〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<38>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「ホントに……スコールに言われたんスよ。異変に……最初に気づいたのはセフィロスさんで、ひとりで行こうとするのを、スコールが止めた形になったんス。それで、クラウドをオレたちに頼むって……」

「なんだよ、それ! こんな怪我……」

「いや、違うんだ。もう……理由はそれだけじゃないんだ」

 ジタンが目線を背けてつぶやいた。

「なんだよ、もったいぶらずに言ってくれよ! なんで、そんな顔……」

「ジタン、やっぱりちゃんとクラウドには話すべきッスよ。スコールの気持ちはわかるけど、オレだって、クラウドの立場だったら、納得いかないもん」

「……だよな。なんだかんだ言ったって、スコール、一番クラウドと仲良かったもんな」

 ティーダは深いため息を吐き、ジタンはそれに独り言のように応えた。

「……一度出て行ったスコールから、わざわざ連絡があった。敵はイミテーションだけじゃないんだ」

 ジタンの言葉は、まるきり俺の想定外であった。

「え……? なに……?」

「スコールが、自身の力でとどめを刺さなきゃならない相手が来てる」

「イミテーションじゃないって……? これまでずっと旅してきて、セフィ以外とは会っていなかったじゃん」

「……アルティミシアが、道化を連れてやってきている。これはスコールの戦いなんだ」

 ジタンが真っ直ぐに俺を見つめて、そう告げた。

「アイツの敵は、セシルやティーダの相手みたいな関係とは違うからな。何人もの人間を屠った……時間を弄ぶ魔女らしい。必ず正消滅させてやるって言ってたよ」

「魔女…… 魔女・アルティミシアか。話には聞いている」

 旅の途中、ぽつりぽつりと話をしてくれた。スコールの見知った人間たちの中にも、時間の魔女の手によって不幸な最後を遂げた者がいるらしい。

「スコールは根っからの軍人ッスからね。絶対に勝つつもりではあっても、常に最悪の状況は考えているんスよ」

「な、なんだよ、それ…… ティーダ!」

「い、いや、だからッスね…… スコールの性格上……」

「なんだよ、ティーダ! 最悪の状況って……どういう意味なんだよ! そんな予想まで立てているのに、ここでウダウダ言いつけ守って俺を見張ってるの!? ……痛ッ」

「クラウド……」

 思わず怪我をした方の手で、ティーダの胸ぐらを掴み上げてしまった。一瞬激痛が走り抜け、歯を食いしばる。

「スコールの相手は『魔女』なんだろ!? そんなヤツが相手だったら……」

「わかんねーのかッ! おまえはスコールと仲いいだろッ!? もし、スコールがピンチに陥ったら黙って見ていられないだろッ!」

 ジタンに怒鳴りつけられ、すぐさま言い返せなかった。

「飛び込んだ、おまえを狙われたら、スコールは絶対にクラウドを庇う」

「そ、そんなの……それは……」

「そうやっているだけでも、手痛いんでしょ、クラウド? オレ、クラウドのそういうとこすごく好きッスよ。でも、だからこそ、今は側にいかないほうがいい。あれはスコールの戦いッス」

「で、でも……スコールだって疲れてるのに……何も今日じゃなくても……」

「敵襲だからな。時間は選べないさ。……俺だって、いざとなればいつでも……いつでも、兄貴と闘う」

 ジタンが言った。

 だが、彼らの敵は、兄弟であったり、父親であったり…… だったら、何も相手を『殺す』戦いにはならないだろう。

 でも、スコールの相手は違う。

『魔女』なのだ。

 俺とセフィロスのように、和解が可能な間柄ではない。

 絶対悪として君臨する、『時間の魔女』を相手にするのならば、その戦いの終結は必ず、いずれかの死……消滅であるはずだ。

 

 

 

 

 

 

「……でも……でも、スコールの敵は……」

「クラウド? どうしたッスか?」

「……ティーダ! おまえやジタンの相手と違うだろ!? スコールの戦いは、どっちかが、完全に消去されるまで、だ。断末魔の叫びを上げて、『死ぬ』まで徹底的に殺し合うんだろ……!?」

「クラウド……」

 困惑した様子で、俺を見つめるティーダ。彼は今にも泣き出しそうに見える。

「オレにはよくわかんないッス。でも、スコールがそう決めたことであるなら、邪魔はできないッス」

「……『時の魔女』って言ってたからな。人でさえない」

「そうだろ!? 兄弟や親が相手とは違うんだ! 力を見せ合えばいいってもんじゃない。どっちが上かをはっきりさせれば終わりってんじゃない。相手の息の根を止めるんだ……!」

 痛み出した手を抱くようにして、俺は叫んだ。ズクンズクンと脈打ち、熱を帯びて行く。

 そう……この包帯は、昨夜眠る前にスコールが代えてくれたんだ。見知らぬ場所に放り込まれ、セフィロスに敵対された俺にとって、彼は心の支えだった。

『大丈夫だ』『安心しろ』

 彼の低くてやさしい声に、どれだけ励まされてきたことか。

 眠れない夜に、側についていてくれて、どれほど心強かったことか。

「……それに記憶の謎のこともある。ラグナさんも言っていたけど、この世界はおかしなことばかりだ。その謎を解いてからって……」

「でもな、クラウド。もし、その謎が解けたとしても、スコールは『魔女』を倒す決意に変わりはないそうだ」

 申し訳なさそうにジタンが言った。きっと彼らもスコールと多少の問答はしたのだろう。

 だが、その決心が固いと見取って、それ以上、止めることはできなかったのだ。

「必ず戻ってくるからって。だから怪我をしているクラウドは、無理をしないでここで待っていてくれって…… そう言ったんスよ」

「それによ、アシストにはセフィロスさんがついている。あの人の強さは、俺ら以上にクラウドのほうが知ってるだろ?」

「……セフィが…… そうか……」

 ぼんやりと俺はつぶやいた。

 昨日まで……いや、つい昨晩、新しい仲間も加わり、にぎやかに夕食をとったのに。

 ラグナさんが寝室割のくじを作ったり…… スコールがそれを無理やり押しのけ、強引に俺とセフィを同室にして……

 寝る前に、湿布を代えて包帯してくれて…… いつものとおりの不器用だけど、穏やかなスコールがいたのに!!                              

 

「……どこで……戦ってるの…… スコール」

「おい、だからダメだって! 俺たちの話、聞いただろ!」

「わかってる!」

 叱りつけてきたジタンの物言いに、覆い被せるように叫んだ。

「わかってる! スコールを信じる……! セフィも一緒なら、尚のこと……信じるよッ! だから、祈りたい。少しでも俺の力がふたりに伝わるように」

「クラウド……おまえ……」

「わかってる。『神頼みかよ、バカ剣士』って言われるところだよな。でも、何もできないなら……かえって、側に行くことが足手まといになるなら、祈るしかないじゃんか! 俺の恋人は、これまで何度も家族のために祈ってくれた。……だからせめて……俺も同じようにしてみたい」

 わずかな間隙の後、ふたりは合わせたように小さなため息を吐いた。

「……この屋敷の裏庭ッスよ。まぁ、だだっ広いし、戦うには良い場所だよな」

「ありがとう、ティーダ!」

 教えてくれたティーダに、礼を言う。

「でも、約束ッスからね、クラウド。ここで大人しく待っててくれよ」

 そのときであった。

 玄関門のほうで、ガシャーンと物の割れる音が響いた。びくりと背が震える。

「ティーダ、そろそろ表が騒がしくなってきたぜ」

「ラグナさんたちだけじゃ、キツイっすかね。イミテーションの数が増えたのかも。行くか、ジタン」

 あたりまえのように立ち上がるふたりだ。思わず一緒にベッドから腰を浮かばせかけたが、強い目線に押さえられる。

「大人しく待っててくれよな、クラウド」

「手が治ったら存分に暴れりゃいいだろ。今は俺たちに任せておけ!」

 それぞれ得物を手に、飛び出してゆく。

 俺は歯がみする思いで、その後ろ姿を見送った。