〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
  
 セフィロス
 

 

 

「あー、クソ……サイテーだ……」

 ワシャワシャと髪を洗われながら、オレは低くつぶやいた。

 肌を打つシャワーが、ひどく心地よくて……よけいに情けなくなってくる。

 大声を上げたワケじゃないのに、耳ざといジェネシスはクスッと笑った。

「まだそんなことを言っているのか? 確かに災難だったけど、家の人たちは本当におまえに感謝しているみたいだぞ」

「…………」

「黙っていないでくれよ。おまえが無言だとつまらない」

「……アホか。どうして、このオレ様がテメーを楽しませてやらなきゃならねーんだよ」

「ハイ、お湯掛けるよ。目に入らないように気をつけて」

「……チッ」

 雪くさかった(?)髪が、香りの良い洗髪料に包まれる。ぎしぎしと艶のなかったそれだが、今は丁寧に洗ってもらったおかげで、すんなりと指で梳ける。

 

「左足の具合はどうだ、セフィロス?」

「……今は痛くない」

「そうか。昨夜は熱をもっていたから気になっていたんだが、痛みが取れてきたならよかった」

「おまえのほうこそ、筋肉痛なんじゃねーの? 軟弱モンのくせに、オレを担いで家まで戻ってきたんだからな」

 憎まれ口を叩くオレに、ジェネシスはさも楽しそうにアハハハと笑った。

「確かにソルジャーの頃よりは体力落ちているのかもね。だが、おまえ一人負ぶって歩くくらい、たいした負担にもならないさ。見くびらないで欲しいね」

「フン…… まぁ、一応、礼は言っておく。手間ァ掛けたな。サンキュ」

 昨夜から言おう言おうと思っていた礼を、ようやく口に出した。もっとも、コイツの面倒を今はこの家で見てやってるんだし、あいこだと言えばそうなんだが、スジは通しておくのがオレ流だ。

「ふふふ、どういたしまして。よし、髪はいいな。湯船に入るか」

「おいっ! いい、抱き上げなくて。自分で立てる!」

 何の迷いもなく抱え上げようとするジェネシスを押しのける。ヴィンセントじゃあるまいし、素っ裸に触れられるなんざ気色悪くて仕方がない。

 大きな浴槽に、ジェネシスと肩を並べてゆったりと浸かる。熱を持たないよう、左足首だけは湯の外だが。

 

 ……こんなのは久方ぶりだ。

 図らずとも神羅時代を思い出す。ミッションの同行など、シチュエーション的に、こいつと一緒にこんなふうに過ごす機会は思いの外多かったのだ。

 

 

 

 

 

 

「……しかし、今回の悪天候は一体何事だったんだ。ここはコスタ・デル・ソルなのに……」

 オレはそんなふうに話を振った。もう怪我のことだの、昔話だのはしたくなかったからだ。

「そうだな。……まぁ、あり得ないなんてことは無い……ってことじゃないか? 異常気象としか言いようがないが、のんびりしたこの土地の住民たちも、それなりに危機感を抱いたんじゃないかな」

「……DGソルジャーだの、オメガだのが関わっているのかとも想像したんだが……」

「ふふ、考えすぎだろう、セフィロス。ネロの傷は容易には治らないだろうし、以下にオメガだのDGソルジャーだのでも、こんな広範囲の気象を操る力はないさ」

「……まぁ、そうだな」

「ずいぶんと深読みだな、セフィロス」

「…………」

「この家の人たちが心配かい? それとも女神が?」

 ジェネシスが静かに訊ねてくる。察しのいいこいつのことだ。ヴィンセントと、ヤツにそっくりな支配人……このふたりを見て、なにかしら思うところがあるのだろう。

「……別に。だが、ヴィンセントは連中に因縁があるからな。関わり合いになると、面倒なことになる」

「…………」

「……誤解すんじゃねーぞ。ヴィンセントになにかあると、家の連中まで巻き込まれるからな。必然的にオレ様にも面倒ごとがおっ被さってくる」

「……ふふ、わかったよ、そういうことにしておこう」

 ジェネシスは、そういうとやわらかく微笑んだ。そしてそれ以上何も言わない。

 オレの居心地が悪くならないように。

 

「……天気が回復したら、街の機能も徐々に元に戻るだろう。おまえも支配人も家に帰れるな」

「ん? うん、そうだね。……ちょっと寂しいけどね」

「普段だってしょっちゅう行き来してんだろ。ヴィンセントもイロケムシもおまえのことをずいぶんと気に入っているしな」

「ああ、それは嬉しいことだね。……そう……すべてが元通りになったら、彼の店に行きたいな」

 そういって、ジェネシスは微笑んだ。

「セフィロス、足の具合がよくなったら、連れていってくれよ」

「……ケッ……冗談じゃねぇといいたいところだが、借りがあるからな。一度だけ付き合ってやる」

「うん。楽しみだなぁ。……彼はとても素敵な人だね。ヴィンセントによく似た容姿がっていうだけではなくて」

「……聡明な男だ。気に入っている。……だが、本人は気に入られているのは、容姿だけだと思っているようだが」

「想いは口に出して言ってあげなければいけないよ、セフィロス。……交際しているのならね」

「フン……」

 窓の外を何気なく眺める。

 キラキラと輝いているのは、雪の残滓だろう。

 目映い朝の太陽に、銀の雪が照り返され、光を放っているのだ。

 ……そういや、こいつに背負われて山を下りたとき、宿営地の炎がひどくまぶしく感じたっけ。

 

 あの日から、ずいぶん遠くまできたような気がする。

 だが、こうしてこいつのとなりに居ると、それがつい最近だったような…… おかしな気分になる。

 少しぬるめの湯は、まるで真綿のようだ。

 

「……セフィロス、寝ちゃダメだよ」

「…………」

「ほら、起きてゴハン食べてくれないとね」

 無理やり、肩を抱え上げられ、オレは身体を起こした。

 そのとき、窓の外で、ドサッと音がした。

「ああ、屋根から雪の固まりが流れ落ちたようだね。後で外に出てみようか」

 と、ジェネシスが言った。

 

 

 終わり