The beginning of Autumn
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
Interval 〜05〜
 セフィロス
 

 

 

 
 

 

 

 

「ただいまー……と、おっと、ヴィンセント、まだ眠ってるんだ」

 軽いノックの後、イロケムシが顔を出した。クラウドのガキも一緒に覗きに来る。見るからに心配そうな面もちが可愛らしくさえ見える。

「セフィ、ヴィンセント、どんな様子? 熱下がった?」

 クラウドが訊ねてきた。

「……さぁな。今朝からずっと眠りっぱなしだ」

「そうか……なんだかすごく疲れてるみたいだね。家事……負担だったのかなァ」

「そういう問題じゃないだろ。身体より心の方だ」

 オレがそう答えると、イロケムシがじっとこちらを見た。それに気付かぬ振りをして立ち上がる。

「クラウド、交代だ。おまえが付いていてやれ」

「え、う、うん」

「ただし、くっつき過ぎるなよ」

「なッ……わ、わかってるよ!」

 

 そんなやり取りをしているときだった。

 騒がしくはなかったろうが、ポッカリとヴィンセントが目を開けた。先ほどのように悪夢にうなされた様子ではない。

 

「……あ……? みん……な?」

 ぼやけた視界にオレたち三人が映ったのだろう。掠れた声でそうつぶやいた。

「ヴィンセント、目が覚めた? ……具合どう?」

 すかさずイロケムシが側に近寄り、濡れたタオルを取った。

「……ん……今朝より……ずっといいような気がする」

「そう、よかった。よく眠れたようだったね。セフィロスがずっと付いててくれたんだよ」

「え……?」

 吃驚したように小声をあげると、ヤツの紅い瞳がびくびくとオレを見た。

 

「……疲労が溜まっていたようだな。タオルを取り替えてやっても微動だにしなかった」

「あ、あの……ありがとう…… まさか……君が居てくれたなんて」

「フフン。……おまえの部屋は整然としていて居心地がいい。一緒に眠ってしまいそうになった」

「そ、そうか……そう言ってもらえると……嬉しく……思う」

 白蝋の頬に微かに朱みが差した。

 

「ねっねっ、ヴィンセント! 何か食べられそうッ? して欲しいことない?」

 むしゃぶりつくように側にくっついて行くクラウド。まったく学ばないヤツだ。勢いづいてヴィンセントの手を握りしめ、ヤツに小さな悲鳴を上げさせた。

「……あ……ッ……痛……」

「ほら、もう! 兄さん、乱暴にしないでって言ったでしょ?」

「みゅんみゅん!」

 いつの間にか子猫のヴィンまでもがやってきて、一緒にクラウドを責める。

「あ、ご、ごめ…… つい……」

「……大丈夫だ、クラウド。すまない、いつもおまえには心配ばかり掛けてしまって……」

「ううん、そんなことないよ。ゴメン、俺、ホント乱暴みたいで」

「今頃気付いたのか、クソガキ」

「ちょっ……セフィになんて言われたくないッ!」

「あー、ほらほらケンカしないの」

 イロケムシが適当に仲裁に入る。

 

「さーて、もうお昼過ぎだね。ヴィンセントも少しでいいから、なにかお腹に入れないとね。薬飲まなきゃならないし」

「あ、ああ……」

「スープとフルーツなら食べられそうかな。準備できるまでちゃんと横になっててね」

「あ……ヤズー……すまない。もう大丈夫だから」

「ダメダメ。お医者さんにも言われてるんだからね。しばらくはベッドの中で我慢してて。じゃ、後はよろしくね」

 さっさと踵を返すヤズーの後につく。

「じゃあな、クラウド。ちゃんと看ていろよ」

「みゅんみゅん!」

「わかってるよ! エッラソーにセフィのバカ! ヴィンもうるさいぞ!」

 

「……あ……ッ……」

 クッションを背に、寄りかかっていたヴィンセントが、小声を上げる。わずかに持ち上げられた手。

 なんとなく物言いたげな様子でオレを見つめる。

「ヴィンセント?」

 クラウドも気付いたのだろう。不思議そうに問いかけた。

 

「……どうした?」

 茶化すような言い方にならぬよう、多少なりとも気を使いながら声を掛けてやる。

「……あ……あの……いや……なんでも……」

 おずおずと空に浮いた手を戻す。

「…………」

「……すまな……い……ありがとう、セフィロス」

 意識は無かったが、悪夢の余韻を引きずっているのだろうか。オレが側を離れることに、何となく不安げな様子を示す。こいつは正気なときと、無意識下のギャップが激しい。

 

「……やれやれ。来い、ヴィン」

 足元をうろついていた子猫のヴィンを呼んでやる。すぐさま小さな身体がぴょんと飛び跳ね、オレのふところに潜り込んできた。

「どけ、クラウド、交代だ」

「ええッ? ちょっ……どうしてよ! オレ、まだここに来たばっかり……」

「仕方ないだろ。今度はこいつの番だ」

 チビ猫をぴょいと持ち上げ、そう言ってやる。当のヴィンセントは、吃驚したまま眺めているだけだ。

「みゅんみゅん!」

「……ちっ……もう、わかったよ!わかりましたよ、コノヤロー! その代わり、ゴハン食べさしてあげんのは俺の役目だからな! 譲らないからなッ!」

「さっさと行け、ホレ。イロケムシの手伝いでもしてこい、チョコボ野郎」

「くっそー! クソクソ! セフィのバカ! 覚えてろ!」

 ブツクサと文句を言いつつも、クラウドはおとなしく退場した。おそらくヤズーに指摘された事柄が効いているのだろう。