とある日常の風景。 
〜コスタ・デル・ソル with 銀髪三兄弟〜
<夜の部>
 クラウド・ストライフ 
 
 

 

 

 

18:10

 けっこう長湯をしてしまった。もう18時を回っている。

「兄さん、ヤズー、遅いよ〜。ふたりともお風呂入ってたんだね」

「ああ、カダは?」

 ヤズーはすぐに弟のことを訊ねた。

「うん、部屋で寝てるよ。さっきまで兄さんたちのこと待ってたんだけど」

「そうか。おまえたち、ちゃんと髪も洗っただろうな」

「うん、ヤズー」

「それならいい。時期夕食だからな。間食するなよ、ロッズ」

 厳しい口調でそういうヤズー。なんとなくロッズにはあたりがきついような気がする。

 めずらしくも、小さなあくびひとつこぼすヤズー。

 

「な、今夜はデリバリーにしないか、ヤズー。疲れただろ」

「別に平気だけど……」

「今日は朝から付き合ってもらいっぱなしだし。たまにはゆっくりしてくれよ」

「……まぁ、兄さんがそういうなら」

 微かに照れたように彼はそうつぶやいた。

「わーい! 出前? 好きなの取っていい?」

 ロッズがはしゃぐ。ただのデリバリーサービスだが、とにかくいつもと異なるだけで楽しいのだろう。子どもと同じだ。

「かまわないさ。カダージュが起きたら決めればいい」

「カダ、起こしてくる」

「おいおい、まだ早いだろ」

 さっそく動き出すロッズに声をかける。

「兄さん、お腹空かないの?」

「さすがにまだだ。昼が遅かったしな」

 不満そうな顔をするロッズだが、おとなしくデリバリーサービスのメニューを片手に居間で検討に入るのだった。

 ちなみにロッズは今朝と似たような服装……タンクトップとシャツの重ね着にハーフパンツだ。ヤズーは俺の貸した浴衣。きっとカダはもうパジャマだろう。

 

 

20:00

 晩飯終了。

 デリバリーのピザ。シーザーサラダだけは、待ち時間にヤズーが手早く作ってくれた。

 Lサイズ5枚があっという間に無くなる。ひとり一枚ちょいの勘定だが、さすがに俺はまるまる一枚など食いきれない。余りはほとんどロッズがかたづけたといっても過言ではないだろう。

 意外にもヤズーはよく食べる。食べなくても平気らしいのだが、食べるときにはかなりの量をこなせるのだということだ。つくづく面白いヤツだ。

 

 一眠りしたせいか、食事中は元気なカダージュであったが、腹がふくれたら、またウトウトしている。

 まだ早い時間だ。

 俺は、仕事の準備……とはいっても、明日配送予定の地域のルート確認をする。大分慣れてきたが、頼まれ物が多いときは能率良くこなさなければならない。

 ロッズは、テレビの前に陣取って、アニメのDVDを見ている。つられるような形で、半分眠っているカダージュもおとなしく鑑賞している。

 ヤズーは、日課のキッチンの掃除を終えると、読みかけの本を持ってソファに。

 

 

22:30

 少し早いが、そろそろ休むことにする。今日は一日外に居たのでけっこう疲れた。

「兄さん、一緒に寝よう!」

 案の定、カダージュが枕を持ってやってくる。

 まぁ、カダは三人の中では小柄だし、別にかまわないのだが。それより、ここまでなつかれると、ヴィンセントが戻ってきた後のことが不安になる。ヤズーはその前に帰ると言っていたが……

 そんなことを考えながら、上の空で返事をする。

「ああ、別にかまわないが」

「今日は何のお話しようか?」

「なんでもいいよ。おまえが話したいことで」

 俺は言う。なんとなく優しい気持ちになる。

「えー、またカダ、兄さんと一緒に寝るの? ズルイよぅ!」

「おまえの図体じゃベッドに入りきらないだろ」

 ヤズーに諭されて、不満に頬を膨らませながらも、ロッズが室に引っ込む。

「じゃ、おやすみ、兄さん」

「ああ、おやすみ、ヤズー」

「じゃあね、おやすみ、ヤズー」

 俺とカダージュはそう告げ、室に引き取った。なんとなくまだヤズーと話をしていたい気分だったが、仕方がない。いつでも機会はあるだろう。

 

 ベッドに入ると、カダージュは枕の位置を何度も直し、ようやく落ち着く。とは言っても俺にぴったりくっついてくるので、あまり枕の位置は関係ないと思うのだが。

「眠いんだろ、カダージュ」

「うん……でも、ちょっと目、覚めてるよ?」

 幼い物言いに、ミッドガルに居た子どもたちのことを思い出す。

「……ねぇ、兄さん」

「ん?」

「今日、ヤズーとずっと話してたね。ヤズーも普段あんまりしゃべんないのに。……ヤズー、兄さんのこと、好きなのかなぁ」

 ……どういう意味の好きを指して言っているのか。

 好感を持たれているということについては、三兄弟同じなのでは無かろうか。皆、「兄さん、兄さん」と側によってくるわけだし。わざわざ、こんな場所……コスタデルソルくんだりまで、やってくるんだから。

「さぁ、どうだろうな。嫌われてはいないんじゃないか?」

「きっと好きなんだよ、ヤズーも、兄さんのこと。ロッズもだけどね。でも、僕が一番兄さんのこと好きだよ。ヤズーより、ロッズより、兄さんのこと大好きだよ? 他のだれにも負けないくらい兄さんのことが好き」

 まっすぐに目を見つめられてそう言われると、さすがに照れてしまう。

「あー、はいはい。俺もおまえたちのことは好きだよ」

「ちゃんと、『カダージュのことが好き』って言ってよ」

「カダのことが好きだよ。これでいいか」

「うん!」

 彼は素直に頷いてくれた。彼らは、思念体という不安定な存在のせいか、妙に大人びたところと子供じみた部分を持っている。

「やれやれ。そういうおまえだって、ヤズーやロッズのこと好きだろ」

「もちろん。あー、でもロッズはうるさいし、すぐ泣くし、わがままだし。でもまぁ、嫌いじゃない」

「おいおい。ロッズはいいヤツだぞ。素直で」

「……わかってるよ」

 酷い言われようだ。カダージュに、「わがまま」と評されてはたまったもんじゃないだろう。

「ヤズーは好き、大好き。ヤズーは綺麗でやさしいんだよ」

「そうだな」

「ヤズー、あんまりしゃべんないんだよね。だから今日、兄さんとずっと話してたの見て驚いた」

「ああ、おまえたちと一緒にいるときも、無口なのか」

「うーん、無口っていうか……そうなのかな。めんどうくさそうなんだよね。必要があるときとか、興味のあることじゃないと、なにも言わない」

「なるほどね」

「ねぇ、兄さんは誰が好きなの? セフィロス?」

 なんでそこで彼の名が出てくるんだか……あながち外れでもないと感じてしまうのがつらい。

「どうしてセフィロスが出てくるんだよ」

「えー、なんとなく。ホラ、僕たち、つながってるからさ。僕、リユニオンしちゃったし。あのとき、セフィロスの感情みたいなのが、ドーッて流れ込んできてさ」

 ……ちょっと、それはくわしく聞いてみたいような気もするが、聞くのが怖いような気もする。

「そ、そうなのか」

「うん。他のふたりは何となく『感じてる』だと思うけど、僕は直接コンタクトしたようなモンだから」

「ああ、身体、平気なのか?」

「ぷっ……何言ってるの? そんなのはもう全然なんともないよ」

「それならいいんだけど……」

「兄さん、やっぱりやさしいね」

 そう言ってカダージュはにこりと微笑んだ。十代の少年の笑顔だった。

 

 

23:15

 時計を見ると、23時を過ぎている。

 

「セフィロスさ、兄さんのことずっとずっと考えてたよ。他の人たちのことなんて頭になかったな。母さんと兄さんのことばっかり」

「……そうか」

「うん」

「……セフィロス」

「でも、僕、セフィロスは嫌い」

「え?」

「嫌いだよ。ヤな奴」

「ええ? なんでそう思うんだ?」

「わかんない。でも嫌い」

 カダージュの返答は端的で、その反面不明確だ。

「……まぁ、気持ち、わからなくもないけどな」

 俺は言った。

「セフィロスって、自分のことばっかだよね」

「ははは」

「自分さえよければそれでいいって感じ」

 正直、カダージュも同じだと思うのだが、憤慨した様子でそう言う彼は、妙に年相応で可愛らしく見えた。あえて反論せずに言葉を待つ。

「なんか、兄さんのことも、自分の思い通りにできると思ってるみたい」

「……ああ、奴はトップソルジャーで、英雄って呼ばれてたような人間だから」

「でも、今はそうじゃないでしょ。神羅もなくなってるんだから」

「それは理屈だよ、カダージュ。セフィロスの味方をするつもりは毛頭ないけど、あいつにはあいつの理由があるんだろう。思い出の中でじっとしてて欲しいけど、そうはいきそうにないな」

「……兄さんって、セフィロスとどんな関係だったの」

 ……またこの兄弟は似たようなことを!

 今日は厄日なのだろうか。揃いも揃って……

 だが、逡巡した俺を、カダージュの次の一言が吹っ飛ばす。

 

「っていうか、リユニオンしたとき、記憶見えちゃったからさ。なんとなくわかるけど」

「ええっ!? 見えたって……」

「ほら、あのときの僕、セフィロスだったわけだから」

「見たって何を……」

「神羅時代のこと……いろいろ」

「…………」

「だいじょうぶ。ヤズーたちには言ってないよ」

「いや、もう……ちょっ……オマエ……」

「真っ赤だよ。兄さん、可愛い。きっとセフィロスも兄さんのこと可愛かったんだろうね」

「よせよ、昔の話だよ。あのころ、俺、14、5才だったから……あ〜、もう、ちょっと……おまえに見られたかと思うと……ダメだ、死にそう……」

 俺は文字通り、布団に突っ伏した。

「いいじゃない、別に。僕はなんか得した感じ。セフィロスしか知らない兄さんを、少しだけ知ることができたから」

「ああ、もう、おまえな! 言うなよ、他の奴には! 絶対だぞ!」

「わかってるよ。でも、ヤズーとか、そんなに驚かないと思うよ。まぁ、ヤズーが驚いたところ、見たことないけどね。ロッズは言っても意味わかんないと思うし」

「…………」

「やだなぁ、そんな顔しないでよ、俺のこと信じらんないの?」

 いけしゃあしゃあというカダージュである。つい先だってまで、「裏切り者」とまで言っていたくせに。

「まぁ、いいや。じゃあ、兄さん、僕たち、またここに来てもいい?」

「え? ああ、そりゃもちろん……」

「ホントはずっと一緒に居たいんだけど……」

「…………」

「ヤズーがダメだってさ。兄さんには兄さんの生活があるからって」

「……俺はお前たちと一緒に居る時間、好きだぞ」

 俺は言った正直な気持ちだった。

 嬉しそうに笑ったカダージュが、なんだか本当の弟に見えた。