〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 本社最上階にある特別会議室。

 ここは神羅ビル内でも、かなり厳重な警備がなされるところだ。

 盗聴を防ぐため、会議室は金属探知機でチェックをしており、入室には身分証明が必要である。

 私がツォンと連れだって、その部屋に行くと、すでに『重鎮』と呼ぶべき者らは、すでに着席していた。

 皆、一様に深刻な面持ちをしている。

 兵器開発部門の、スカーレット部門長だけは、ごく気楽な雰囲気で口紅を塗り直していたのだが。

「ああ、来てくれたか。さっそく席についてくれたまえ」

「……遅くなったようで、申し訳ありません」

 私は一応そう言って礼を取った。

 どこの席に着くべきかと、中を見回したが、すでにテーブルにネームプレートが貼ってあって、必然的に着席する場所は決まってる様子であった。

 ソルジャーの人事統括ラザード氏も座っており、私の来所に気づくと一礼してきた。私もそれに目礼で返す。

 

「軍事部門長補佐官どのも来られたので、さっそく始めることにしたい。時間がもったいないからな」

 せわしなくルーファウス副社長がそう言った。

 ぞわぞわと足下から、何か上がってくるような嫌な気分。

 そして、その何とも形容しがたい、汚泥のごとき不安は、わずか数刻の内に現実となる。

 

 

 

 

 

 

「テ、テロリストが……?」

「そう。もともとミッドガルのスラム街に居た連中が、魔晄炉建造の際、ウータイ等、地理的には近くとも、海を隔てた諸地域に移り住んだ。……これは、私の父の代より、上の者らならば、誰でも知っていることだ。それが今日、ウータイを中心とした反神羅組織の原型だ」

 ルーファウスはまだ年若いメンバーへの気遣いか、長い説明を続けてくれていた。

 もはやそんな前置きはともかく、一刻でも早く行動に出るべきだ。

「近年、この周辺のアバランチと結びついたことは耳にしていたが……まさか、修習生を狙ってくるとはね。確かにソルジャーやら警護のついた役職やを狙うより安全で効果的だ」

 ため息混じりにつぶやく副社長以下、上層部の人間たち。

 ああ、なにをしているのだ!こんなところで会議など行っている場合ではないだろう。

 一刻も早く、人質への対応を考えなければ。

 僭越かとも考えたが、私は沈んだ空気を破り、勢いよく挙手した。

「ルーファウス神羅。即座に対応を! テロリストとらわれた五名を救出しなければ!」

「ヴィンセント・ヴァレンタイン……」

 副社長が困惑した様子で私を見た。

「君の気持ちはよくわかるが…… テロリストの要求を、そのまま丸呑みするのは難しい」

「ですが……!」

「ああ、もちろん、私だとて修習生五名を見捨てるとは……」

 いつもは鷹揚な態度を崩さないルーファウスが、私の剣幕に押されたのか、すぐさま弁解を口にした。

 人質となった修習生五名には何の罪もない。

 彼らは神羅の育成プログラムに従って、忠実に訓練を受けていただけなのだから。

 以前、セフィロスが、私の部屋に泊まったとき、この時期は修習生の実地訓練が多いと言っていた。此度の件もまさにそのさなかを狙われたのだ。

 実戦経験すらない彼らが、今、どれほどの不安と恐怖に苛まれていることだろうか。即座に救助すべきだ。

 テロリストに拿捕された修習生には、何の落ち度もないのだから。

 

「ちょっとォ、待ってよ、副社長。それからハイデッカーの綺麗な補佐官さん」

 ふぅと真っ赤に染め上げたマニキュアに息を吹きかけ、場違いなほどゆったりとした口調でスカーレット部門長が声を上げた。

「テロリストの要求を呑むって…… それがどういうことかわかってんの? 言っておくけど、私の大切なコは渡さないわよ。悪いけど、その五人の修習生の生涯年収でも、まかないきれない開発費がかかってんだからね」

「スカーレット様ッ!」

 ツォンがきつい口調でスカーレットの物言いを止めた。

 おそらく私の血相が変わっていたからだろう。

 ……生まれてこの方、女性を殴るなどということは、考えられないことだったが、このとき、ツォンが彼女の物言いを止めてくれなければ、張り手を飛ばしていたかもしれない。

 それくらい私は、この女を不快に感じた。

「なによ、ツォン。アンタだって知ってんでしょ?いったいいくらかかったと思ってんの? その最新兵器を、ホイホイとテロリストみたいなドブネズミにプレゼントできるはずないじゃない」

「……お気持ちはわかりますが、お言葉に気をつけられますよう。修習生とはいえ、彼らは我が社の社員なのですから。副社長。テロリストの要求について、もう一度詳細にお聞かせください」

 ツォンが再度そう促した。これ以上スカーレットの雑言を聞きたくなかったのだろう。もちろん、私とてこの上なく同感であった。

「……ああ、そうだな。彼らの要求は修習生五名の身柄と引き替えに、開発途中の誘導ビーム砲の設計図明け渡し。および、十番魔晄炉の明け渡し日、丸一日の完全停止、だ」

「誘導ビーム砲?」

「うふふ。まだ個人用の武器をサンプルで作っているんだけどね。魔晄炉のオフライン送電施設からマイクロウェーブを受けて大出力のビームを放つ、スター・レイジのプロトタイプよ」

 私のつぶやきに、スカーレットが我が意を得たりとばかりに説明してきた。

 ちなみに十番魔晄炉とは、神羅本社の主電源である。

「これが完成すれば、神羅軍はまさしく最強の部隊になるわ!なんといっても殺傷能力がね……」

「スカーレット様、まだ副社長のお話の最中です!」

 とツォン。

 ルーファウス副社長は、ゴホンと咳払いをすると、ふたたび口を開いた。

「……彼らの要求はその設計図を三日後の午前0時、社長か副社長どちらかひとりが持参して指定の場所に来い……と。その場所は追って知らせるということだ」

 シ……ン

 と場が静まりかえった。

 だから、会議室へのノックの音は、ものすごく大きく聞こえたのだ。

 女性秘書官が、一礼のち、素早くルーファウスの側に侍り、メモのようなものを手渡す。

 一分もせずに彼女は退室していったのだが、我々は誰一人として口を開ける者はいなかった。

 ただ、ルーファウスへのメモの内容だけが、ひどく気になって……

 

「……いくつか、情報がある。設計図は必ず原図を用意せよということ。それから、拉致された修習生五名の名前がわかった。……学籍番号702番……」

 ルーファウスは固い声で、一名ずつ彼らの名を読み上げた。

 

「学籍番号710番、クラウド・ストライフ…… 以上だ」

 

 その名を耳にしたとき、一挙に血が下がるのを感じた。

 私は現金な人間だ。修習生五名と聞いたとき、もちろん同情し、即座に救出せねばと思ったが、その中の一名がクラウドならば……

 ああ、私の知るあの子ならば、今すぐに……そう、この命と引き替えにしてでも救出に赴きたい。

 クラウド……! これは夢なのだから。私の夢なのだ。

 大丈夫……大丈夫だ、クラウドの身に、そんな恐ろしいことが降りかかるはずはない。

 クラウドは必ず無事で生きている……!

 

 クラクラと目の前に霞がかかってきた。

 ……椅子に座っていたからまだよかった。

 立ったままであれば、間違いなく、私は貧血で倒れていただろうから。