とある日常の風景。 
〜神羅カンパニー with クラウド〜
<夜の部>
 セフィロス
 

 

 

 

21:10

 

「あ……セフィ。あの、ごめんね、こんな時間に……約束もしていなかったのに」

「そんな気遣いは無用だといつも言っているだろう。ほら、早く入れ」

 手に大事そうに小さな包みを持っている。

 その背に手を添え、私は室内に促した。

「セフィロス、もしかして、もう寝るところだった?」

「いや、特にすることもないからな。寝転がっていただけだ」

「そ、そう。あ、ねぇ、お茶淹れてあげるね。これ……セフィの好きだって言ってたお茶、買ってきたの」

 そういうと勝手知ったるキッチンルームに入っていった。

 すぐに香ばしい薫りが漂ってくる。

 

 クラウドの淹れてくれた茶は、以前一緒に出掛けたチャイナタウンで口にしたものであった。

 ジャスミンの芳香が鼻腔をくすぐり、豊潤な薫りが喉を過ぎる。

 このあたりではなかなか手に入らないものであった。授業が終わった後、わざわざこれを買いに出掛けたというのだろうか。

「……覚えていてくれたのか?」

「もちろん!」

 白い頬をピンク色に染め、にっこりと笑うクラウド。

 ああ、いかん。下半身が……

「……あのさ……今日、セフィロス、助けに来てくれたんでしょ?」

「……は……?」

「だ、だから……語学の時間…… 俺が当たるかも知れないって言ってたから……様子見に来てくれたんでしょ?」

「あ、ああ、その話か」

 クラウドの話し言葉には時折主語が抜けるのだ。

「ごめんね。……お昼、ひどいこと言って」

 しゅんとしてつぶやくクラウド。

「いや……」

「セフィ、俺のこと心配してくれてるのに。ザックスは俺たちのこと知ってるけど……ちょっと恥ずかしかったから……キツイ言い方しちゃって」

「いや、私のほうこそ、すまなかった」

 すんなりとそんな言葉がでる。

「ううん、セフィがあやまる必要ないよ。俺がいつまでもダメダメだから、心配かけちゃうんだよね」

「そんなことはない」

「でもね、俺、早く一人前になりたいの。セフィと一緒に……対等……まで行くのはすごく時間かかるだろうけど、でも、がんばって任務の手助けができるようになりたいの」

「今だって十分頑張っているではないか」

 おまえが居るからこそ、私は一刻も早く仕事を片付けたいと思うわけだから、結果的にクラウドのおかげで神羅は利を得ている事になるはずだ。

「う、ううん。今のまんまじゃまだまだダメ。ザックスみたいに早くソルジャーにならなきゃ」

「クラウド……」

「だからセフィも俺を特別扱いしないで。俺がダメなときはちゃんと叱って」

「…………」

「あッ、いけない。もう消灯時間! ごめんね、長居して。カップ片付けるから……」

「クラウド……」

 思わず小さな白い手を引く。

 いきおいに任せて彼の身体がふところに倒れ込んでくる。

「セフィ! 汚れちゃうよ」

 カップを持ったままだったせいだろう。

 クラウドは、上目遣いでメッというようににらんできた。

「クラウド、私が好きか?」

「もう、何言ってんだよ、セフィは!」

「な……私のことが好きだな?」

「も、もうッ! す、好きだよッ 好きに決まってるじゃない!」

 トマトのように真っ赤になって、怒った口調で言い返すクラウド。

「…………」

「……どうしたの? 変なセフィ……」

「……何でもない」

「そんならいいけど……じゃ、俺、もう行くね! 消灯時間過ぎちゃうし」

「泊まっていけばいいではないか。上官の許可証が必要なら、私が書いてやる」

「もうッ、セフィってば! それが特別扱いでしょ!? 俺、セフィが甘やかしてくれると、ダメダメなんだもん。すぐ頼りたくなっちゃうから」

「日々の鍛錬と学問で甘やかさなければいいだろう?」

「セ、セフィってば……」

 もう一度、ギュッと抱きしめる腕に力を入れると、今度はクラウドも逆らわなかった。

  

 昼間の第二ラウンドの続きだ……

 

 小さな顎に指をかけ、そっと上向かせる。

 ルーファウスなどよりも、ずっと澄んだマリンブルーの瞳が、やわらかく閉じ合わされ、小柄なこの子は背伸びをする。

 遠いところにあった唇が重なり、それをさらに深くしようと舌をうごめかせたとき……

 

 

21:50

 

「ウィース!」

 ドガン!と蹴飛ばされる扉の音。

「あ、ザックスー! 迎えに来てくれたの?」

 ……迎えにとは……?

 どうしてわざわざこの部屋に?クラウドを迎えにくる意味は?

 私は心の中で、ザックス相手にシャドーボクシングをした。

「おまえが言ったんだろ。戻ってこなかったら声掛けてって」

 な、な、な、なんだとーッ!?

「う、うん。ごめんね、セフィ。また俺、セフィに甘えちゃうところだった。すぐ流されちゃうんだよね」

 コンコンと自分の頭をこづいてみせて、クラウドははにかみながらそんな風に言った。

「じゃ、セフィロス、おやすみなさい。お邪魔してごめんね」

「んじゃーな、セフィロス」

 クラウドがふりふりと片手を振ってみせ、ザックスはこちらを見もせずに手を軽く挙げる。

 

 パタンと扉が目の前で閉まった。

 

 ……私とクラウドの恋路は、前途多難である。

 

 22:30。

 ……消灯……(独り寝)

 

 

 

 終わり