〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<50>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「いよォ! 美青年! いったいドコほっつき歩いてたんだよ! 探したぜ〜」

 背後から声を掛けられ、私は寄りかかっていた大樹から、わずかに身を起こした。

 コスモスの連中どもからは、大分離れた場所まで跳んだ。ここまでくれば、追われる心配もなかろう。

 

 ところで……こちらに無遠慮に歩み寄るそいつは、気配を消すことさえもしていない。

 そのせいか大分離れた場所にいるにも関わらず、早い内に気がついていた。ただ面倒くさかったから放っておいただけだ。

「よぉよぉ! 目ェ覚めてんだろ?」

 ぐるりと私の前までやってきて、声を張り上げる。

 ……あの子供……ティーダというヤツの父親、ジェクトだ。

 なぜか、こやつもカオスの軍勢から距離をとり、フラフラと自分勝手に動き回っている。

「おいッ? おめぇ、怪我してんのか? どうしたよ、コレ!?」

「騒々しい……耳元でわめくな」

 顔も見ずに、私はつぶやいた。

 本当は怒鳴りつけてやりたいところであったが、喉が干上がっている。どうやら一夜明けて熱が出てきたらしい。

 しらじらと開けてきた空は、ずっと瞑っていた目にはまぶしすぎた。

「ったく、おめぇらしくもねェ。オラ、無理すんな」

 閃光に眉を歪ませた私の反応を、負傷ゆえの苦痛と解釈したのだろう。ジェクトは慌てて肩を押さえた。

 常に騒々しく無頼な輩であるにもかかわらず、その手は羽毛のごとく優しかった。

「無理に動くなよ!傷に響くだろ!」

「……私にかまうな。去れ」

 ふたたび重くなる瞼を叱咤しつつ、低く拒絶する。

「バカ言ってんじゃねェ! そんな深傷負ってるくせに、意地ィ張るなッ!」

 ……騒々しい。

 何を赤の他人の怪我に、大騒ぎしているのやら。

「おい、大人しくしてろや、王子サマ。アンタ、デカイからな。暴れられると落としちまう」

 ふわりと身体が浮いた。

 先ほどまで背に感じていた、樹木の堅い感触が消え、何やら温かなものに包まれた。

「……よけいな……ことを……」

「馬ッ鹿野郎! 大怪我してるくせに、こんなときくらいイイ子にしてやがれッ!」

 あくまでも悪態を吐く私に、ジェクトがまるで子供を叱りつけるような口調で言い返した。

 

 

 

 

 

 

「よォし、着いたぜ。大慌てで跳んできたから、ちっと傷に響いたかもしれねェが……」

「……まったくだ。相変わらず、粗野な男だ」

 素っ気なくそう言ってやった。

「悪ィ、悪ィ。だが、まぁ、ここまで来りゃ、一安心だ。傷薬もあるし、食い物もたっぷりあるしな!」

 手柄顔に宣うジェクトにため息を吐いた。

 肩の傷は軽くない。その自覚は十分過ぎるほどにあった。だが、無理を押してコスモスの連中の屋敷を離れた理由はただひとつ。

 ……あの場に、私が留まれば、遅かれ早かれカオス軍の襲撃を受ける。彼奴らは同胞の匂いに敏感だ。

 魔女を消滅させたとはいえ、まだ何一つ、この世界のからくりはわかっていない。甘ちゃん揃いのコスモスの戦士どもは、まず謎解きを優先させるだろう。

 主戦力のスコール・レオンハートもあのザマだし、むしろその選択は正しい。

 

「……難儀なことだ」

 つい、ぼそりとこぼれ落ちた言葉に、ジェクトが耳ざとく反応する。

「おう、なんだってェ? 腹ァ減ったか?」

「……言っておらん」

「よっしゃ、じゃあ支度してやっから、オメェは裏の湯に浸かってこいや」

「……湯?」

 私は聞き返した。

「おう、多少染みるだろうが、治癒効果のある温泉だ」

「……なるほど、怠惰な貴様が、この場所に居着いた理由がわかった」

 ジェクトに連れてこられたのは、こざっぱりとした山荘のような建物だった。

 部屋の数は少ないが、かえって敵襲には備えやすかろう。

 小屋からの視界は平たく開け、人影など見えようものならすぐに気づくであろうから。

「おうおう、ずいぶんじゃねェか。なにも温泉につられたわけじゃねぇんだぜ。ほら、目の前がまっさらだからよ。なにかありゃ、すぐ……」

「それも含め上で、納得したのだがな」

 やや意地悪くそう言い返してやると、ジェクトは不満げにフンと鼻を鳴らした。

 意趣返しだというのだろう。ズカズカと歩み寄ると、白い包帯で覆われた私の肌をジロジロと眺める。

「おめぇとしたことが何でェこりゃ。ずいぶんと派手に巻き付けてあんじゃあねぇか」

「……手当てした者が、大袈裟であったただけだ」

「ちぃと見せてみろや。場合によっちゃ、湯なんぞ浴びないほうがいいかもしれねェ」

「よけいな世話だ」

 伸ばされた手から身を躱し、言葉を続ける。

「昨夜からずっと外にいたのだ。身を清めたい」

  発熱している今、湯に浸かるのは好ましくないのかもしれないが、とにもかくにも身の汚れを漱ぎたかったのだ。

「しかたねェな。でも、片手が使えないんじゃ不便だろーが」

「……髪を洗うのを手伝え」

 私の言葉に、ヤツは肩を竦めた。