嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

  

 

 

「……セフィロス……」

「おいおい、なんてツラしてる。だから貴様には見せたくなかったんだ」

 ウンザリとため息を吐き出すセフィロス。

「……わたし……の……せいだ…… あの炎の中で……私が愚図だったから……君は私を庇って……」

 ほとんど思考停止した頭ではまともなセリフは考えられない。なんとか浮かんだ言葉をつなぎ合わせ、彼への謝罪を述べようとした。

「ツラの火傷はほとんど治ってるし、大きな傷を負うほどオレは間抜けじゃない」

「そ、そうじゃ……」

「おまえが愚図なのは承知してるし、計算に入っている。苦戦したのはオレのミスだ」

 素っ気なくいうセフィロス。

「そ……そんなことは……!」

「結果よければすべてよしということにしておけ、ヴィンセント。……望み通り、この家に帰ってこられたことを素直に喜んでおけ」

「…………」

「クラウドのクソガキもはね回ってはしゃいでたぞ」

 フンと小馬鹿にしたように彼は笑った。

 

 ああ、だが……そんなことではなくて……それよりも……!

 私は震える唇をやっとのことで開いた。

「……き、君の美しい……長い髪が…… 銀の髪が……!」

「……はぁ?」

「あんなに綺麗だったのに……ああ、すまない……本当に申し訳ない……セフィロス……」

「……あのな。おまえはそんなくだらんことを気にしていたのか?」

 今度こそ、辟易とした口調で彼は吐き出した。

「くだらなくなど……私は君の美しい髪が大好きだった……! 軽やかに風に舞う、綺羅々しい銀の髪が…… なんといって謝罪すればよいのか……言葉も見つからない……!!」

 そう言いきると、またもや熱い涙が頬を伝った。

 ヤズーが困惑したような笑みを浮かべて気遣うように私を眺めている。

 

 わずかな間隙の後、腕組みしたセフィロスは、今までのどの時よりも大きなため息を吐き出した。

「おい、勘違いするな」

 ぼそりと低い声でそう言う。ヤズーのほうを鬱陶しげな面持ちでちらりと見た後、目線を戻し、ふたたび口を開いた。

「オレがおまえを守ったのはオレの意志だ。おまえがいちいち礼を述べたり、謝罪したりする必要はない」

「やぁだ、相変わらず素直じゃないなァ、セフィロスは」

「てめぇは黙ってろ、イロケムシ!」

「はいはい」

 いつものやり取りのふたりに、私は下げた頭をそっと戻した。

 

「……セフィロス……」

 びくびくとその名をつぶやいた私は、きっとひどく怯えた表情をしていたのだろう。さすがのセフィロスも、手に負えぬというように眉を顰めた。

「だいたい男が散髪したくらいでベソベソするな! こんなもん、放っておけばすぐ伸びるだろ」

「そうそう。エロイ人は伸びるの早いから。数ヶ月で元通りだよ、こんなの」

 あっさりとヤズーが言ってのけた。

 それを不快げ面持ちでにらみつけるセフィロス。

「それにさ、けっこうカッコよくない?この髪型。カダよりちょっと長めに削いだんだけどね」

「フン。おまえは手先だけは器用だものな」

「やーな言い方! ……ほら、ヴィンセント。惚けていないで」

「……あ……」

「まぁ、つまりはそういうことだ。……まだ顔色がよくない。部屋へ戻って休め」

 話は終わりとばかりに手を振り、私のとなりをすり抜けて部屋を出ようとした。

 もう自室に引きこもっている必要はないと考えたのだろう。 

 

 玄関まで行き、靴を履き替えるセフィロス。

 私の足は勝手に彼を追っていた。

 

「あの……あの……ど、どこかへ……出掛けるの……か?」

「……別に」

 こちらを見もせずに、素っ気なく答える。しかし、今はいちいちメゲたりしない。

 

 セフィロスは、眉をしかめつつ、頬のガーゼをバリッとばかりに剥がしてしまった。

 ……白い肌には、ほんの少し赤みが残っているだけで、ほとんど傷跡は見られなくなっていた。

 

「セフィロス……! 私は……もう大丈夫だから…… きょ、今日の夕食は……私が作るから…… だ、だから……」

「……ただの散歩だ。晩メシまでには戻る」

 そういうと、ポンと私の頭を軽く叩き、さっさと家を出ていった。

 まるで、何の怪我の影響も感じさせないような軽やかな足取りで……

 

 

 

 

 ……その晩、なぜか機嫌のよかったセフィロスと、私は少しだけ話をした。

 

 あの戦いの最期の瞬間……知らない女が我々を守ってくれたのだと、彼はつぶやいた。

 ……私と同じ光景を彼も見ていたのだ……

 

 ああ、ルクレツィア……ありがとう……

 

 君の息子はちゃんと無事にこうしている。美しい髪は失ってしまったが、変わらず元気で居てくれる。

 

 

 少しばかり迷ったが……私は彼に同じ情景を見ていたこと……そして彼女こそが君の母親なのだと言ってみた。

 ……機嫌を損ねるのではないかという心配は杞憂であったようだ。

 

「……ほう、あの女が……さすがに見目のいい女だな。まぁ、当たり前か……」

 そうささやくと、切れ長の双眸で私を眺め、クスッと小さく笑ったのであった…… 

 
 
 
 

終わり