〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
  
 支配人
 

 

 

 

「……やはりね。昨夜考えたんだが……」

 朝食後のお茶をもらっているとき、ジェネシスさんが口を開いた。

  セフィロスの古い友人ということであったが、この人とセフィロスが、二人並んで歩いていたら、目立って目立って致し方がなかったことだろう。

 知っての通り、セフィロスは目鼻立ちの整った、怖いほどの美丈夫だ。

 長い銀の髪が、その際だった容貌をさらに美しく神秘的に見せる。白磁のような肌、切れ長の双眸、細く高い鼻梁……太くはないが、意志的な眉…… こうして深い交際をするようになってからも、つい見とれてしまうことが多いのだ。

 だが、それを見事に裏切る、粗暴な立ち居振る舞いや言動。ついつい口うるさく注意をしたり、ついつい側で面倒を見てやりたくなるのは、そのギャップのせいかもしれない。

 ヤズーが以前、「不良少年」というような表現をしていたが、言い得て妙であった。

 

 セフィロスの外見に比べると、一見ジェネシスさんは身近な雰囲気をもつ。

 やわらかなブラウンの髪、立ち居振る舞いも優雅で落ち着きがある。言葉遣いは上品だし、穏やかな物言いは人を安心させる。

 だが、言葉の選び方や、場の空気の読み方……そこからのちょっとした所作などが妙に徒めいて、色気がある。

 あでやかさという点では、セフィロスよりもこの人のほうがそう感じさせられる。

 

 

 

 

 

 

「……君の言うことはもっともだと思うが……この悪天候では、かなり危険だ」

 思案深げなヴィンセントさんの声で、僕は意識をテーブルに戻した。

 ついつい、思いの淵に沈み込んでいたようだ。

「もちろん、それは承知の上だよ。だから、俺とセフィロスとで行ってくる」

「えぇ!? テメェ、冗談じゃねーぞ! そんなクソ疲れること……」

「セフィロス。俺たちが適任だというのはわかるだろう? やはり暖を取る手段を、まだ動ける状況の今のうち、出来る限り確保しておいたほうがいい」

「チッ、めんどくせーな! おまえもこいよ、チビチョコボ。戸主だろ」

「言われなくてもわかってるよ! ヴィンセントたちのためだからな! 薪は必要だ」

 どうやら、場の流れを推察すると、暖を取るための薪を入手するという話らしい。

「そうだね…… このまま雪がやまなかったら、家の外にでることすらできなくなってしまうよね。……そういうことなら俺も行く。ロッズ、おまえも一緒に来てくれ。出来る限り運び込みたいから」

「もちろん、ヤズー」

「うん、じゃあ、とりあえず実行部隊は、ジェネシスとセフィロス、それから、兄さんと、俺とロッズ。それでいいね」

 かなり大変な仕事だと思うのだが、ヤズーはあっさりとそう言った。

「ま、待ってくれ、わ、私も……」

「え〜、ヤズー! どうして、僕が入ってないの? 僕も薪採りに行くよ!」

 ヴィンセントさんの言葉を遮り、末の少年が声を張り上げた。

 小柄で幼さの残るカダージュというこの少年は、ヤズーがとても大切にしている末弟なのだ。

 他の人間に話しかけるときと、雰囲気が異なる。

「カダには大事な仕事があるだろう? この家にはヴィンセントと支配人さんが残って居るんだぞ。彼らを守るのはおまえの役目だ」

「……うん、でも……」

「こういうデリケートな仕事は、セフィロスたちには任せられないだろう? よろしく頼むよ、カダージュ」

 ヤズーは彼の髪を優しく撫で、静かに言い含めた。

「ま、待ってくれたまえ。私も共に行きたい。いざとなれば銃も使えるし、切り出した薪を運ぶのにも人手は必要だろう?」

「えぇ? ヴィンセントはダメだよ、家で待ってて」

 何を言うのかと言わんばかりに、即座に却下する兄さん。

「でも、クラウド……私だって……」

「女神の気持ちはわかるけど、家を守る人もいないとね。ノースエリアじゃないけど、このあたりだって危険はあるかもしれないし」

 ジェネシスさんの物言いはどこまでもやさしい。彼はヴィンセントさんを女神と呼ぶのだ。

「で、でも、ジェネシス……」

「それに、いざとなればって、熊でも出たとき? きっとそんなのセフィが素手で斃しちゃうから」

 あながち冗談でもなさそうにクラウドさんが言った。

「…………」

「いいから、おまえは家で待ってろ。……末のガキとこいつのことをよろしく頼むぞ」

「セフィロス……」

 ヴィンセントさんはまだ何か言いたげであったが、セフィロスにまでこう言われては反論のしようがないだろう。

 本当なら居候させてもらっている僕が役に立たなければならないところだ。だがセフィロスやジェネシスさんたちと同行するとなると、役に立つどころか返って手間を掛けることになってしまうかもしれない。

 

「セフィロス」

 僕が声を掛けると、彼はあからさまに煩わしそうな面持ちになった。

「おいおい、まさかおまえまで一緒に行くとか言い出すんじゃねーだろうな。おまえはそんなに聞き分けの悪い男じゃないだろ」

「……まだ、何も言っていませんよ。気をつけてくださいとお願いしたかったのと何か準備する必要があるのなら、今のうちに用意しようと思いまして」

「あー、そうだな。防寒具はいいとして、万一に備えて、ナイフとか固形燃料くらいは持っていったほうがいいかもな。ま、いきなり今日言い出して出発するってのもアレだから、決行は明日の午前でいいんじゃないか」

 最後の言葉は、まとめ役的な役割を果たしているヤズーのほうへ向けて言ったものだった。

「うん、明日の午前…… 雪がひどくなかったらね」

 話は終了というように、ヤズーが微笑んだ。