LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 やっぱりね。

 このヤズーさんの思ったとおり。

 ジェネシスとヴィンセントは、とても馬の合うふたりなのだ。

「ヴィンセント〜、電話〜。ジェネシスから」

 俺の呼びかけで、クラウド兄さんが、ザシャッと音を立てて立ち上がる。マリオカートのやりかけだから、あっという間にゲームオーバーだ。セフィロスもソファに寝そべったままだが、読みかけの新聞をさりげなく端に退かせた。

「ちょっとォ、なに、あいつ! 先週図々しく我が家に来たくせに! そんでヴィンセントに電話!? あー、ムカツク!」

 相変わらず兄さんはケンカっぱやい。俺は苦笑しつつ、慌てて駆けつけてきたヴィンセントにワイヤレスホンを手渡す。

 彼は嬉しそうに頬を上気させ、いそいそと電話を受け取った。

「……ねぇ、なんかヴィンセント嬉しそうじゃない? どう思う?ヤズー……」

「そりゃ、フツーに嬉しいでしょ、友だちからの電話なら。それにコソコソ携帯に掛けられるより、カンジいいんじゃない?」

 テーブルの上を片づけながら、俺はごくいつもどおりの口調で答えた。

「なんだよ、友だちってよ! あんなヤツと友だちになった覚えないもん!」

「だからヴィンセントのお友達でしょう。そんなに目くじら立てる必要ないじゃない。彼は兄さんの恋人かも知れないけど、駕籠の鳥じゃないんだよ?」

「そんなこと……でもさ〜」

「兄さんたら、ヴィンセントのこと信用してないのォ?」

 いかにも作り声で心外そうにいってやると、単純な兄さんはウッと詰まった。

「だって…… だって、ジェネシスってカッコイイもん」

 ブスリとふてくされて宣う様がひどく可愛く見えた。『兄さん』なのに。

「うん、そうだね。でも兄さんはカッコイイし可愛いじゃない。ずっとお得だよ」

 俺より低い位置にある彼の頭を撫でてやりながら、そう言って慰めた。

「もう! ヤズーってば! 俺は本気で悩んでんの!」

「アハハハ、ごめんごめん。でも、本当のことでしょう。兄さんは強くて優しくて、格好良くて可愛いよ」

「ヴィンセントがどう思うかだよ〜。俺じゃなくてジェネシスのほうがいいって言ったら……」

「それは仕方がないんじゃないの?」

「おい、ちょっ……ヤズー!」

「だってそうでしょう? 人の気持ちなんて変わるものだもの。兄さんだって、ヴィンセントと出逢う前は、セフィロスと恋人同士だったんでしょう?」

「で、でも、それは昔の……」

「自分を一番好いて欲しかったら、大切な人の気持ちを失わないように自分を磨かなきゃ。人間って生き物は心変わりしたりするのがごく自然だと思うよ、俺は。それを力づくで縛り付けても無意味だよ。変わられないよう努力するだけ。選ぶのはヴィンセントだよ」

 キツイ物言いかと思ったが、俺は前々から考えていたことをハッキリと兄さんに告げた。

 

 

 

 

 

 

 ヴィンセントを溺愛しているクラウド兄さん。

 だからこそだと思うのだが、彼はヴィンセントの行動を規制しすぎる。

 ヴィンセントはとても綺麗な……そうアンティックドールのような艶めいた雰囲気を持つ佳人だが、人形ではない。

 人間なのだ。

 これまで過酷な生を営んできたせいか、ヴィンセントは臆病で人見知りな面が前面に出ているが、本当は人好きする人なんだと思う。

 面倒見の良さや人当たりのやわらかさ、心の機微を読みとる洞察力…… 容姿以外にも他者を魅了してやまない要素をふんだんに持っている。

 本来なら人気者であってもおかしくないような資質の人なのだ。実際、コスタ・デル・ソルの商店街ではアイドル並である。

 

 兄さんの不安は理解できなくもないが、彼のようにヴィンセントの行動を阻害するのは逆効果だ。

 ヴィンセント本人が様々な人と交わり、懇意の友人を作り……その上でも尚、クラウド兄さんと居るのが一番幸福だと感じなくては。

 それを他の誰でもないヴィンセント自身が自覚しなくては、本当の意味での『恋人関係』ではないと思う。

 ……俺は……そう考えている。

 だからこそ、カダージュがこの土地でたくさんの友人を作り、女性たちと親しくしていても……それはカダにとって良いことであり必要なコトなのだ。

 未だ、兄さんたちと出逢う前……それこそ、俺たちは閉ざされた世界に三人きりで生きていた。カダはギガバイト級の脳をフル回転しつつも、情緒は子供と変わらなくて……いつでも俺が側にいてやらないとダメな子だった……というか、彼を受け止められるのは、『俺しか居なかった』のだ。

 だが今は違う。

 明るい健康的な世界へ羽ばたき、ごく普通の人としての生活を営み、多くの人間と交わる。そう……その上で、俺を選んでくれている。どんなに数多の人と出会おうとも、魅力的な人物との邂逅があろうとも……それでも俺を

 

「ヤズーってば、キッツー……」

 しかめつらの兄さんを目の前にして、はっと意識を戻した。ついつい自分たちのことに引きつけて考えてしまった。

「あ、ご、ごめん。でもさ……」

「まぁね。言ってることよくわかるよ。理解できる」

 溜め息混じりに、彼は低くつぶやいた。

「兄さん……」

「そうなんだよね〜。可愛い子には旅をさせろっていうもんね〜」

「それ、ちょっと違うんじゃない?」

「まぁね、恋人同士って言ったって、フツーに振ったり振られたりなんて巷じゃよくあるもんな」

「ああ、別に兄さんたちを、そこら辺の若い子のお遊び恋愛だとは思っていないよ。もっとずっと強い絆で結ばれているって、そう感じるもの」

「サンキュ。俺もそう信じてる。……そうなんだよね、ヴィンセントはこれまで箱入りだったからさ、たぶん俺しかオトコ知らないんだよね」

「ちょっとォ、やらしー言い方しないでよ」

 俺はヴィンセントを横目で眺めた。直立不動のまま一生懸命受話器に向かって話をしている彼は、なんというか本当に純真で……生真面目で誠実な人柄が伺われる。

「まぁ、男でも女でもさ。結局、いくら多くの人がまわりに居ても、ヴィンセントが俺を選んでくれなきゃ意味ないんだよね〜」

「そう! 俺が言いたかったのはそういうことなんだよ」

「うん…… ヤズーだってカダのことけっこう放っておいてるもんなァ」

「放ったらかしっていうんじゃなくてね。あの子の自主性に任せたいんだ。今はそれが一番大事なんだと思う。……その上で、俺を選んでくれればね」

「選んでくれる自信たっぷりってカンジだよね〜、ヤズーって」

「もちろん。自分磨きしてるもの」

 フフフと笑って、悪戯めいたポーズを取ってやる。兄さんも話の本質は理解してくれたのだろう。

 多少心許ない雰囲気であったが、ヴィンセントの電話を邪魔するような真似はしなかった。