〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<10>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

「はぁッ!」

 一気呵成のイキオイで、セシルのランスが敵の影をつらぬく。

 この土地は、カオスの支配が及んでいる場所だ。気を抜くとあっという間に『影』につけこまれる。

「チッ……キリがねェ」

 ジタンが舌打ちした。

 さきほどからの連戦で、皆体力を消耗しているのだ。特に小柄なジタンにとってはダメージが激しいのだろう。どれほど剣の技術が優れていても、体力というのは肉体に比例する。彼のパワーでガーランドやゴルベーザのような巨体とやり合うには、あまりにも不利だ。

「おい、ここは走り抜けるぞ。まともに相手をするな!」

 俺は皆に声を掛けた。無意味な影との戦闘で、体力を削る必要はない。

「了解ッ!」

 ひょいと軽く身をこなし、ジタンが走り出した俺に続く。

「クラウド、来いッ! セシル、大丈夫か!?」

「わかった!」

「ああ、すまない。ありがとう」

「俺には言ってくんないんスか!」

 と、ティーダ。相変わらずテンションの高いヤツだ。

 俺たちは、黒い霧の立ちこめる不気味な廃墟を一斉に走り抜けた。

 先頭をジタンが跳ぶ。その後を俺、ティーダ、クラウド、セシルの順に続いた。

 今少しでこの土地を抜けられる……そう感じた瞬間……

 

 ジタンの小柄な身体が、ものすごいイキオイではじき飛ばされた。

「あうッ!」

 悲痛な叫びに、俺はほとんど無意識のうちに地を蹴っていた。彼の身体が荒れた大地に叩き付けられる寸前に、なんとか抱き止め、そのままスライディングの要領で体勢を立て直したのだ。

 わずかな間隙で、安堵の息を吐く俺の頭上から、低い……だが、どこか蠱惑的な響きがこぼれ落ちてきた。

「ふっふっふっ……またおまえか……」

 殺気を感じ、ジタンの身体を抱きかかえたまま、俺は横飛びに身を躱した。

 ただ声を聞いただけなのに……首筋に氷をあてがわれたような強烈な悪寒が背中を走った。

 この邪悪な『気』……圧倒的な重さと深淵を感じさせる、覚えのあるそれ……

「セ……セフィ……」

 傍らのクラウドが、震える声で彼の名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 目の前に立ちはだかるのは、長い銀の髪をした長身の男だった。

 『影』ではない。実体だ。

 クラウドだとて、いずれこういった形で接触があるとは覚悟していたはずだ。だが、いざ、目の前に当の人物が立ちはだかると、その決意が崩れそうになるのだろう。

 普段は赤みがかった健康的な頬が、みるみる色を失ってゆく。

 剣を手にしていても、迷いが見て取れる。

 ……いや、彼の気持ちを考えれば、ごく当然のことだろう。

「……フフフ、クラウド。会いたかったぞ」

 声音だけはやさしい……氷のような物言い。

「……セフィ……なんで、こんなところに居るんだよ…… カオスの軍勢に与する理由なんて何にもないだろ?」

「……理由? 簡単なコトだ」

「え……?」

「おまえがコスモスの戦士なら、カオス側に居れば必ず会えると……そう考えた」

「ど、どうして…… 会ってどうするっていうんだよ」

 クラウドがしゃべっている間に、セシルに頼んでジタンを安全な場所へ移動させてもらう。今のメンバーで、唯一回復術を扱えるのは、パラディンの彼だからだ。

「……おまえは、私に会いたかったのではないのか?」

「……あ、会いたくなかった……こんな世界では……!」

「私に会うために、つらい旅をしていたのだろう?」 

 むしろ同情するような、やさしげな物言い……

「お、俺…… そう……あのときはそうだったけど…… 今はもう……」

「ククク……そうか、ようやくおのれの力の限界に気づいたというわけか」

「セフィロス……?」

 クラウドの声が掠れて震える。

「ふふふ、いいだろう。おまえが私の元に戻ってくるというのなら、他の者どもも見逃してやろう。……ああ、そんな怯えた目をする必要はない。昔に戻るだけだ……共に在った過去へ……な」

 クラウドの蒼い瞳よりも、ずっと色の薄い氷のような双眸が、彼を射すくめる。じっと凝視していたら、身も心も……魂さえも魅入られてしまう。

 ……彼とは無関係のこの俺でさえ、意識していないと、目線を外せなくなるのだ。

「クラウド、引け」

 俺はするどく命じた。そうしなければ、今のクラウドの耳には届かないと思ったから。

「ス、スコール……?」

 びくびくと彼が俺を見る。

「言っただろう。……無理に相手になる必要はない」

 俺の言葉に、セフィロスが改めてこちらを見た。

 もろに目線が交錯する中、俺は丹田に力を込め、真っ向から彼をにらみつけた。