宇宙を超えた恋だから
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「もし、およろしかったら、みなさまもご一緒にいかが?」

 やや、とまどいがちな笑みを浮かべて、控えめに声をかけてきたのは、青い衣の女王補佐官であった。

「せっかくお運びになられたのですから。お食事だけでも」

 女王にもろもろと言い含められている部分もあるのだろうが、美しい貴婦人の誘いを断る必要もなかった。

 

 月に一度の定例会議。

 もちろん、聖地に滞在している、皇帝レヴィアスの部下も同席する。もっぱらの議題は、侵食された宇宙の浄化、つまり生態系の修正についての話し合いが中心だからである。

 もっとも、皇帝の部下たち全員が参列できるわけではない。彼らは、日々、数ある惑星に分散して滞在し、浄化を手がけているのだ。全員揃うというのは、まれであった。

 だが、今日の朝議に出席できたのは、キーファーとカインだけで、ふたりだけというのは、これまた稀なことである。

 

.....女王補佐官殿、お気遣いありがたく思います。ですが.....

 率直なところ、面倒くさがり屋のキーファーである。ましてや、未だに敵方と目している守護聖一同と、団らん会食するのはあまり気が向かないようだ。

「まぁまぁ、よろしいではございませんの。今日は立食形式なのです。お気遣いは不要ですわよ」

 ここまで言われては、断る理由もない。

 ことに、人間関係に、角を立てるのを案じる、黒衣の参謀カインは、穏やかな微笑を浮かべ、

「では、少しだけ.....お相伴させていただきます」

 と、こたえた。俯きがちに視線をずらし、ツンと顎をあげたままの、キーファーの横顔を見やった。

「わかりました。お招き嬉しく思います」

 ロザリアに、儀礼的な口上を述べると、静かに衣の裾を引いた。

 青真珠色の長衣が微風を起こし、ふわりとはためく。銀箔の縫い取りが、やや冷ややかな印象を与えるが、黄金の髪をした彼の容貌には、むしろ、寒色系をメインにもってきた衣装の方が映えるようであった。

 

「まったく.....女王とやらも、めでたいが、守護聖ご一同さまも、ずいぶんとお人好しだ。かつては、互いに命を狙いあったというのに.....

 気性の激しいキーファーが、吐き捨てるようにつぶやいた。

「殺戮を好んだのは、我らの方だ。まちがえるな.....

 カインがささやく。

 光の守護聖の姿を借りた皇帝参謀が、きっと睨みつけるが、黒髪の麗人の表情は変わらなかった。

 

 

「なーっ、なーっ、そこでこの光の守護聖がな〜っ!」

「ジュリアス、騒々しいぞ、食べてから話せ」

「まぁまあ、クラヴィス様、よろしいではございませんか.....それからジュリアス様、いかがなさいましたの?」

「そういうおまえは、リュミエール! さっきから、ほとんど食ってないじゃないか! 駄目だぞ、ただでさえ、そんなに細っこいのに!」

「オスカー.....十分にいただいております.....

 

「やれやれ、まったく騒がしいことですね」

 ふぅと吐息して、キーファーが言い捨てた。それをどう解したのか、

「キーファー.....退屈なら、私に構わないで、御方々のところへ行ってくればいい。私は話し下手だし、一緒にいてもつまらないだろう」

 と、カインが言った。

 思わずキーファーは苦笑する。

 美しい黒髪の想い人は、どうしてこうなのだろう。まったく、的外れな気遣いをみせる。

 カインが一緒でなければ、女王に誘われても、茶会などに顔を出したりしない。大切な黒衣の恋人.....少なくともキーファーはそう思っている。その彼が「行く」といったから、同行しているのだ。そのあたりのことなど、まるきり考えを及ぼさない。

「いいえ、とても楽しいですよ。カイン」

「そうか、ならば.....よいのだが.....

「やれやれ.....咽喉が渇きませんか?」

 と、キーファーはたずねた。

「ああ、うむ.....だが、酒は.....

「わかっています。ジュースかなにかもらってきましょう」

 カインは酒を飲まない。飲めるのか飲めないのかは、本人でさえわからないのだが、「飲みたい」と思ったことがないから、飲まないのだ。カインにとっては、至極当然の理由であった。

 

 ガラガラガシャーン!

 派手なグラスの砕ける音に、カインがそちらを振り返った。

 

「うわっ、どうしたのだ? キーファー?」

 光の守護聖が真っ先に立ち上がった。

「キーファー.....?」

 キーファーらしくもない。衣の裾に足を取られたのだろうか。

 

 だが、それはやはり、カインの思い過ごしであったようだ。

  

「キーファー?」

 側にいた水の守護聖があわてて、黄金の青年の腕を取った。

 だが、彼は立ち上がらなかった。

 

「動かしてはいけません!」

 ビシリと、指摘したのは、ふだんはおっとりとした地の守護聖ルヴァであった。滑るように倒れ伏した金の髪の青年に近寄ると、静かに片膝を着く。

「地の守護聖様.....いったい.....

 カインの声がかすれる。

 ルヴァは返事をせずに、キーファーの脈を取る。その拍子に、キーファーの肩がぴくりと震えた。

 

..........?」

「キーファー? 気がついたのか.....どうしたのだ?」

 と、カイン。

「真っ青ですよ、キーファー? 気分がお悪いのですね?」

 リュミエールが、立ち上がろうとした、キーファーの腕を支えた。

「ええ.....ちょっと、めまいが.....

 よろりと足がもつれる。なんといっても、ジュリアスと同じ体躯だ。ささえるのも、リュミエール一人では無理だ。すぐに、カインが腕を取る。

「う.....すみません.....カイン.....

 白皙の額を、冷や汗がつたう。

 

「はいはい、とりあえず、部屋に戻って休みましょう〜、落ち着いてから、軽く何か食べて、診察しましょうね〜」

 こういうときは、ルヴァの落ち着いた口調が頼もしい。

「キーファー、歩けるか? 部屋へ.....

「ええ、大丈夫.....

.....オスカー、キーファーを」

 水の守護聖の耳打ちに、オスカーがうなずく。

「ちょっと、失礼」

 そういうと、炎の守護聖は、ひょいとキーファーを抱き上げた。

「ああ、あの.....炎の守護聖殿.....

「しばらく我慢してくれよ、キーファー。オレの天使があんたのことを心配してるんだ」

 そう、とにかく、彼にとっては、ツルの一声ならぬ、リュミの一声であった。