嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………!!

 

 ああ、そのときのヴィンセントの顔。

 クラウドと……その後ろから駆けつけたオレを見つめた、その……表情。

 

 愁いを帯びた切れ長の双眸。ウサギのような深い紅の瞳が、大きく見開かれた。

 片手に銃を握りしめたまま、それこそ人形のようにヴィンセントはぎこちなく立ちつくしていた。

 

「ヴィンセント……ヴィンセント……ッ!」

 クラウドが最愛の人の名を叫ぶ。

 かかしのように突っ立っている長身に向かって、ガキが勢いよく飛びついた。

 この期に及んでも呆然と……それこそ夢見るように惚けたまま立っているヴィンセント。いかにもトロくさいあの男らしい有様であった。

 ……ヴィンセントの目線が飛びついてくるクラウドよりも、後から続くオレに向けられていたと感じるのは気のせいだろうか。

 不意にガラス玉のような双眸に光が甦り、ヤツはようやく正気付いたようであった。

 

 

 

 

「クラウド……?」

「ヴィンセント……ヴィンセント……ッ! ……ヴィンセント〜〜ッ!」

 ドンとにぶい音がして、ヴィンセントの痩躯が壁に押しつけられた。クラウドが力任せに飛びついたからだ。

「……クラウド……」

「ヴィンセント……ヴィンセント……! よかった……ちゃんと会えたよぉ……」

「……クラウド……どうして……」

 壁により掛かった姿勢でクラウドを抱きしめたまま、困惑したような面もちでオレを見る。

 

「……あ、あの……セフィロス……?」

「しかたないだろ、コスタデルソルのローカル紙にもDG連中のことが『大々的に』に載っていたんだ」

「……新聞に……」

「そうだ。さすがに活字離れのクソガキでも気付くだろ」

「…………」

 納得したのか否かわからぬが、ヴィンセントは何とも言えぬ表情で懐のクラウドと、オレの顔を見つめた。

 

「ヴィンセント……! ヴィンセントッ! なんで……なんでひとりで……全部決めちゃうんだよ……ッ」

 ヤツの紅マントをギュウとばかりに握りしめ、責めるようにクラウドが叫んだ。

「どうして……ひとりで……いなくなっちゃうの……ッ!」

「……クラウド……」

「おれ……ヴィンセントのこと……好きなのに……! ずっと一緒に居るって言ったのに……! なんで俺のこと……置いていくの……ッ!」

 息を引きつらせながら、必死にそこまで言い募ると、クラウドのガキはぷつりと緊張の糸が切れたように声を上げて泣き出した。

 

「うッ……うッ……お、おれッ……なんにも知らなくて……ッ! ゲ、ゲホッ……嫌われたんだと……思って……ッ もう死んじゃいたいくらい、悲しくて……! うえッ……えッえッえッえ……ッ!」

「……クラウド……すまない……すまなかった……」

 さすがに泣きじゃくるクラウドを哀れと思ったのか、つらそうに眉を寄せ、謝罪の言葉を口にした。

「うあぁぁん! ……もうヤダよ! 置いていかないでよ……ッ! ゲ、ゲホッ ゴホッ! おれ……おれ……ヴィンセント居なきゃダメなの……ヴィンセントの側がいいんだよ……ッ ゴホッ……ゴホッ!」

「……クラウド……」

「うあぁぁん!」

「……クラウド……!」

 わずかに背をかがめ、ゲホゲホと噎せ返る背を叩いてやりながら、泣きじゃくるヤツの顔に頬を寄せる。まるで母親が子どもをなだめるような仕草で、こんなときなのについつい笑みを誘われる。

 オレがやれやれといった風に、ひょいと両手を上げてみせると、ヴィンセントは居たたまれない様子で目を伏せ、無我夢中でしがみつくクラウドを愛おしげな眼差しで見つめた。

 

「……すまない……どうしても……言えなかった……」

 掠れた声音でヴィンセントがつぶやいた。

「……おまえが、あれだけ様々な苦労をして、ようやく手に入れた安息の場を……私のせいで失うかもしれないと考えると……どうしても……話せなかったのだ……」

「えっえっえっ……おれ……おれの居場所はヴィンセントの居るとこだよ! 器なんてどこだっていいんだッ! ヴィンセントが居なきゃ……ヴィンセントが居なきゃダメなんだよ……ッ! お願い、もう俺のこと捨てないで!置いていかないで!ひとりにしないで……ヴィンセント……ッ!」

「……クラウド……」

「置いていかないでよ……ッ! うっうっうっ……うあぁぁぁんッッ!」

「ク、クラウド……」

 ヴィンセントがおろおろとヤツのチョコボ頭を撫でる。

 再会の衝撃が収まってきたのか、かつて見たこともなかろうほどに、ひどく取り乱すクラウドを、ヤツは持て余しているようだった。

 

「あーあ、泣かせた泣かせた」

 傍らで腕組みしたまま茶々を入れてやる。

「セフィロス……その……私は……」

 オドオドと言い訳を考えている間に、遠慮会釈無くクラウドがしゃくりあげる。

「うあぁぁぁん! うえぇぇぇ〜〜んッッ!」

「あ、ああ……す、すまない……私が悪かった。クラウド……頼むから落ち着いてくれ……」

「えッえッえッ! だ、だって……ヴィンセントの顔見たら……おれ……おれ……」

 ヒックヒックと息を引きつらせ、賢明に嗚咽を堪えるクラウド。だが恋人の顔を見ているとどうしても止まらないのだろう。新しい涙がブワリと盛り上がり、惜しげもなくボロボロとこぼれ落ちるのであった。

「……すまなかった、クラウド……つらい思いをさせてしまって……」

「そうだよ……! ひどいよ、ヴィンセント! ねぇ、俺のこともっとギュってして! ギュって抱きしめてッ うあぁぁぁん!」

 わずかに腰をかがめたヴィンセントに、すりつけるように身を寄り添えると、それこそヤツは子犬が飼い主にするように、懐のあたりに顔を押し込もうとする。

 まったくそこらの犬畜生とかわらない。しょせん、子どもというのはどこの世界でも似たような生き物なのだ。

 

「……クラウド……」

 ヴィンセントの手甲をつけていないほうの手が、おずおずと金の髪を撫でる。

「……クラウド……泣かないでくれ」

 ふたたび、背をあやすように叩き、髪の生え際に口づける。

 ようやくクラウドの空えづきが落ち着いた頃、ヴィンセントは静かな口調で言葉を綴った。