムシ、前に行け」

「兄さん抱いてんなら、セフィロスが先のほうがいいんじゃない?」

「いや、問題ない。その代わり急げよ。障害物があったらぶっ壊せ」

「無茶なこと言うなぁ。わかった。じゃあ、進むから」

 セフィロスとヤズーの間で、テキパキとやりとりが交わされ、すぐさま脱出に掛かった。だが、その間中、俺はセフィロスに抱きかかえられたまま、惚けていただけだ。

 少々情けなく感じたところで、セフィロスに声を掛けられた。

「……正直、今回はやばかった。いよいよダメかと思ったとき、おまえの声が聞こえたんだ」

「……俺の……声? こんなに水……ゴォゴォ流れてんのに……?」

 ぼそぼそと擦れた声であったが、セフィロスにはきちんと意味がとれたみたいだった。

「ああ、ちゃんと聞こえた。……このオレがチョコボ小僧に助けられるとはな。参った」

 そういって、この非常時の中、セフィロスがクスリと笑った。