〜 子猫物語 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 
 セフィロス
 

 

 

 

  

 

「あ、あの……言っている意味が……私は何か羽織る物を借りたいと……」

 逃げ回ってくれたほうが面白いのだが、朝っぱらから追いかけっこは面倒でもある。

 骨ばった腕を取り、そのままシーツに四肢を縫いつけたところで、おのれの置かれた立場がわかったらしい。

「セ、セフィロス? 何を? や、やめてくれ」

 それでもひっかいたり、暴れて殴りかかったりしてこないのが、ヴィンセントのヴィンセントたる所以だ。

「セ、セフィロス……ッ あ、あの……ふ、風呂にも入っていないし……元に戻ったばかりだから……」

「そんなつまらんこと気にするな」

「私が気になるのだ…… やっ…… 見ないでくれ…… は、放したまえ……ッ」

 どこかズレてるヴィンセントのセリフ。

 からかいがいのあるヤツだ。

「なんだ、オレの腹の上で寝てみたかったんだろ? ああ、これじゃ、上下逆か。おまえが上にならないとな」

「セ、セフィロス…… や、やめ……」

 まァ、オレとしては力づくで、最期までいってしまってもよかったのだが、案の定、招かざるゲストがやってきた。

 そろそろだろうと読んでいたのである。

 

 

 

 

 

 

「セフィ、おはよーッ! スイマッセーン、ここあけてくださーい! そこにヴィンセントが居ますね〜! わかってるんデスよ〜!」

 メガホンを手にしたアホチョコボの襲撃だ。

「隠しても無駄ですよーッ! アナタは幾重にも包囲されてイマース! 無駄な抵抗はやめ、ヴィンセントを解放しなサ〜イ!」

 クスクスというのんきな笑い声は、同行してきたらしいイロケムシのヤズーだ。

 アホチョコボも今朝方、傍らで休んでいるのが、ヴィンセントではなくチビ猫になっていることに気がつき、すっ飛んで来たんだろう。

「あ……ク、クラウド……?」

 ヴィンセントが動きの取れない体勢のまま、扉のほうを見つめた。

「あー、マイクテス!テス! セフィ〜! 起きてるんでしょー! あー、今から五つ数える間に扉を開けなさーい!」

「相変わらずアホなクソガキだな」

 そうつぶやいたオレを、ヴィンセントが困惑した面持ちで見つめた。

「セ、セフィロス……あ、あの、クラウドに私のローブを持ってきて欲しいと……」

 ズレた要望に苦笑し、オレは扉に向かって声を張り上げた。

「おい、クソガキ! ヴィンセントの着替えを持ってこい! オレのローブはぐちゃぐちゃのベチョベチョだ」

 次の瞬間、ガキは呆気なくぶち切れた。

「セフィーッ! このーッ! 開けろーッ!」

 ボコン!

 というのは、手持ちのメガホンを放り投げた音だろう。

 ガンガンガン!

 一挙にボルテージを跳ね上げ、力づくでドアを開けようとするクラウド。

「セ、セフィロス……クラウドをからかうのは……」

「フフン、おまえは自分の身体の心配でもしてろ。『どうぞ召し上がれ』状態だぞ?」

 そんな言葉でからかうと、ヴィンセントはさらに頬に血を上らせる。

「冗談はやめたまえ…… 君にはちゃんと恋人がいるだろう? すぐに放してくれれば、クラウドも告げ口などしないと思うし……」

「相変わらず明後日のセリフを口にする男だな」

 そう言って笑ったとき、オレの私室の扉が豪快に破壊された。

 

「クラウド参上ッ! とぅッ!」 

 パジャマ姿のまま、オレ様に向かって真空跳び膝蹴りを繰り出すクラウド。

 バカめ。おまえに戦闘のなんたるかを指南したのはこのオレだぞ?

 そんな子供だましの技が通じるか!!

「リーチが足りねェぞ、クソガキ!」

 がっしと裸足の足首をひっつかみ、ベッドに墜落させる。……もちろん、ヴィンセントにぶつからないようにだ。

「いってェ〜 今、息が詰まったァ〜」

「ク、クラウド? クラウド、大丈夫か?」

「あ、ヴィンセント! ヴィンセント〜っ! よ、よかった!本当にいつものアンタなんだね?」

 叫ぶなり、裸のままのヴィンセントにギュッとしがみつく。

 まるで子犬が生き別れになった飼い主にじゃれつくように、身体を押しつけるのだ。

「あ、ああ…… す、すまない、心配掛けて……」

 チョコボの髪をやさしく撫でる飼い主……もといヴィンセント。

「いいんだよ、そんなことッ! ね、ヴィンセント、大丈夫? セフィになにもされてない? アアッ! ヴィンセント、服着てないじゃん! おい、セフィ!」

「ち、違うんだ、クラウド…… 今朝目覚めたらこんな格好で……今、セフィロスに服を借りようと……」

「チッ、いいところで邪魔しやがって。ヴィンセントはな、オレの腹の上で眠ってみたかったそうだ。だから今、それを実践してやろうと……」

「テキトーなことをいうなァ! ヴィンセントはもうニャンコじゃないんだぞ〜ッ!」

 飛びかかってきたチョコボを片手でいなし、ソファに向かって放り投げる。

 だが、身軽な小僧はくるりと一回転すると、ぶん投げられたイキオイを逆手に、再び飛びかかってくるが、今度はそう簡単にはじき飛ばされたりはしなかった。がっしとオレの腕にへばりつき、噛みつこうとする。

「このクソガキッ! 離れろッ!」

「ギィィィ!」

「痛てッ! 歯形がつくだろーが!!」

「ク、クラウド……よ、よしなさ…… あ、ヤズー……」

 オレたちが大立ち回りをしている合間を縫って、しっかりローブを用意してきたイロケムシがヴィンセントを救い出す。

 ムカツクガキどもの連携プレーだ。

「あー、兄さん、いいかげんにして。後かたづけ大変なんだから。ほら、ヴィンセントは救出したよ」

 呆れたような口調でそう言い放つと、今度は打って変わってやさしげな声でヴィンセントに語りかける。

「よかったねェ、ヴィンセント」

 これぞまさしく『猫なで声』だ。

「じゃ、部屋に戻って……ああ、そうだね、お風呂が先の方がいいかな? 大丈夫、ちゃんと沸かしてあるから。じゃ、兄さん、後よろしく」

「よォォォし!救出作戦成功! ではセフィロス、さらばッ!」

 半分脱げ掛かったパジャマのズボンを引っ張り上げると、クラウドのクソガキは最近ハマッている『怪人なんとか面相』のまねごとのようにして、ゴージャスな身振り手振りを加え、部屋を辞していった。

 

 羽毛の飛び出た枕にマットからひっぺがされたシーツ……見るも無惨な寝室の有様に、やれやれと吐息した。

 床に落ちてしまったクッションを乱暴にベッドに戻そうとしたとき、純白のシーツの上に見つけた物がある。

 

 細い……黒い毛。

 ヴィンセントの長い髪ではない。

 

 アイツが猫だったとき……そう子猫の身体から抜け落ちた毛なのだろう。

 指先で、ちょっとつまんで、開けた窓から風に流す。

 

 眩い太陽は、すでにぎらぎらと輝き、もはや早朝とは言えない時刻を知らせてくる。

「……やれやれ、今日も暑くなりそうだな」

 と、ひとりごちた。

 ささやかなとりかえばや物語は、またもや呆気ない終焉を迎えたのである…… 

 

 

 

 終わり