宇宙を超えた恋だから <1>
「もし、およろしかったら、みなさまもご一緒にいかが?」
やや、とまどいがちな笑みを浮かべて、控えめに声をかけてきたのは、青い衣の女王補佐官であった。
「せっかくお運びになられたのですから。お食事だけでも」
女王にもろもろと言い含められている部分もあるのだろうが、美しい貴婦人の誘いを断る必要もなかった。
月に一度の定例会議。
もちろん、聖地に滞在している、皇帝レヴィアスの部下も同席する。もっぱらの議題は、侵食された宇宙の浄化、つまり生態系の修正についての話し合いが中心だからである。
もっとも、皇帝の部下たち全員が参列できるわけではない。彼らは、日々、数ある惑星に分散して滞在し、浄化を手がけているのだ。全員揃うというのは、まれであった。
だが、今日の朝議に出席できたのは、キーファーとカインだけで、ふたりだけというのは、これまた稀なことである。
「.....女王補佐官殿、お気遣いありがたく思います。ですが.....」
率直なところ、面倒くさがり屋のキーファーである。ましてや、未だに敵方と目している守護聖一同と、団らん会食するのはあまり気が向かないようだ。
「まぁまぁ、よろしいではございませんの。今日は立食形式なのです。お気遣いは不要ですわよ」
ここまで言われては、断る理由もない。
ことに、人間関係に、角を立てるのを案じる、黒衣の参謀カインは、穏やかな微笑を浮かべ、
「では、少しだけ.....お相伴させていただきます」
と、こたえた。俯きがちに視線をずらし、ツンと顎をあげたままの、キーファーの横顔を見やった。
「わかりました。お招き嬉しく思います」
ロザリアに、儀礼的な口上を述べると、静かに衣の裾を引いた。
青真珠色の長衣が微風を起こし、ふわりとはためく。銀箔の縫い取りが、やや冷ややかな印象を与えるが、黄金の髪をした彼の容貌には、むしろ、寒色系をメインにもってきた衣装の方が映えるようであった。
「まったく.....女王とやらも、めでたいが、守護聖ご一同さまも、ずいぶんとお人好しだ。かつては、互いに命を狙いあったというのに.....」
気性の激しいキーファーが、吐き捨てるようにつぶやいた。
「殺戮を好んだのは、我らの方だ。まちがえるな.....」
カインがささやく。
光の守護聖の姿を借りた皇帝参謀が、きっと睨みつけるが、黒髪の麗人の表情は変わらなかった。
「なーっ、なーっ、そこでこの光の守護聖がな〜っ!」
「ジュリアス、騒々しいぞ、食べてから話せ」
「まぁまあ、クラヴィス様、よろしいではございませんか.....それからジュリアス様、いかがなさいましたの?」
「そういうおまえは、リュミエール! さっきから、ほとんど食ってないじゃないか! 駄目だぞ、ただでさえ、そんなに細っこいのに!」
「オスカー.....十分にいただいております.....」
「やれやれ、まったく騒がしいことですね」
ふぅと吐息して、キーファーが言い捨てた。それをどう解したのか、
「キーファー.....退屈なら、私に構わないで、御方々のところへ行ってくればいい。私は話し下手だし、一緒にいてもつまらないだろう」
と、カインが言った。
思わずキーファーは苦笑する。
美しい黒髪の想い人は、どうしてこうなのだろう。まったく、的外れな気遣いをみせる。
カインが一緒でなければ、女王に誘われても、茶会などに顔を出したりしない。大切な黒衣の恋人.....少なくともキーファーはそう思っている。その彼が「行く」といったから、同行しているのだ。そのあたりのことなど、まるきり考えを及ぼさない。
「いいえ、とても楽しいですよ。カイン」
「そうか、ならば.....よいのだが.....」
「やれやれ.....咽喉が渇きませんか?」
と、キーファーはたずねた。
「ああ、うむ.....だが、酒は.....」
「わかっています。ジュースかなにかもらってきましょう」
カインは酒を飲まない。飲めるのか飲めないのかは、本人でさえわからないのだが、「飲みたい」と思ったことがないから、飲まないのだ。カインにとっては、至極当然の理由であった。
ガラガラガシャーン!
派手なグラスの砕ける音に、カインがそちらを振り返った。
「うわっ、どうしたのだ? キーファー?」
光の守護聖が真っ先に立ち上がった。
「キーファー.....?」
キーファーらしくもない。衣の裾に足を取られたのだろうか。
だが、それはやはり、カインの思い過ごしであったようだ。
「キーファー?」
側にいた水の守護聖があわてて、黄金の青年の腕を取った。
だが、彼は立ち上がらなかった。
「動かしてはいけません!」
ビシリと、指摘したのは、ふだんはおっとりとした地の守護聖ルヴァであった。滑るように倒れ伏した金の髪の青年に近寄ると、静かに片膝を着く。
「地の守護聖様.....いったい.....」
カインの声がかすれる。
ルヴァは返事をせずに、キーファーの脈を取る。その拍子に、キーファーの肩がぴくりと震えた。
「.....う.....?」
「キーファー? 気がついたのか.....どうしたのだ?」
と、カイン。
「真っ青ですよ、キーファー? 気分がお悪いのですね?」
リュミエールが、立ち上がろうとした、キーファーの腕を支えた。
「ええ.....ちょっと、めまいが.....」
よろりと足がもつれる。なんといっても、ジュリアスと同じ体躯だ。ささえるのも、リュミエール一人では無理だ。すぐに、カインが腕を取る。
「う.....すみません.....カイン.....」
白皙の額を、冷や汗がつたう。
「はいはい、とりあえず、部屋に戻って休みましょう〜、落ち着いてから、軽く何か食べて、診察しましょうね〜」
こういうときは、ルヴァの落ち着いた口調が頼もしい。
「キーファー、歩けるか? 部屋へ.....」
「ええ、大丈夫.....」
「.....オスカー、キーファーを」
水の守護聖の耳打ちに、オスカーがうなずく。
「ちょっと、失礼」
そういうと、炎の守護聖は、ひょいとキーファーを抱き上げた。
「ああ、あの.....炎の守護聖殿.....」
「しばらく我慢してくれよ、キーファー。オレの天使があんたのことを心配してるんだ」
そう、とにかく、彼にとっては、ツルの一声ならぬ、リュミの一声であった。