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〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&セフィロス〜
<6>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 午後7時30分。

『食事だ』と言って、タークスの奴が……いや、ヴィンセントといったか、黒髪の男が呼びに来た。そのすぐ後にクラウドの声が聞こえる。

『ちょっ、ヴィンセント!……俺が呼びに行くのに! 言ったろ、セフィロスと二人きりになるなよ!』

 ……無礼な。

 私があの痩せぎすの男に何かすると思っているのか。まだまともに顔を見て、話すらしていないというのに。

 

 だが、食事のタイミングは上出来だ。私はちょうど目覚めたところだった。

 この肉体の欠点は、自らの身体であるせいか、普通の人間のように、腹が減ったり疲労したり煩わしいことが多い。リユニオンすれば私は精神体のみなので、そういった一切のことは、別次元と切り離せるのだが。

 

 服を着替えて食堂に行く。

 こんなところで食事に文句を言っても仕方がないと思っていたが、なかなかどうして手の込んだ料理がテーブルに並んでいる。私の席とおぼしき場所へ勝手に腰を下ろす。

「冷めないうちに食べてくれ」

 陰気なタークス……ああ、いつもコイツの名前が出てこない……ヴィンセントがそう言った。

 クラウドは料理が苦手だったはずだ。

 となると、これらはこの男が作ったものということになる。

 

 言われるがままに、スプーンを手にとり、まずは湯気を立てているコンソメスープをひと匙すくってみる。

「…………」

 無言の私をクラウドが見ている。

「どうよ?」

 と、得意そうに訊ねてくる。

「……ああ、美味い」

 ホッと微かに安堵の吐息をつくヴィンセント。しかしずいぶんとオドオドした奴だ。堂々とすればよいものを、作ったわけでもないクラウドのほうが偉そうにしているのが滑稽だ。

「これはおまえが作ったのか」

 私はヴィンセントに声をかけた。

「あ、ああ……」

「そうか、取り柄はあるのだな」

「あ、ありがとう」

 コイツに皮肉は通じないのか? ぼんやりとした男だ。

 

 黙々と食事を続ける私を含んだ三人。さすがに鬱陶しく気詰まりだ。

「おい、クラウド、何か話せ」

 私は言った。

「何かってなんだよ」

「黙って食っていると気詰まりだ」

「誰のせいだと思ってんだよ、誰の! ……おかわり!」

「私のせいだとでも言うのか? おかわり」

 ヴィンセントが二枚目のステーキを私たちの皿の上に盛りつける。

「ちょっと、アンタ、少しは遠慮したらどうだよ?」

「おまえこそ、チビのくせに食い過ぎると太るぞ」

「なんだと! 俺だってあの頃よりずっと……」

「そうだな。あの当時、おまえのことは片腕で抱き上げられたからな」

「そう言うことをいうなッ!」

「ふ、ふたりとも、まだあるからゆっくり……」

 おどおどとつぶやくヴィンセントを横目に、私とクラウドはガシガシと料理を食らった。……しかし、こいつの料理は本当に美味い。肉なぞ誰が焼いても同じだと思っていたが、そんなことはないらしい。素材もなかなかいいものを選んでいるようだし、焼き加減も好ましい。

 

「う……腹いっぱい、ごちそうさま」

 クラウドが言った。あたりまえだ、私と競って量を食えるか。身長にウエイト、はるかに私の方が上なのだから。

 三杯目のスープを飲んでいると、ふとヴィンセントが目に付いた。

 気に入らないことだが、席を同じくしてよくよく見ると、この男、たいそう整った造形をしている。

 カラスの濡れ羽色、といった表現が的確であろう、しなやかな黒髪。両の瞳はルビーのような深紅。肌は透き通るように白く、ナイフとフォークを手繰る指が女のように細い。上背はそれなりにあるのに、あまりそう見えないのは華奢すぎる身体つきのせいだろう。

 だが、それよりなにより、私は、奴と我々との決定的な相違に気づいてしまった。

 

「……おい、ヴィンセント」

「え? な、なにか……」

「もう食わんのか?」

「あ、ああ、もう十分だ」

 ……いや、十分と言われても……

 ステーキは半分も残っているし、ライスも綺麗に半分残されている。スープとサラダだけは食べ終えていたが、到底、男の食事の量ではない。

「……貴様はどこか病んでいるのか?」

「え? いや……そんなことは……」

「大の男がそんなもので足りるはずがないだろう」

「……い、いや……でも……その……」

 困ったように言いよどむ。イライラする奴だ。

「おい、セフィロス、からむなよ。ヴィンセントはアンタと違って少食なんだよ」

「少食とかそういうレベルじゃないだろう」

「……ま、確かに俺も心配なんだけどさ」

 ちらりとクラウドがヴィンセントを見る。すると奴は困惑したようにうつむいてしまった。心の底から苛ついてくる。

「な、ヴィンセント、ホントにもういいの? なんか好きな食べ物とか、ない? 欲しいものがあったら、仕事の帰りに買ってこられるし、遠出してもかまわないんだぞ?」

「い、いや、もともと私はあまり食べられる方ではないから……」

「そう? メニューだって、俺に合わせないで、アンタの好きなものでいいんだからな?」

「あ、ああ、問題ない。心配しないでくれ、クラウド」

「……ふぅ、だが料理は美味かった。食事の時間が楽しみになりそうだ」

 私は言った。これは本音だ。ヴィンセントの顔がパッと輝く。たやすい男だ。

 

「ったく、ホント、図々しいんだよ、アンタは」

「フン」

「ク、クラウド、風呂に入ってきたらどうだ?」

 慌てた様子で言うタークス、もといヴィンセント。どうも、こいつは私とクラウドが衝突するのを回避したいらしい。

「うん、後かたづけ手伝うから、終わったらね」

「い、いや、今日はそれほど多くないから、それより先に風呂を済ませてくれ」

「……わかったよ。おい、セフィロス。ヴィンセントの邪魔をするなよ?ヴィンセントに手を出したら許さないからな!」

 ビシッと指をつきつけて言うクラウド。無礼千万だ。

「いいかげんにしろ。私にだって好みはある」

「ヴィンセントは綺麗だろッ!」

「ク、クラウド! やめ……ッ」

「そんなガリガリの身体を抱く趣味はない」

「失礼なことを言うなッ! その細っこいところがまたいい……」

「クラウド! ほら、はやく行けッ!」

 いたたまれないのか、追い出すようにクラウドをダイニングの外に押しやった。