End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
Interval 〜04〜
 クラウド・ストライフ
 

 

 

  

 

 

「クラウド……?」

 もう一度呼びかけられて、俺はハッと顔を上げた。ヴィンセントがじっとこちらを見つめている。きっと、胸の奥の鈍い痛みに、苦しそうな顔をしていたであろうから……

「どうしたのだ、クラウド……? 心細いのか?」

「う、ううん……平気……」

 そう答えたが、ヴィンセントはまだ心配そうに、俺の顔を覗き込んでいた。『セフィロス』の顔は、今どんな表情をしているのだろう。中身の俺は心の不安を押し隠すのに必死なのだが……それが表面に出ていないことを祈りたい。

 

「ヴィンセント、もう寝るの?」

「……ああ、そうだな……今日はもう……することもないし」

「ねぇ、俺……一緒に寝ちゃダメ? あ、なんにもしないし! ただ、一緒に……」

 情けない俺。ヴィンセントのことになると、どうしてこうなっちゃうんだろう。

 一緒のベッドで眠ったからといって、彼の心が見えるわけでもないのに。それより、この姿のままでは、ヴィンセントだって違和感があるだろう。いくら、中身が俺だとは言っても、外見は完全にセフィロスなのだから。

 

「……ご、ごめん……ッ 俺、なに言ってんだろ。この前の時、あんなに反省したのに……もう、何だか、みっともないよね、俺! こんなんだからヴィンセントだって……」

「クラウド……」

「ヴィンセントにだって……情けないと思われちゃう……」

「バカな……おまえをそんなふうに思うはずがないだろう?」

「……俺……こんな情けないトコ見られたくないのに……」

 そう口にした途端だった。

 なんだか急に目元が熱くなって、これまでため込んだ思いが姿を変えてあふれ出るように、涙がこぼれ落ちてしまった。

 

「……クラウド……」

 ヴィンセントが息を飲む。

 その様子があまりにも吃驚した風だったので、俺は熱く火照った頬に手を添えた。

「あ、あれ? なんで……? 何なんだよ、コレ……! 俺、全然そんなつもりないのに……勝手に……」

「…………」

 ヴィンセントが俺の名を呼びながら、つ……と近寄ってきた。少しだけ背伸びをして髪を撫でてくれる。

「ごめん……俺……なんか……ちょっとヘンだ……」

 掠れた声でそう弁解した。

 ヴィンセントが、俯いた俺の頭をそっと引き寄せ、やわらかく抱きしめる。

「少しも変ではない。……クラウドはとても優しく強いが、年齢は私の方がずっと上なのだ……不安な時は甘えて欲しい」

 静かな声で彼はささやいた。

 

「……ヴィンセント……」

「私が苦しいときは、いつでもおまえが救ってくれるだろう? 私などは側に居ることくらいしかできないが……それでいいならいつでも応じたいと……そう思っている」

「うん……うん……ありがと、ヴィンセント」

 ひっくひっくと喉が鳴る。泣きべそをかいたセフィロスの顔……いったいどんな風になっているのだろう。

 ヴィンセントは少しだけ困ったように微笑むと、ハンカチでそっと頬を拭ってくれた。

「さぁ……クラウド」

 促すように手を引いてくれる。

「……いいの? 部屋入って」

「何を言っているのだか……一緒に眠るのだろう?」

「……ヴィンセント……」

「さ……せっかく温まったのに、身体が冷えてしまうぞ」

「……うん」

 俺は子どものように手を引かれて、彼の部屋へ連れて行ってもらった。

 

 きちんと整頓された室内のセミダブルのベッド。その脇のチェストに、ヴィンの眠るバスケットが置いてある。そこでは、幼い子猫がとっくに微睡んでいた。

 俺も促されるままにベッドに潜り込む。

 柔らかで軽やかな羽布団に包まれると、だんだん気持ちが落ち着いてきて、妙に照れくさい気分になってきた。

 それに気づいたのか、ヴィンセントはクスッと小さく吹き出すと、愛おしそうに腕を伸ばし俺の頬……いや、『セフィロス』の頬に触れた。

 

「クラウド……頬が紅い」

「え、うそっ! ホ、ホント? こ、これ、セフィの身体だから勝手にそうなっちゃうんじゃないの?」

 照れ隠しに告げてみる。

「フフフ……」

 ヴィンセントが面白そうに笑った。彼がこんな風にいたずらっぽく微笑むのは、とてもめずらしい。

「……なんかおかしい? 俺?」

「そうではない……何だろう……外見はセフィロスだが、こうして側近くで話をしていると、やはりクラウドはクラウドだなと感じる」

「え、何それ……やっぱ子どもっぽいってこと?」

「純粋な若者らしいと……そういうことだ」

 非常にヴィンセント的なというか……古風な言い方をした。

 

「ね、ヴィンセント……もうちょっと側、行っていい?」

 いつもなら、一緒のベッドに寝ているときなど、遠慮なく側にくっついて、抱きしめて、できることならそのまま、なし崩し的な展開を期待するのだが、さすがに今はそうは行きそうになかった。

 自分の気持ちよりも、触れられる側の、ヴィンセントの心を大切にしてやらなくてはいけない。それくらいのことは心得ているつもりだ。

 

「……近くに寄ってもいい?」

「……ああ」

 幸い彼は、笑みを崩さず、やさしくそう応じてくれた。

 ゴソゴソと身じろぎし、ヴィンセントの吐息がかかるほどの距離に身を寄せる。身体の一部が密着し、そこから彼の体温がじわりと感じ取れた。

 驚かれないように、細い背にそっと手を回し、静かに抱き寄せたときも、彼は抗いはしなかった。

 

 ……ああ、この大きな身体でヴィンセントを抱きしめると、なんて脆く儚く感じられるのだろう。

 ヴィンセントは細身ではあるが、かなりの長身だ。だが、それでもセフィロスには敵わない。『クラウド』の身体でさえも、その体躯の細さ、脆さを感じるが、『セフィロス』になってみると、その感覚は比べ物にならないほど、強く感じられた。

 やや筋張った華奢な首筋……白くとがった顎……そして夜着の隙間からわずかに覗く、喉から胸元への繊細なライン……

 

 ズキン……と、密着した下半身に、鈍い熱の塊が生まれる。

 ああ、セフィロスの身体は何て正直なんだ、コノヤロー。

 というか、エロイ。まったくもってエロイと言える。自分の身体なら歯止めが利くのに、英雄ヤロウの下半身は、瞬く間にドクンドクンと疼いてくるのであった。

 

(ヤバ……)

 と思いつつ、なんとか身体をずらして誤魔化そうと試みるが、さすがに違和感を感じたのだろう。ふところで大人しくしていたヴィンセントが、不思議そうに顔をあげた。

「…………?」

「あ、ご、ごめん……起こした?」

「いや……どうしたのだ、クラウド? ……あ……?」

 無理に身じろぎした理由を問おうとしたところで、気づいたのだろう。ヴィンセントは語尾に小さな疑問符を付けた。

「あ、あの……クラウド……?」

「ごめん、もう、ホント、セフィはエロイからね、コレ! まったくなんつーの?節操ないってゆーか!」

「……い、いや……」

「……うう〜……」

「や、やはり、少し離れて休もうか……?」

 困惑した面もちで、そう提案されてしまう。それはそうだろう。さすがにこのままなし崩し的に……はいかなそうだ。いかなそうだ……いかない……だろうか?

 

「クラウド…… あの……?」

「う、うん……そ、そうだね」

「大丈夫か……? あの……苦しいのか……?」

 そりゃもちろん、苦しい。

 よくよく考えてみれば、DGの一件からすでに一ヶ月と少し経っているのだ。もちろん、事件直後に求めるような、そんな余裕のない真似はできなかった。

 そのせいだろうか。身体がというよりも、心がヴィンセントを渇望している。白い肌に触れ、その鼓動を確かめたい。そして細い両の腕で、背中に縋ってもらいたい……

 切実なほどに乞い求めている俺が居る。

 

「……ヴィンセント……ごめん、俺……」

「クラウド……?」

「ごめん、なんか我慢できないみたい」

 そう告げた声はひどく切羽詰まっていたのだと思う。それこそ、この場面をセフィロスを見たら、火を噴いて怒鳴りつけられそうなほどに。

「ヴィンセント……やっぱ……嫌? 身体……まだキツイ?」

「……あ、痕が……残っていて見苦しいと……」

 目元を赤く染めながら、ヴィンセントは目を合わさずに、ボソボソとつぶやいた。

「そんなのいいよ、全然気にならない!」

「で、でも……い、今は……」

 そう、今はセフィロスの姿なのだ。

 中身は俺だと言っても、ヴィンセントの目には『セフィロス』が映っている。

 

「……ダメ……? やっぱ俺だってわかってても……嫌?」

「あ……だが……セ、セフィロスの身体なのだし……」

「…………」

「彼の方が……嫌だと思うのではないかと……」

「だって中身、俺なんだよ? セフィロスじゃないんだから」

 滑稽なほど、激しく食い下がった。

 

「セフィロスが触れるんじゃなくて……俺なんだから……」

「だが……」

「目、閉じてくれててもいいから……!」

「ク、クラウド……」

「……ヴィンセント……! やさしくするから……ッ」

 迷うように、俺の胸に……いや『セフィロス』の身体に、突っ張られる腕。それを絡め取りシーツに押しつけ、物言いたげな唇に口づけた。

 貪るようなキスに、ヴィンセントが苦しげに眉を寄せるのも気付かない振りをして……